コラム:細野真宏の試写室日記 - 第66回
2020年3月17日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第66回 試写室日記 「一度死んでみた」。豪華キャストによるコメディ映画の一方で、実は「松竹×フジテレビ」によるリベンジ作品! CMクリエイターと映画の相性は?
2020年1月23日@松竹試写室
本作「一度死んでみた」で私が注目していたのは、豪華キャストに加えて、脚本家と監督でした。
まず、キャストは初のコメディ映画主演の広瀬すずが「反抗期こじらせ中の大学生で、売れないデスメタルバンドのボーカル」という、これまでとは全く異なる役柄に挑戦しています。
そして、広瀬すずの父親役で「科学オタクの、製薬会社の変人社長」を堤真一が演じます。
さらには、その製薬会社で「存在感ゼロのゴースト社員」を吉沢亮が演じています。
堤真一は、これまでの様々な作品でのコメディセンスの実績があったので何の心配もしていなかったのですが、やはり安定の面白さでした。
その一方で、これまで「コメディ要素」とはほぼ無縁だった広瀬すずと、「存在感ゼロ」とは対極にあった吉沢亮の2人については、正直、見るまでは不安がありました。
まず、広瀬すずは、初めてのコメディ映画とは思えないほどの、はじけっぷりでした。「海街diary」から早6年。さすがに、もう「演技派」の域ですね。
そして、吉沢亮ですが、当初は、「どうせ『あのコの、トリコ。』パターンになるんだろう」と予想していました。
「『あのコの、トリコ。』パターン」というのは、2018年10月5日に公開された吉沢亮主演の「あのコの、トリコ。」のことで、映画やマンガでは定番の、メガネを取る前は「冴えない人」なのに、メガネを外したら「イケている人」になるというものです。
あの時に見ていて少しつらかったのは、主演の吉沢亮がメガネを外す前からイケていて、「これを存在感なしとする設定は無理があるなぁ…」と思った経験があるからです。
吉沢亮といえば、女性ファッション誌で「国宝級イケメンランキング」で1位になり殿堂入りしているほどなので、まぁそれも致し方ないと思っていましたが、本作「一度死んでみた」では驚きました。
出番はメインの一人なので当然多いのですが、良い意味で本当に存在感がなかったのです!
さすがは本年度の日本アカデミー賞において「キングダム」で秦王・嬴政と漂の一人二役を演じ分け「助演男優賞」を受賞しただけのことはありますね。思えば、「空の青さを知る人よ」でも長編アニメーション映画の声優初挑戦にも関わらず、31歳の「慎之介」と高校生の「しんの」を驚くほど上手く演じ分けていました。
このようなメインキャストに加えて、本作では、かつて見たことのないほどの勢いで豪華キャスト陣が、次から次へとカメオ的な「贅沢な使い方」をされています。
おそらく、こういう仕掛けができるのは、脚本家と監督の特殊性にあると私は思っています。
まず、本作の脚本家はソフトバンク「白戸家」シリーズなどを手掛けるCMプランナーの澤本嘉光で、監督はKDDI「au 三太郎」シリーズなどを手掛けるCMディレクターの浜崎慎治という異色コンビになっているのです。
テレビのコマーシャルは、15秒や30秒という厳しい時間の制約の中で、よく頑張っていると以前から思っていますが、私は「その延長線上にこれらのスタッフによる映画もあり得るのではないか?」という仮説をずっと持ち続けていました。
その意味で、本作「一度死んでみた」の脚本家が同様に脚本を手掛け2014年1月11日に公開された妻夫木聡と北川景子のダブル主演作「ジャッジ!」からの流れを知っておくと本作の立ち位置を考えやすくなると思います。
この「ジャッジ!」という映画は、私は割と好きな作品でした。
しかも、「東宝×フジテレビ」というパターンが多い中、「松竹×フジテレビ」というコンビも興味深いものがありました。
この「ジャッジ!」の監督は、サントリーBOSS「ゼロの頂点」シリーズなどのCMディレクターの永井聡で、本作「一度死んでみた」と同様にCMクリエイターによる映画だったのです。
おそらく興行収入的に見ても、世間的には「ジャッジ!」の評価はそれほど高くないようですが、コメディ要素も楽しく主題歌のサカナクションの「アイデンティティ」も良かったりと、私の評価は結構高かったのです。
ただ、どうもこの作品は、公開が近くなってきても認知度が低く盛り上がりに欠ける空気を感じていました。
そこで、どうしたらこの作品の面白さが伝わるんだろうか、と考えてみましたが、なかなか上手い方法を見つけられませんでした。
この「ジャッジ!」という作品は、“優れたテレビCMを決める世界最大の広告祭”を舞台にしたコメディ映画です。
そして、この時の私は新聞の広告大賞の審査委員長をしていて、授賞式には、電通、博報堂などの広告代理店のクリエイターや、大手企業の社長や広報部のトップなどがホールにぎっしりと集まります。「テレビCMの原点には新聞広告がある」というのが私の持論なので、ひょっとしたら情報の先端にいるはずの彼らも興味を持ってくれるのでは、と「審査委員長の挨拶」の場で無理やり公開前の「ジャッジ!」の話もしてみました。が、不発でした…(笑)。
残念ながら興行収入は5.8億円という寂しい結果に終わってしまったのです。
とは言え、映画業界内の評価は悪くはなかったようで、その後に「ジャッジ!」の永井聡監督は、東宝の作品の監督に抜擢され、2017年の「東宝×フジテレビ」の「帝一の國」では興行収入19.3億円を記録したのです!
このような流れがあるので、本作「一度死んでみた」は、いわば「松竹×フジテレビ」によるリベンジ的な作品でもあるわけです。
本作「一度死んでみた」では、要となる音楽はヒャダインが担当しています。
余談ですが、私は「久保みねヒャダこじらせナイト」という、「ほぼ月1の不定期で金曜深夜3時過ぎ頃」(東京の場合)にフジテレビ系で放送されている(世間的にはニッチな)番組が気に入っていて、金曜の深夜にチェックして「あ、今日はやっている」と気が付いたら見ているのですが、その番組では即興で曲を作ったりもするので、きっとこういうノリで作られた曲なのかな、と想像できました。
ひょっとしたら、広瀬すずが「反抗期こじらせ女子」を演じるので、「こじらせ」の歌ならヒャダイン、となったのかもしれないですね。
現時点の宣伝では、広瀬すずが歌うバンドの、頭を激しく上下に振りながら「デス!デス!デス!デス!」と連呼し、「うるさいデス! しつこいデス! あれしろこれしろイラつくん、デス!」と父親への心の声を叫びまくるデスメタルバンド“魂ズ”の楽曲「一度死んでみた」しか出ていないようですが、本編の後半くらいで流れる化学の元素記号に関連した「す~いへいりーべ、ぼ〜くの船〜♪」といった歌も、なかなか味わいのある曲だと思います。
本作の舞台は製薬会社で、「2日間だけ死んじゃう薬」をめぐるコメディ映画です。コメディ要素を全面に出す形で丁寧に作られているので、予備知識はゼロでOKな作品です。
メイン以外でも、広瀬すずの亡くなった母親役の木村多江のぶっ飛んだ演技など見どころは多数ありますが、意外とネタバレにもつながりやすいので、詳しくは劇場でご確認ください。
さて、肝心の本作の興行収入ですが、そもそも「コメディ映画は日本ではヒットしにくい」という定説もあって、それを安定的に見事に打ち破れているのは、三谷幸喜監督や、本年度の日本アカデミー賞で最多12部門ノミネートを果たし監督賞と脚本賞などを受賞した「翔んで埼玉」の武内英樹監督あたりを筆頭に、「ヲタクに恋は難しい」の福田雄一監督くらいでしょうか。
「テレビCM」と「映画」のハードルの高さは意外と違いそうですが、本作「一度死んでみた」は両者の垣根を超えて、なかなかイイ線を行っていると思います。
欲を言えば、「翔んで埼玉」くらい斬新な破壊力があるとベストでしたが、コメディ映画としてのクオリティーは高めだと思います!
「ジャッジ!」よりも豪華キャスト陣なので、興行収入は「ジャッジ!」超えの6億円は最低でも行ってほしいですが、映画業界が新型コロナウイルスの影響下にあるという不幸な状況では、果たしてどこまでコメディ映画の力を発揮できるのか未知数です。
本来的には興行収入10億円が目安だと思っていましたが、この状況下では8億円に行ければ合格なのでは、と思っています。
今後も日本のCM業界からの新しいセンスが映画業界に流れていくと、また新たな科学反応が生まれていくと思うので、映画業界の活性化のためにも今後もこの流れには大いに注目していきたいと思っています!
そのためにも、何としても本作「一度死んでみた」をできるだけ多くの人たちに楽しんでほしいと思います。
上映時間は93分なので、テンポの良さも含めて見やすい作品となっています。いよいよ今週の3月20日(金)の祝日から公開デス!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
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Twitter:@masahi_hosono