外山文治監督の生涯ベスト映画は? 最近見て感銘を受けた作品にも言及【あの人が見た、名作・傑作】
2025年5月15日 19:00

映画を見に行こうと思い立ったとき、動画配信サービスで作品を鑑賞しようとしたとき、何を見れば良いのか分からなかったり、選択肢が多すぎて迷ってしまうことは誰にでもあるはずです。
映画.comで展開する企画「あの人が見た名作・傑作」は、そんな皆さんの映画選びの一助として、映画業界、ドラマ業界で活躍する著名人がおすすめする名作、傑作をご紹介するものです。第31回は、精力的に製作・監督・脚本をひとりで手がけるほか、「東京予報 映画監督外山文治短編作品集」の公開も控えている外山文治さんです。
「ブエノスアイレス」(香港)です。

私がこの映画を観たのは高校生の頃、宮崎市の繁華街にあった宮崎ピカデリーで、その劇場は20年近く前に閉館しています。今も毎年4月1日のレスリー・チャンの命日には欠かさず鑑賞し、2023年から始まったWKW 4K(編集部註;ウォン・カーウァイの代表作を4Kレストア版で上映する特集)でも鑑賞しました。

高校生の私は王家衛(ウォン・カーウァイ)監督の影響を受けて、モノマネのような自主映画を撮っていましたので、王家衛が当時の最新作「ブエノスアイレス」でカンヌ国際映画祭「最優秀監督賞」を受賞した知らせは、私にとって推しが世界を獲ったという忘れ難い体験でした。
本作に魅了される1番の理由は、本作が誰かを想うことの本質と変化を、故郷から遠く離れた異国でほぼ「ふたりきり」だけで鮮明に描く物語だからです。強烈に惹かれ合うふたりの男性は、互いに傷つけ、孤独を都合よく埋めて、翻弄し合い、またやり直します。ふたりで過ごす時間はいつも不機嫌で、まるで幸せそうじゃないのに多幸感に包まれています。おそらくは人生における唯一無二の出会いであるにも関わらず、正しく終わりが訪れ、新たな登場人物によって始まりが描かれます。それが、私にとって生きることそのもののように映っているのだと思います。

また本作は数カ月に渡り撮影されましたが、そこには台本がなく、スタッフもキャストも編集が終わるまでどんな映画になるか分からないという手法も、考えてみると人生そのものである気がします。
「俺は確信した。会いたいと思えばいつでもどこでも会えることを」という最後の言葉は、私にとっての大きな支えになりました。

観賞後に映画館の座席から立てないほどの衝動を受けた初めての作品です。あの感覚を自分もお客様に届けたいというのが私の映画制作においての目標であり、それを目指して創作活動を続けています。
そしていつか自分も、スタッフと長旅の中で「どんな映画になるかわからない」物語を紡いでみたいと夢見ています。現実的にはそのような手法は予算の都合上難しいのですが……。
「欲望の翼」のウォン・カーウァイ監督のもと、レスリー・チャンとトニー・レオンが恋人役を演じ、アルゼンチンを舞台に繰り広げられる男同士の切ない恋愛や人間模様を描いたラブストーリー。第50回カンヌ国際映画祭で、最優秀監督賞を受賞。

最近の1番のお気に入りは、「Shall we ダンス?」(周防正行監督)です。これも私の生涯ベスト1位候補の作品です。昨年の秋にアルタミラピクチャーズ31周年記念上映が池袋の新文芸坐であり、そこで本作を初めて大きなスクリーンで鑑賞しました。

学生時代に見ていた「中年のサラリーマンが人生にもう一度恋をする」ストーリーは、当時の私にはとても遠い世界のことのようで、だからこそ魅了されましたが、いつしか私自身が主人公の年齢を追い越していて、その時の流れに驚いてしまいます。
いま改めて鑑賞すると、本作が非常に魔法的な映画であることがよく分かります。フィルムには眩い瞬間と品格とユーモアが焼き付けられていて、色褪せるどころかさらに熟成され、その映画の力に虜になりました。演出、演者、すべてが美しかった。
本作において最もグッとくるポイントは、毎日の通勤における自転車のペダルを漕ぐ足取りの変化です。そしてもちろんダンスシーンも。

