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ポン・ジュノ監督新作に「怪獣映画」の文脈から迫る! 本人に真意を問いかけてみた【「ミッキー17」インタビュー】

2025年4月12日 14:00

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ポン・ジュノ監督
ポン・ジュノ監督

2019年公開の「パラサイト 半地下の家族」で米アカデミー作品賞を受賞し、世界で新作の動きが注目される映画作家となったポン・ジュノ監督。そのオスカー受賞後1作目となる「ミッキー17」は、死んではコピー再生を繰り返し、劣悪な環境で宇宙開拓に従事する主人公ミッキー(ロバート・パティンソン)の姿に、誰もが「ブラック労働」や「格差社会」といった事象へのアイロニーを覚えるだろう。

それは当然「パラサイト 半地下の家族」をはじめ監督の諸作に通じるテーマでもあるが、筆者はどちらかというと、本作は「グエムル 漢江の怪物」(06)あるいは「オクジャ okja」(17)などの「クリーチャー映画」の系譜にあるものといった認識が強い。日本のサブカルチャーにも精通し、なにより幼少時代にはAFKM(米軍用放送局)でゴジラシリーズやウルトラマンを観ていたと語っている監督だけに、こうしたジャンルへの傾倒はなおさら強いものだろう。

そこでポン監督に、クリーチャー映画、もっと端的にいえば「怪獣映画」といった文脈から「ミッキー17」に迫り、本人にその真意を問いかけてみた。(取材・文/尾﨑一男)


