エドワード・ヤン作品の魅力とは? 「エドワード・ヤンの恋愛時代」4Kレストア版公開、濱口竜介と岨手由貴子が語る
2023年8月12日 14:00
エドワード・ヤン監督が、1994年に発表した「エドワード・ヤンの恋愛時代」4Kレストア版の公開(8月18日)を記念し、同作のプレミア先行上映とともに、ヤン監督の代表作「クー嶺街少年殺人事件」を同時一挙上映するイベントが8月11日、TOHOシネマズ シャンテで行われた。この日は、トークゲストとして濱口竜介監督と岨手由貴子監督が登壇、ヤン監督作品を語った。
ヤン監督作品との出合いについて、「最初は20代前半の学生時代に見た『ヤンヤン 夏の想い出』で、その時は寝てしまって(笑)。特集上映だったと思うのですが、『恋愛時代』も面白かった。映画を大学時代に見始めて、エドワード・ヤンへの入口であり、映画好きになった入り口だった」と濱口監督。「クー嶺街少年殺人事件」については、大学院生時代に視聴覚室で鑑賞したそうで、「自分の映画人生が変わった瞬間というか、こんな映画が存在するのか……ということを思ったし、本当に世界そのものが映っているような感覚を持った」と語る。
岨手監督は「私は『クー嶺街少年殺人事件』が入口でした。渋谷TSUTAYAでVHSをレンタルして見たので、あまり(映像が)よく見えなかったんです。だからわからない部分がたくさんあるけれど、とにかくすごいことだけはわかるっていうような映画体験だった。『恋愛時代』は『クー嶺街』ほどの衝撃はなかったが、大人になるにつれて、好きな1作になった」と振り返る。
「エドワード・ヤンの恋愛時代」は、急速な経済発展が進む1990年代後半の台北を舞台に、裕福な家の令嬢で会社を経営するモーリーと、その会社で働く親友チチを中心に、同級生・恋人・同僚など10人の若い男女が2日半という時間の中で織りなす人間模様をコミカルに描く物語。
そして、改めて「エドワード・ヤンの恋愛時代」を鑑賞した感想は「20代に見たときは面白いけど突き抜け切らないコメディだなと思っていたが、今回4Kで改めて見て、悲痛な映画で、こんなに苦しい人たちの話だったのか、そしてそこから前向きになっていく話だとわかって好きになった」と濱口監督。
「他の町では置き換えができない物語が描かれている。限られた人間関係とその時代の台湾、台北が描かれているのが好き」と言う岨手監督は、自作の「あのこは貴族」を挙げ、「おこがましいんですが、『恋愛時代』をすごく意識しました。登場人物が東京でしかありえない人間関係と暮らしをしている。街に馴染んでいるのではなく、どこか浮遊している感じ。それを描くのに参考になった」と語り、さらに、「グッド・ストライプス」では、「恋愛時代」の側転のシーンをオマージュとして用いたことも明かした。
そして、「恋愛時代」を含むヤン監督の他作品で共通する点として、「登場人物を物語の中で裁かない」こと、「エドワード・ヤン作品に出てくる女性のキャラクターの解像度の高さ」「聖人ではなく、いろんな欠点もあって、良いところと悪いところの両方持ち合わせた女性像がどの作品にも出てきて、凄まじい解像度で表現されているのがすごい」と絶賛した。
進行を務めた月永理絵氏から「PASSION」を想起すると言及された濱口監督は「当時、『恋愛時代』が元ネタか?とよく言われましたが、決してそうではない」と否定するも、「でも自分が映画を撮る上で、何かしら影響を受けていることは感じていて、一番はそのカメラの置き方。物語の展開というよりは、視点の見つけ方。お金のない中で映画を作っていて、一体どこにカメラを置いたら豊かになるのか、映画にならねぇなこの街…って思いながら生きているこの街のどこだったら一体映画になるのか。エドワード・ヤンの映画にはそれが満ち満ちている」と評する。
また、現在映画史に残る傑作と高く評される「クー嶺街少年殺人事件」が、公開当時は正当な評価を受けていなかったという背景や、その後のヤン監督の作風の変化を分析しながら、岨手監督の「ヤン監督は登場人物を裁かない」という発言を受け、「(登場人物が)完成された人間像では全くなく、全員がすごく間違う。『恋愛時代』以降、特に『ヤンヤン 夏の想い出』では、間違うことや絶望することの価値が前面に出ていると感じる。映画そのものは楽天的で希望を描いているように見えますが、ちゃんと間違いや絶望を経由しないと、希望に至ることができないということをずっとやっていて、そういう点で人間と世界を見つめる、その眼差しの精度がものすごい」と敬服していた。
そして最後に、今回の「エドワード・ヤンの恋愛時代」4Kレストア版公開、「クー嶺街少年殺人事件」再上映の見どころについて、岨手監督は、クリアになった映像のクオリティのほか「何回も見ても何回もわからない」ことがあったという過去の自身の鑑賞経験を例に挙げ、「何回も同じ映画を見ることは、今、どういうストーリーだったの?ってすぐ検索できてしまうこの時代の流れと逆行していると思うんです。『恋愛時代』も何回も見るうちに自分の解釈も変わってくるし、人生観も変わってくる。そういった豊かな体験をさせてもらえることが映画を見る一つの価値だと思う」と、リピート鑑賞を奨励した。
「クー嶺街少年殺人事件」は8月17日までTOHOシネマズ シャンテで公開。「エドワード・ヤンの恋愛時代」4Kレストア版は8月18日から全国順次公開。
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