坂下雄一郎×中川龍太郎 コンペティション部門“初選出”の思いを語る【第38回東京国際映画祭】
2025年10月15日 12:00

第38回東京国際映画祭が、10月27日から11月5日にかけて東京・日比谷、有楽町、丸の内、銀座エリアで開催される。今年のコンペティション部門には108の国と地域から1970本の応募があり、選出された15本のうち、日本映画は坂下雄一郎監督の「金髪」、中川龍太郎監督の「恒星の向こう側」の2本が名を連ねた。ともに初選出となった両監督が取材に応じ、思いや抱負、映画祭への期待を語っている。
坂下監督の「金髪」は、前代未聞の集団金髪デモに立ち向かう“イタい中学校教師”の奮闘を通して、日本独特のおかしな校則、教師のブラックな職場環境、暴走するSNSやネット報道という社会問題をシニカルに描く。
(C)2025 映画「金髪」製作委員会オリジナル脚本も手がけた坂下監督は、「いわゆるブラック校則を題材に、管理する教師側の視点からコメディにしたいという、漠然としたアイデアから始まった」と振り返り、「映画祭について勉強不足なのもあり内容がコメディなので、コンペティション部門向きではないのかなと思っていました。ですから、ちょっと意外だなと思いつつ、やはり、うれしい気持ちです」と喜びを語る。
主演の岩田剛典が演じる、自分が“おじさん”になっていることに気が付かない教師像も笑いを誘い、「校則に加えて、主人公の30代男性が抱える独特な悩みや苦しみも、ある意味で、とてもドメスティックな内容なので、海外のお客様がどんな反応を示してくれるのか楽しみ」と期待も。

皮肉と笑いを交えながら、社会に切り込む姿勢は、議員秘書の視点から地方の選挙戦を描いた「決戦は日曜日」(2022)にも通じるものがあり、「そういった作品って、海外にはたくさんあると思うんですが、日本映画には少ないのかなと。その分、やりがいもチャンスもあると思っていて、日本の監督がこんなことにチャレンジしているのかと思ってもらえれば……。そんな“企み”もあるんです」と、自身の作家性を分析する。
中川監督は、若い才能の発掘を目的とした「日本映画スプラッシュ部門」に、「愛の小さな歴史」(14)、「走れ、絶望に追いつかれない速さで」(15)が2年連続出品されており、「なけなしのお金で作った自主映画ですから、当時、選んでもらったのは驚きでした。東京国際映画祭は、自分を映画監督にしてくれた入口であり、“親”のような存在でもあります」としみじみ。およそ10年の歳月を経て、コンペティション部門への“凱旋”が実現し「また戻ってこられてうれしい」と感慨深げに語った。
(C)2025映画「恒星の向こう側」製作委員会コンペティション部門に選出された最新作「恒星の向こう側」は、余命わずかの母と、その関係性に葛藤を抱く娘の“喪失と再生”を詩的なビジュアルで描き出すヒューマンドラマだ。第36回東京国際映画祭「ガラ・セレクション部門」に正式招待された「MY (K)NIGHT マイ・ナイト」(23)で描いた、母娘のエピソードを「さらに膨らませ、自分の中でもう少し追求したい」という思いから、着想が生まれたそうだ。
福地桃子が主演を務め、母親役には映画監督の河瀨直美がキャスティングされており、「母親役については、名だたる女優さんたちがアプローチしてくださったんですが、僕の中では、河瀨さん一択。個人的にも、いろいろ勉強させていただき、お世話になっていますし、福地さんや共演する寛一郎くんもそうですが、“演じる”ということに真剣に向き合える人がこの作品に必要だったので」と起用の理由を説明した。
学生時代の卒業制作を「日本映画スプラッシュ部門」にエントリーした経験があるという坂下監督は、「残念ながら、上映は叶いませんでしたが、それからは“見る”側として、興味がある作品を見るために、足を運んだ」と東京国際映画祭に対するイメージを語る。

「特定の期間で、これだけまとめて、いろんな映画が見られる機会はないので、映画祭をきっかけに、映画を見る人が増えるといいなと思います」と期待を寄せ、「上映後のティーチインも、映画祭ならでは。いろんな意見を聞けるのも楽しみ」だと語った。今年は、坂下監督のもう1本の新作である「君の顔では泣けない」が、ガラ・セレクションで公式上映されることも決定しており、観客との意見交換の場も増えそうだ。
中川監督は「交流を目的にしたパーティもあるので、参加してみるのも良いかもしれません」と、坂下監督と話した。「僕も以前、参加したパーティにトラン・アン・ユン監督がいらっしゃっていて、かなりときめきました。意外と映画監督同士って、交流する機会がないですもんね。これをきっかけに、坂下監督ともぜひ意見交換したいです」と、映画祭の意義を語った。
また、「映画祭は、プログラマーの選ぶ世界の地図がそこにあると思います。市山さんの選定が素晴らしいので、新しい東京国際映画祭の魅力を感じてもらえたら嬉しいですね」と、プログラミング・ディレクターを務める市山尚三氏に全幅の信頼を寄せていた。

坂下監督:1本目はコンペティション部門で上映される「雌鶏」(パールフィ・ジョルジ監督)ですね。以前、この監督の「ハックル」(02)という映画を見たんですけど、しゃっくり(題名はハンガリー語で、しゃっくりの意味)が止まらないおじいさんのお話で、とても変わった、個性的で実験的な映画だったので、ぜひ新作も見てみたいです。
それと以前、東京国際映画祭(22年・第35回)で「エドワード・ヤンの恋愛時代」のレストア版を見たんです。今年は監督の遺作になってしまった「ヤンヤン 夏の想い出」の4Kレストア版が特別上映されるそうなので、ぜひ見てみたいと思っています。
中川監督:気になるのはコンペティション部門の「虚空への説教」(ヒラル・バイダロフ監督)ですね。それにドキュメンタリー(リティ・パン監督の「私たちは森の果実」)がコンペ入りしているのも、意義深いと思います。ドキュメンタリーは、いつか自分も挑戦したい分野なので。
それと個人的に驚いているのが、ポール・シュレイダー監督の「MISHIMA」。ずっと、日本では見ることができなかった作品で、僕は中学時代に、どうしても見たくて、海外からビデオを取り寄せたんですよ。
■開催期間:2025年10月27日(月)~11月5日(水)
■会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区
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