画像2(C)2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
ポン・ジュノ監督も「ゴジラ-1.0」を絶賛
――監督、いきなりで恐縮ですが「ゴジラ-1.0」(2023)はご覧になられましたか?
ポン・ジュノ監督(以下:ポン監督) はい、観ました。「ミッキー17」のジャパンプレミアでは、山崎貴監督にお会いすることもできましたしね。
――ぜひ作品の感想をお聞かせください。
ポン監督 とても素晴らしかったです。日本人の皆さんにとって必見の作品だと、改めて思います。VFXもとても見事だったのですが、いっぽうでゴジラの旧シリーズには、プラクティカル・エフェクト(ナマの特殊効果)の魅力があります。僕も最近はデジタルなものばかりやっているので、そういうのに心から憧れますし、とても恋しいです。
――監督の最新作である「ミッキー17」は、エドワード・アシュトンの原作小説「ミッキー7」からさまざまな改変を経て今回の映画化を成立させていますけども、とりわけ顕著なのは、惑星ニフルへイムの先住巨大生物「クリーパー」の生態描写です。役割を大きく拡大したことになると思いますが、これによって本作は、監督の過去の作品、例えば「グエムル」や「オクジャ」のような、「クリーチャー映画」としての性質を強めたと思います。この点、監督の中で自覚的なものなのか訊かせてください。
ポン監督 そうですね、僕には小説で描かれているクリーパーについて、その存在の意味をもっと拡大させたいという気持ちが(脚本を執筆する)当初からありました。なぜなら、それは本作が持つ主題とも直接的に結びついている部分だからです。僕の映画の中に、動物やクリーチャーが出てくるときというのは、彼らの姿を通じて人間がとても情けなく、そしてとても邪悪な存在のように思えてくるところがあります。それはつまり、彼らは人間を写す鏡のような存在なんです。
画像3(C)2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
――ある意味、人間がいちばん恐ろしいモンスターでもありますもんね。
ポン監督 確かに。この映画の中でも、人間はとても卑怯です。ミッキーだけをずっと殺すような状態におき、死に値する厳しい仕事や、汚い仕事ばかりを与え、何度も死なせては蘇らせる。彼らはそんなミッキーに対して「それがお前の仕事だ、そう契約したじゃないか」というふうに言いながら、彼に全部それを無理強いし、押し付けているんです。その他の全ての人たちは、そこから安堵感も得ていますし、あまり罪の意識も感じていない。
――映画には「ゾコ」というクリーパーの幼個体が登場し、この子をめぐってミッキーたちの、反乱蜂起のような展開へとストーリーが発展していきます。これは監督による、オリジナルのアダプトですよね。
ポン監督 映画ではベビークリーパー1匹を助け出すために、すべてのクリーパーたちが動いて飛び出していき、雪原に群をなしてベビーを助けようとします。これは人間世界と明確に対比されるものとして描いているんです。ひるがえって人間は、個人主義で他人を犠牲にしようとする。ですからこのテーマに沿って、クリーパーの役割や存在を拡張させるということにしたんです。ハイ、これをどうぞ(と、今回のゾコのぬいぐるみを尾﨑に渡す)。
――あら、ありがとうございます。グロ可愛い!
ポン監督 1日3回、お水だけあげれば育ちますから、可愛がってあげてくださいね。
――了解しました(笑)。ところでこのクリーパーですが、おそらく多くのマスコミやオーディエンスから、「風の谷のナウシカ」(1984)における王蟲との共通点を指摘されると思います。造形的にも、あるいは作中における彼らの役割という点でも。
ポン監督 「ミッキー17」に登場するクリーパーの出発点は、デザイナーさんと話している時に、クロワッサンのデザインを参考にしながら作っているんです。
画像4
◆クリーパーに王蟲のような威厳を持たせたかった
――原作では、ムカデに近い容姿だと喩えられてましたね。
ポン監督 節足動物という点で、ダンゴムシなんかを参考にしてデザインしましたね。またアルマジロとか。とはいえ基本の形はクロワッサンです。しかし作業している途中から、これはもしかしたら王蟲にも似ているかもしれないなというふうに思ったんです。でもそこに気づいたとき、とても嬉しく感じました。意識的に王蟲を避けたいとか、そういうことではないですし、むしろ似通ったところに到達できているのかなと嬉しく思いました。なので、私の映画の中で宮﨑駿監督の痕跡やオマージュが感じられることというのは、自分にとっては嬉しいことでもあるんです。だって「オクジャ」にも「となりのトトロ」(1988)に似通ったオマージュのようなシーンがあるくらいですから。
――ポン監督と宮﨑監督とで、クリーチャー感覚を共有しているのでは? と思うところがあります。
ポン監督 単純なデザインやビジュアルというものを超え、映画における存在感という点で、「もののけ姫」(1997)もそうでしたし、「となりのトトロ」でもそうでしたが、宮﨑駿監督のアニメーション作品で描かれているクリーチャーや動物が持つ存在感には、美しさ、そして威厳があると思うんですね。まさに今回の映画では、クリーチャーでそのような威厳を見せられればいいなと思いました。むしろ人間以上に品格を持つ、そのような威厳を持たせることがとても重要だったんです。そのことがむしろ、見た目やデザインいうことより、私にとって宮﨑監督からの影響を受けた、大きな部分なのではないかと思います。
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◆ディストピアの具現者 撮影監督ダリウス・コンジの起用
――原作からの改変という点において、監督の「ミッキー17」は「ミッキー7」以上にディストピアでダークな傾向を強めています。撮影監督に今回もダリウス・コンジを迎えたのは、そうした傾向を画にできるシネマトグラファーだからですか?
ポン監督 全ての撮影監督はそうだと思うんですけれども、彼らは光と影の魔術師でもあります。とりわけダリウス・コンジは、そのダークな部分、暗闇や影に対する敏感なアンテナを持った方だと思っているんです。具合的にひとつシーンを挙げるとすると、例えばオープニングの場面。狭いクレパスの底にミッキーが横たわっていますが、これは実際に、底辺にいるミッキーのポジションを表してもいるシーンでもあります。その人物が置かれた今の立ち位置を、象徴的にあらわしているんです。そしてミッキーがクレバスの中にいるときに、一筋の細い光が差し込んでくるんですが、その光すらミッキーの顔には当たっていないんです。普通、主人公には光が正面から当たるものですが、光はミッキーを避け、他の場所に当たっています。こうした照明の当て方はテーマとも通じることでしたし、そんなコンジ兄さんの哲学、撮り方が私はとてもいいと思うんです。
画像6(C)2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
――コンジが撮影監督を担当した作品で、監督が好きなものは?
ポン監督 初期の作品には有名なもの(「セブン」「デリカデッセン」など)がありますが、最近の作品でいえば、ジェームス・グレイ監督の「ロスト・シティZ 失われた黄金都市」(2016)における撮影がとてもよかったです。
――意外な答えです。自分はてっきり「セブン」(1995)あたりがくるものと。
ポン監督 そういえば何年か前、パリにあるダリウス兄さんの自宅にお邪魔したことがあるんですが、彼の家の照明もすごく暗いんです。奥様が怒ってましたよ、「暗すぎて料理ができないわ!」って(一同笑)。でもダリウス兄さんは「いや、これでもまだ明るいんだ」っていうふうに反論してましたからね。とことん徹底しているんですよ。

執筆者紹介

尾﨑一男 (おざき・かずお)

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映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「特撮秘宝」、Webメディアに「ザ・シネマ」「cinefil」などがある。併せて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。

Twitter:@dolly_ozaki


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