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外山文治監督の生涯ベスト映画は? 最近見て感銘を受けた作品にも言及【あの人が見た、名作・傑作】

2025年5月15日 19:00

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外山文治監督
外山文治監督

映画を見に行こうと思い立ったとき、動画配信サービスで作品を鑑賞しようとしたとき、何を見れば良いのか分からなかったり、選択肢が多すぎて迷ってしまうことは誰にでもあるはずです。

映画.comで展開する企画「あの人が見た名作・傑作」は、そんな皆さんの映画選びの一助として、映画業界、ドラマ業界で活躍する著名人がおすすめする名作、傑作をご紹介するものです。第31回は、精力的に製作・監督・脚本をひとりで手がけるほか、「東京予報 映画監督外山文治短編作品集」の公開も控えている外山文治さんです。


【紹介してくれた人:外山文治
1980年、福岡生まれ。シニア世代の婚活を描いたプロット「燦燦 さんさん」が、SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザの若手映像作家支援プログラム「D-MAP2012」に選出され、2013年に自らの脚本・監督作「燦燦 さんさん」として長編映画デビューを果たす。同作は、第38回モントリオール世界映画祭のフォーカス・オン・ワールドシネマ部門に正式出品。17年には、製作・監督・脚本・宣伝・配給を個人で行う「映画監督外山文治短編作品集」が大きな話題となる。
20年には豊原功補小泉今日子のプロデュースによる長編第2作「ソワレ」が全国公開。長編第3作となった「茶飲友達」は、高齢者売春を描いた問題作だったが、コロナ禍で劇場離れが顕著だった高齢者層を劇場に呼び戻し、ユーロスペース1館の封切りから全国80館以上へと拡大公開される異例の興行を展開した。同作は第37回高崎映画祭で最優秀監督賞、主演の岡本玲が最優秀主演俳優賞に輝いた。

●「ブエノスアイレス」 今もレスリー・チャンの命日には欠かさず鑑賞
――外山さんにとって、生涯のベスト映画を教えてください。

ブエノスアイレス」(香港)です。

画像2(C)1997 BLOCK 2 PICTURES INC. (C)2019 JET TONE CONTENTS INC. ALL RIGHTS RESERVED
――「ブエノスアイレス」を初めて鑑賞したのは、いつ、どのようなシチュエーションでしたか? 記憶にあれば、初見の劇場名も教えてください。

私がこの映画を観たのは高校生の頃、宮崎市の繁華街にあった宮崎ピカデリーで、その劇場は20年近く前に閉館しています。今も毎年4月1日のレスリー・チャンの命日には欠かさず鑑賞し、2023年から始まったWKW 4K(編集部註;ウォン・カーウァイの代表作を4Kレストア版で上映する特集)でも鑑賞しました。

画像3(C)1997 BLOCK 2 PICTURES INC. (C)2019 JET TONE CONTENTS INC. ALL RIGHTS RESERVED
――「ブエノスアイレス」に心惹かれた最大のポイントはどこにありますか? そして何故こうも外山さんの心を揺さぶり続けていると思われますか?

高校生の私は王家衛(ウォン・カーウァイ)監督の影響を受けて、モノマネのような自主映画を撮っていましたので、王家衛が当時の最新作「ブエノスアイレス」でカンヌ国際映画祭「最優秀監督賞」を受賞した知らせは、私にとって推しが世界を獲ったという忘れ難い体験でした。

本作に魅了される1番の理由は、本作が誰かを想うことの本質と変化を、故郷から遠く離れた異国でほぼ「ふたりきり」だけで鮮明に描く物語だからです。強烈に惹かれ合うふたりの男性は、互いに傷つけ、孤独を都合よく埋めて、翻弄し合い、またやり直します。ふたりで過ごす時間はいつも不機嫌で、まるで幸せそうじゃないのに多幸感に包まれています。おそらくは人生における唯一無二の出会いであるにも関わらず、正しく終わりが訪れ、新たな登場人物によって始まりが描かれます。それが、私にとって生きることそのもののように映っているのだと思います。

