コラム:細野真宏の試写室日記 - 第154回
2022年1月6日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第154回 「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」は過去のスパイダーマン映画が好きな人も満足できる最終章!
まず、最初に結論から書きますが、今週末1月7日(金)に公開される「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」の完成度は非常に高いと思います。
ここ数年見たハリウッド映画ではダントツの出来栄え。「ここまで手放しで褒められる作品はどれくらいぶりだろう?」と考え込んでしまうほどです。
すでに公開されているアメリカでは、コロナ禍においても「アベンジャーズ エンドゲーム」に次ぐ歴代2位のスタートを切り、公開から3週連続1位の座を保ち、歴代興行収入ランキングも既にベスト10入りし、どんどん順位を上げていっている最中なのです!
日本ではアメコミ映画は大きなブームにはなりにくいのですが、世界では2019年に「アベンジャーズ エンドゲーム」が歴代興行収入ランキング1位に輝く(2021年に中国で「アバター」が再上映され、現在は歴代2位)など、「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)関連作品を中心にアメコミ映画がかなりの人気作品となっています。
ただ、そんな日本においても「スパイダーマン」シリーズの人気は異彩を放っています。
2002年からソニー・ピクチャーズが手掛けたサム・ライミ監督×主演トビー・マグワイアによる「スパイダーマン」の3部作は、その象徴と言えるかと思います。
まず2002年公開の「スパイダーマン」は興行収入70.58億円を記録しています。
そして2004年公開の「スパイダーマン2」は興行収入65.9億円を記録し、しかも作品のクオリティーも非常に高く、アカデミー賞で視覚効果賞を受賞しています。
さらに3部作の最後となる2007年公開の「スパイダーマン3」では、日本での人気の高さからソニー作品初の「東京ワールド・プレミア」を実施し、サム・ライミ監督やキャストらが来日しました。さらには世界最速上映まで決定し、興行収入72億円を記録しています。
このように、2000年以降の日本における「スパイダーマン」の人気はハリウッド映画では特筆すべきものがありました。
ただ、2012年の「リブート」から少し変化が起こってきています。
マーク・ウェブ監督×主演アンドリュー・ガーフィールドによる「アメイジング・スパイダーマン」の形で公開されましたが、こちらは作品の出来がなぜか良くありませんでした(ファンの方、すみません)。
私はマーク・ウェブ監督のデビュー作「(500)日のサマー」は、スタイリッシュな映像や音楽など非常に好きな作品なので期待はしていたのですが、いきなりの超大作の起用に無理があったのかもしれません。
そもそも映像云々より脚本に難があり、サム・ライミ監督バージョンからはだいぶ劣った仕上がりとなっていて、日本での興行収入は31.6億円となり、世界興行収入でも落としています。
そして、2014年の「アメイジング・スパイダーマン2」では、日本での興行収入は31.4億円となり、世界興行収入はさらに落としています。
このように、ここまでは日本と世界の動きはほぼ連動していたのです。
ただ、ここから「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)の流れが関わり、日本と世界の動きに乖離が見られるようになってきています。
まず、「アメイジング・スパイダーマン」は、さらなる続編を作る流れがありましたが、MCU関連作品の世界的な大ヒットを受け、2015年にソニーとマーベルは、今後のスパイダーマンはMCU関連作品として作ることを発表したのです。
そして、「アメイジング・スパイダーマン」は中途半端な形で打ち切られることになり、2017年にジョン・ワッツ監督×主演トム・ホランドによる「スパイダーマン ホームカミング」として生まれ変わりました。
このMCU関連作品となった2017年「スパイダーマン ホームカミング」、2019年「スパイダーマン ファー・フロム・ホーム」は評価も高く、世界興行収入も右肩上がりで伸びています。
ところが、なぜか日本では「スパイダーマン ホームカミング」の興行収入が28.0億円、「スパイダーマン ファー・フロム・ホーム」が30.6億円のように伸び悩んでいるのです。
これは、3つの要因があるのではと私は考えています。
1つ目は「アメイジング・スパイダーマン」の不調によりファンの離脱が出た点。
2つ目は、主演のトム・ホランドが童顔すぎて「対象年齢が下がった」ような印象が出ている点。
3つ目は、MCU関連作品となることで単体の作品として見にくくなっている点。
これは、認めないといけない事実だと思いますが、それでも今回の「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」は、かつてスパイダーマンを見た人には是非とも見てほしい作品なのです!