「シコふんじゃった。」の周防正行監督が、社交ダンスを通して人生を見つめ直す中年男性を描き大ヒットを記録したハートフルコメディ。平凡なサラリーマンの杉山正平は、会社にも家庭にも何の不満もなかったが、どこか虚しさを感じていた。そんなある日、会社帰りの電車の中からダンス教室の窓際にたたずむ女性を見かけ、その美しさに目を奪われる。後日、そのダンス教室で社交ダンスを習い始めた杉山は、個性的な仲間たちとの交流を通して社交ダンスにのめり込んでいく。主人公・杉山を役所広司、舞をバレエダンサーの草刈民代が演じた。2004年にはリチャード・ギア&ジェニファー・ロペス共演でハリウッドリメイクされた。

私は光の当たりにくい場所で咲く人々の物語に感情が動かされますので、映画「ショート・ターム」のように、心が傷ついたとしても明日を生きるための背中を押す物語を見たいと思います。「ショート・ターム」は、すぐ見たくなります。

10代の少年少女を対象とした短期保護施設を舞台に、誰にも言えない心の傷を抱えた女性と子どもたちが、大切な誰かとともに生きる喜びや希望を見出していく姿を描いたヒューマンドラマ。ティーンエイジャーを預かる短期保護施設(ショート・ターム)で働いているグレイスは、同僚でボーイフレンドのメイソンとの間に子どもができたことがきっかけで、幸せな将来が訪れると希望を抱く。しかし彼女には、メイソンにも打ち明けられない深い心の傷を抱えていた。2013年のサウス・バイ・サウスウェスト映画祭でプレミア上映されて審査員特別賞を受賞し、そのほか多数の映画賞で話題となった一作。

8年ぶりの短編作品集は「東京予報」と名付けました。先⾏き不透明な時代だからこそ、天気予報のように明日を見つめるお守りになればいいなという思いで作りました。


「名前、呼んでほしい」は田中麗奈さんと遠藤雄弥さんが不倫関係を解消するために、1日だけ夫婦になる物語です。よくある不倫もののように、抜け出せなくなったり復讐したり失墜したりはありません。これは私にとって「花様年華」のような大人のラブストーリーです。許されない恋を前に佇む、ふたりの俳優の色気に注目してください。


「はるうらら」は今後大注目して頂きたい星乃あんなと河村ここあがWヒロインを務めます。顔も性格もそっくりな春と麗が、離婚した春の父親をSNSで偶然⾒つけて入れ替わって会いに行く物語です。瑞々しいふたりの感受性と芝居に誰もが心を掴まれると思います。


「forget-me-not」はガールズバーの女の子たちが、ネットカフェで亡くなった痛客の葬儀に参列する物語です。他人の死を消費してコンテンツ化させていく、まさに令和7年を切り取った映画になりました。私の映画には珍しいシニカルでPOPな作品に仕上がりました。
まったくジャンルの違う三作品ですが、すべて東京の「かたすみのひかり」をコンセプトにして作りました。ぜひ楽しんでください。
(「名前、呼んでほしい」「はるうらら」「forget-me-not」の3作品で構成され、5月16日からシモキタ-エキマエ-シネマ K2で公開、その後、全国で順次公開予定)
(C)外山文治
執筆者紹介

大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
関連ニュース






映画.com注目特集をチェック

“最高&最幸”の一作
【過去最高の評価!最も泣いた!】ありがとう、そして…さようなら!? 結末は絶対に観て…!
提供:キノフィルムズ

ハリポタファンに激烈にオススメ
【本気で良かった】夢と魔法のような、最高の空間…特別すぎる体験でした【忖度なし正直レビュー】
提供:ワーナー ブラザース スタジオ ジャパン

え、伊藤英明!? すごすぎる…!
【狂キャラが常軌を逸した大暴れ!!】地上波では絶対ムリ!? 超暴力的・コンプラガン無視の超過激作!
提供:DMM TV

是枝裕和監督作品「ラストシーン」
iPhone 16 Proで撮影。主演は仲野太賀と福地桃子。(提供: Apple)