画像4(C)1997 BLOCK 2 PICTURES INC. (C)2019 JET TONE CONTENTS INC. ALL RIGHTS RESERVED

また本作は数カ月に渡り撮影されましたが、そこには台本がなく、スタッフもキャストも編集が終わるまでどんな映画になるか分からないという手法も、考えてみると人生そのものである気がします。

「俺は確信した。会いたいと思えばいつでもどこでも会えることを」という最後の言葉は、私にとっての大きな支えになりました。

画像5(C)1997 BLOCK 2 PICTURES INC. (C)2019 JET TONE CONTENTS INC. ALL RIGHTS RESERVED
――「ブエノスアイレス」との出合いは、ご自身の監督人生にどのような影響を及ぼしましたか?

観賞後に映画館の座席から立てないほどの衝動を受けた初めての作品です。あの感覚を自分もお客様に届けたいというのが私の映画制作においての目標であり、それを目指して創作活動を続けています。

そしていつか自分も、スタッフと長旅の中で「どんな映画になるかわからない」物語を紡いでみたいと夢見ています。現実的にはそのような手法は予算の都合上難しいのですが……。


【「ブエノスアイレス」作品情報】
欲望の翼」のウォン・カーウァイ監督のもと、レスリー・チャントニー・レオンが恋人役を演じ、アルゼンチンを舞台に繰り広げられる男同士の切ない恋愛や人間模様を描いたラブストーリー。第50回カンヌ国際映画祭で、最優秀監督賞を受賞。
画像6(C)1997 BLOCK 2 PICTURES INC. (C)2019 JET TONE CONTENTS INC. ALL RIGHTS RESERVED
激しく愛し合いながらも別れを繰り返してきたウィンとファイは関係を修復するためイグアスの滝へ向かうが、途中で道に迷って言い争い、そのままケンカ別れしてしまう。その後、ブエノスアイレスのタンゴバーでドアマンとして働いていたファイのアパートに、傷ついたウィンが転がり込んでくる。仕方なくウィンを居候させるファイだったが、ケガから回復したウィンはファイの留守中に出歩くように。そんな中、転職して中華料理店で働きはじめたファイは、同僚の青年チャンと親しくなる。

●「Shall we ダンス?」 これも私の生涯ベスト1位候補の作品
――最近見て、感銘を受けた作品を教えてください。その作品を見ようと思ったきっかけはどのようなものでしたか? この作品の中で、外山監督が最もグッときたシーンやポイントも教えてください。

最近の1番のお気に入りは、「Shall we ダンス?」(周防正行監督)です。これも私の生涯ベスト1位候補の作品です。昨年の秋にアルタミラピクチャーズ31周年記念上映が池袋の新文芸坐であり、そこで本作を初めて大きなスクリーンで鑑賞しました。

メガホンをとった周防正行監督
メガホンをとった周防正行監督

学生時代に見ていた「中年のサラリーマンが人生にもう一度恋をする」ストーリーは、当時の私にはとても遠い世界のことのようで、だからこそ魅了されましたが、いつしか私自身が主人公の年齢を追い越していて、その時の流れに驚いてしまいます。

いま改めて鑑賞すると、本作が非常に魔法的な映画であることがよく分かります。フィルムには眩い瞬間と品格とユーモアが焼き付けられていて、色褪せるどころかさらに熟成され、その映画の力に虜になりました。演出、演者、すべてが美しかった。

本作において最もグッとくるポイントは、毎日の通勤における自転車のペダルを漕ぐ足取りの変化です。そしてもちろんダンスシーンも。


主演した役所広司
主演した役所広司
【「Shall we ダンス?」作品情報】
シコふんじゃった。」の周防正行監督が、社交ダンスを通して人生を見つめ直す中年男性を描き大ヒットを記録したハートフルコメディ。平凡なサラリーマンの杉山正平は、会社にも家庭にも何の不満もなかったが、どこか虚しさを感じていた。そんなある日、会社帰りの電車の中からダンス教室の窓際にたたずむ女性を見かけ、その美しさに目を奪われる。後日、そのダンス教室で社交ダンスを習い始めた杉山は、個性的な仲間たちとの交流を通して社交ダンスにのめり込んでいく。主人公・杉山を役所広司、舞をバレエダンサーの草刈民代が演じた。2004年にはリチャード・ギアジェニファー・ロペス共演でハリウッドリメイクされた。