まず、1つ目の「アメイジング・スパイダーマン」で離れてしまった人たちも、今回の作品では満足できると思います。
それは、サム・ライミ監督バージョンのように(いや、それ以上に)、脚本が非常に良く出来ているからです。
私は、2000年以降の実写版のスパイダーマン映画では、2004年の「スパイダーマン2」が最も出来が良いと思っていたので昨日に見直してみました。その結果、やはりスパイダーマン映画は「アクション映画」である一方で、「恋愛映画」であると実感しました。
この深い人間模様もスパイダーマン映画の大きな魅力。その根本を今回の映画でも再認識できます。
次に2つ目の、トム・ホランドが子供っぽい印象について。当初は確かにありましたが、もう随分と成長しています。
まさに「最終章の本作」が、ちょうどサム・ライミ監督×主演トビー・マグワイアによる全盛期の「スパイダーマン」時代と被る印象となっています。
最後に3つ目の、MCU関連作品となることで複雑化してきている、という点ですが、これはマイナス要素だけでなくプラス要素もあると思います。
今回は、ドクター・ストレンジというMCU関連作品のキャラクターの登場により、時空がゆがみます。
これは、単体のスパイダーマン映画では難易度の高い設定ですが、ドクター・ストレンジが関わることで自然な世界観になるわけです。
しかも、ドクター・ストレンジのことを知らなくても、「あ~こういう魔術が使えるキャラクターがいるのね」という感じで見ることも可能です。
実は、私はトム・ホランドの「スパイダーマン ホームカミング」と「スパイダーマン ファー・フロム・ホーム」は、スパイダーマン映画であるのは間違いないのですが、MCU関連作品の色合いが濃くなり、心のどこかで何か違和感を覚えていた面もあります。
そして、やっと本作こそが「スパイダーマン映画」という思いになりました。
「アベンジャーズ エンドゲーム」は、10年間の様々な作品の集合体の終結として世界中の多くの人たちを惹きつけました。
その意味で言うと、「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」は、これまでの20年間の「スパイダーマン映画」の集合体として世界中の多くの人たちを惹きつけていると思います。
実際に、本作では予告編のように、サム・ライミ版の「スパイダーマン」やマーク・ウェブ版の「アメイジング・スパイダーマン」からの敵も登場しますし。
個人的には、“地球から人口の半分が消え去り、5年後に元に戻った”「アベンジャーズ エンドゲーム」は、全ての作品を見ていましたが、関係する作品が多すぎて、やや盛沢山な印象もありました。
その点では、「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」は、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という「スパイダーマン映画」の根本的な骨格があるので必ずしも全ての作品を見ていなくても満足度は高いかと思われます。
「アベンジャーズ エンドゲーム」はゴールデンウィーク期間の公開で10連休もあったので、突然変異のように日本での興行収入は61.3億円を記録しました。
一方「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」は大型連休はないのですが、「日本での本来のポテンシャル」は、同等か、それ以上あるはずなのです。
ただ、冷静に分析すると、20年間に及ぶ、かつてのライトなスパイダーマンファン層に気付いてもらうのは容易ではないとも感じています。
例えば、「アベンジャーズ エンドゲーム」の際にはテレ朝のプライムタイムで「アベンジャーズ」と「アベンジャーズ エイジ・オブ・ ウルトロン」の連続援護射撃があり、WOWOWでは前作「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」の無料放送まで行われました。
このような地上波を中心とした援護射撃は空気感を作り出す上では最適で、今回それがなかったのは「アベンジャーズ エンドゲーム」よりも条件的には不利でしょう。
また、10連休のような大型連休がないことに加え、再び新型コロナの影響が出始めるタイミングとなり、そこもマイナス要素にならざるを得ない点もあります。
そのため、まずは興行収入40億円が最初の大きな目標になるのでは、と思われます。
なお、字幕版と吹替版の両方が用意されていますが、これは文字通り「甲乙つけがたい」という結果で、可能なら2つとも見るのをおススメしたいです。
吹替版の良さを挙げると、笑いの箇所は、吹替版の方が分かりやすく面白い、ということがありました。
また、エンドロールに関して言及すると、吹替版では「SixTONES」の歌が流れますが、これは入る位置も含めて良かったです。
エンドロールが始まると、字幕版も吹替版も英語版の歌が流れ、その後で「オマケ映像」が流れます。
その「オマケ映像」の後には、字幕版は割と単調な音楽が続くだけで、吹替版は「SixTONES」の歌が流れ、その後で字幕版の音楽が続く構成でした。
なお、エンドロール後にも映像は続くので席は最後まで立たないようにしましょう!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono