愚か者の身分 : 特集
【好きで、好きで、たまらない一作に出合いました。】
感情移入が止まらない。闇社会でもがく3人の若者は
ここから抜け出すことができるか――北村匠海×林裕太
×綾野剛の青春と絆が、愛おしくて、狂いそうになる。

その作品とは、北村匠海×林裕太×綾野剛が共演し、第30回釜山国際映画祭のコンペティション部門に選出され、さらに3人揃って最優秀俳優賞に輝いた
本作は、アンダーグラウンドな世界を描く物語、
そして、とにもかくにも演技が凄まじい! この衝撃とエモーション、きっと忘れられないインパクトを残すはず――
筆者紹介:ドーナッツかじり(映画.com)

●【最初に結論】壮絶な、希望の物語。
個人的に、めちゃくちゃ、むちゃくちゃに好きな映画だった――3人に思いを寄せ、“幸せ”を心の底から祈っていた。まさかこんな感情になるとは、予想もしていなかった。

あらすじは予告編をご確認いただければと思う。本作を一言で表現するならば、
「ふんわりとした光」というより、「血だらけの手で掴もうと、必死に手を伸ばす」感じで、
繰り返すが、
●【感情移入が止まらない①:北村匠海の激情】
“壮絶な熱演”が頭から離れない…“闇”に埋もれながらも“光”に手を伸ばすタクヤの姿に、言葉を失う、涙があふれる。

まずは何よりも、
そんな役で、まさに
一方で、闇ビジネスを淡々とこなす絶望感、それでも罪悪感を捨てきれない人間臭さなどが渾然一体となり、

なかでも筆者の心を激しくとらえたのは、飲食店のガラス越しにマモルにほほ笑む、何気ないシーン。これは鑑賞後でないとうまくイメージできないかもしれないが、あえて伝えたい。後にタクヤが弟を亡くしたことが明らかになり、マモルにほほ笑んだ優しい眼差しが、“弟”に向けるものに似ていると気付いた瞬間、
そしてネタバレを避けるため多くは語れないが、タクヤが目隠しされながらも(つまり、役者の命ともいえる目を封じられている状態でも)「泣いている」ことが分かる、
●【感情移入が止まらない②:林裕太の純粋】
演技派・北村匠海&綾野剛と渡り合う“怪物的な才能”! ピュアな弟分・マモル、のぞく痛烈な過去に胸が締めつけられる…そしてこの存在感、凄まじ過ぎる。

本作で個人的に衝撃を受けたのが、北村匠海や綾野剛といった演技派たちと渡り合う才能・
演じるマモルは複雑な環境で、親の愛情を知らずに育った少年。貧困から抜け出すため、軽い気持ちで闇ビジネスに手を出すが、徐々にその闇の深さに取り込まれていく。
マモルは「こんな後輩がいたら、めちゃくちゃかわいがるだろうな~」と思える愛嬌の塊。しかし一方で、食事中にタクヤが肩を抱こうとすると、殴られると勘違いして身を竦ませる。ピュアで底抜けに明るい表情の背後にのぞく痛烈な過去――

何より、観客をマモルの感情の渦に引きずり込み、全てを悟らせる林の熱演に息をのむ。
そしてもうひとつ。家族愛を知らないマモルはタクヤに
いずれにしろ、ふたりの疑似兄弟の関係性が、偽物であるがゆえに本物よりも強固な絆を生んでおり、筆者もいつしか「このふたりには、絶対に生き抜いてほしい」と、切実に思いを寄せていた。
(裏話だが実際、北村には林と同い年の弟、林には北村の兄と同い年の兄がいるという)
●【感情移入が止まらない③:綾野剛の葛藤】
色気たっぷりの横顔&ヒリつくような焦燥…とことん人間臭い“見たい綾野剛”が詰まってる!

主要キャストのなかで最後にご紹介するのが、
元キックボクサーの梶谷は腕も立ち、裏社会を渡り歩く余裕の姿は色気たっぷり。しかし一方で、組織に追い詰められるギリギリの表情を見せ、ある決断に葛藤する姿がとことん人間臭い。
余裕たっぷりの綾野剛も最高だし、とんでもない目にあっている綾野剛も最高だ。「愚か者の身分」はまさに、2種類の“見たい綾野剛”が1本で味わえる、
北村が「綾野剛さん(梶谷)から僕(タクヤ)へ、そして僕から林裕太くん(マモル)へと、役者(役)が『次の世代へ“生きる”を授ける』構造になっている」と語る通り、劇中での3人の関係はどこか、実際の俳優同士の関係と重なる。
だからこそ、それぞれが交わす言葉や眼差しには、
また撮影の裏話だが、北村曰く、綾野は台本に書いていないことを、ぶつぶつと呟く演技をしていたそう。そうした瞬発的なアプローチが、
●【感情移入が止まらない④:物語展開がすごすぎる】
視点の切り替え×時系列シャッフル――ギミック感満載、だけど分かりやすくてスリリング! 日本アカデミー賞受賞「ある男」の向井康介らが創出した、珠玉の脚本に浸った。

本作を「素晴らしい」と感じたさらなる理由は、
視点の切り替えと時系列シャッフルは、やり過ぎると物語が複雑化したり、観客の没入を削いだりする“諸刃の剣”。しかし本作は単なる“ユニークな見せ方”に留まらない、
見れば見るほど、観客が水面下に隠された感情や真実に気付く、重層的な物語に唸った。鑑賞中、筆者も

全編にわたり技巧が冴え渡っている作品だが、それもそのはず。脚本を手がけたのは、
そして監督は、「Little DJ 小さな恋の物語」の
出演者、脚本、監督、そしてあらゆる技術が化学反応を起こした本作に、
●【感情移入が止まらない⑤:メッセージが刺さる】
どす黒い裏社会にいるからこそ輝く3人の絆、普通の生活への渇望… 「失うものなど何もない」3人が、それでも生きようとする姿が尊い

映画が終盤に差し掛かり、結末の余韻に浸りながら、
「失うものなど何もない」と割り切っていたはずの3人が、「うまくやること」を捨てて、自分が本当に信じるもの・守りたいもののために決断し、生きようとする姿が、この上なく尊い。3人はある意味、裏切りや罠に満ちた裏社会を生きるには不器用で、真っ直ぐ過ぎる。
北村は「彼らがやっていることは決して褒められたものではないが、それでも生きる。生きるって、今平和に生きられてしまっている僕たちが忘れている感情なのかなと思った」、林は「僕は誰かに託された命ならば、死んでる場合じゃなくて精一杯生きるしかないんだと感じました」と語っている。

その言葉通り、筆者にとっては、全編にみなぎる、
大げさな表現になってしまうが、3人に“信じること”の強さを改めて見せつけられ、
裏社会・アンダーグラウンドのジャンルでは、「裏切り者には死を」が鉄則だが、果たしてこの3人の逃亡劇は一体どうなるのか?
●【最後に】
細かすぎて伝わらないかも、けれど狂おしいほど好きな“ディテール”が多すぎる。やけにガタイがいい矢本悠馬、忘れられない不穏なカメラワーク、牛乳の賞味期限…

と、もう少しだけ「よかったポイント」を書かせてほしい……。