●「ショート・ターム」 光の当たりにくい場所で咲く人々の物語に感情が動かされる
――既にもう別の作品の撮影に入っているかもしれませんが、次の現場へ向かう上で、もしも映画を1本見る時間があるとしたら、どんな作品を見に行きたいですか。
画像9(C)2013 Short Term Holdings, LLC. All rights reserved.

私は光の当たりにくい場所で咲く人々の物語に感情が動かされますので、映画「ショート・ターム」のように、心が傷ついたとしても明日を生きるための背中を押す物語を見たいと思います。「ショート・ターム」は、すぐ見たくなります。


画像10(C)2013 Short Term Holdings, LLC. All rights reserved.
【「ショート・ターム」作品情報】
10代の少年少女を対象とした短期保護施設を舞台に、誰にも言えない心の傷を抱えた女性と子どもたちが、大切な誰かとともに生きる喜びや希望を見出していく姿を描いたヒューマンドラマ。ティーンエイジャーを預かる短期保護施設(ショート・ターム)で働いているグレイスは、同僚でボーイフレンドのメイソンとの間に子どもができたことがきっかけで、幸せな将来が訪れると希望を抱く。しかし彼女には、メイソンにも打ち明けられない深い心の傷を抱えていた。2013年のサウス・バイ・サウスウェスト映画祭でプレミア上映されて審査員特別賞を受賞し、そのほか多数の映画賞で話題となった一作。

●8年ぶりの短編作品集「東京予報」 先行き不透明な時代だからこそ…
――監督最新作についてもお聞かせください。今回の作品を製作するうえで、最も注力したのはどのようなところでしたか? ひとつに絞り切れないとは思いますが、作品としての見どころを教えてください。
画像11(C)外山文治

8年ぶりの短編作品集は「東京予報」と名付けました。先⾏き不透明な時代だからこそ、天気予報のように明日を見つめるお守りになればいいなという思いで作りました。

画像12(C)外山文治
画像13(C)外山文治

名前、呼んでほしい」は田中麗奈さんと遠藤雄弥さんが不倫関係を解消するために、1日だけ夫婦になる物語です。よくある不倫もののように、抜け出せなくなったり復讐したり失墜したりはありません。これは私にとって「花様年華」のような大人のラブストーリーです。許されない恋を前に佇む、ふたりの俳優の色気に注目してください。

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画像15(C)外山文治

はるうらら」は今後大注目して頂きたい星乃あんな河村ここあがWヒロインを務めます。顔も性格もそっくりな春と麗が、離婚した春の父親をSNSで偶然⾒つけて入れ替わって会いに行く物語です。瑞々しいふたりの感受性と芝居に誰もが心を掴まれると思います。

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画像17(C)外山文治

forget-me-not」はガールズバーの女の子たちが、ネットカフェで亡くなった痛客の葬儀に参列する物語です。他人の死を消費してコンテンツ化させていく、まさに令和7年を切り取った映画になりました。私の映画には珍しいシニカルでPOPな作品に仕上がりました。

まったくジャンルの違う三作品ですが、すべて東京の「かたすみのひかり」をコンセプトにして作りました。ぜひ楽しんでください。

外山文治監督の最新作「東京予報 映画監督外山文治短編作品集」
(「名前、呼んでほしい」「はるうらら」「forget-me-not」の3作品で構成され、5月16日からシモキタ-エキマエ-シネマ K2で公開、その後、全国で順次公開予定)

執筆者紹介

大塚史貴 (おおつか・ふみたか)

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映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。

Twitter:@com56362672


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