成瀬巳喜男

四谷坂町に生まれる。工手学校（現工学院大学）を中退し、1920年に小道具係として松竹キネマ蒲田撮影所に入社。2年後に助監督部へ。30年に短編「チャンバラ夫婦」を36時間で撮り上げ監督デビュー。34年に新興のPCL（のちに東宝と合併）に移籍。初のトーキー「乙女ごころ三人姉妹」「妻よ薔薇のやうに」（ともに35）などを監督。女性主人公の語りを取り入れるナラタージュという技法を定着させた。37年「妻よ薔薇のやうに」の主演・千葉早智子と結婚（40年に離婚）。戦時下は「鶴八鶴次郎」（38）などの芸道もので才気を見せた。

戦後、東宝労働争議からフリーになり、51年に林芙美子の絶筆を映画化した「めし」が高評価（キネ旬年間第2位）を得る。「おかあさん」（52）、「妻」（53）、「山の音」（54）などを経て55年に代表作「浮雲」を発表。毎日映画コンクールなど各映画賞を総なめにし、小津安二郎をして「俺に出来ないシャシン」と言わしめた。その後「女が階段を上る時」（60）、「放浪記」（62）、「乱れる」（64）などを発表、生涯で89本を監督した。67年、体調を崩した中で秋田ロケが行われた「乱れ雲」が遺作となった。69年に直腸ガンのため63歳で死去。

高峰秀子を始め、杉村春子、田中絹代、香川京子、司葉子、原節子といった女優たちとの仕事でも知られる。繊細で抑制の効いた演出と、深い人間理解を示す語り口は海外でも研究が進み、アキ・カウリスマキ、ダニエル・シュミット、レオス・カラックス、エドワード・ヤンがファンを公言、今なお世界的に評価されている。