あのこは貴族

劇場公開日:

あのこは貴族

解説

山内マリコの同名小説を原作に、同じ都会に暮らしながら全く異なる生き方をする2人の女性が自分の人生を切り開こうとする姿を描いた人間ドラマ。都会に生まれ、箱入り娘として育てられた20代後半の華子。「結婚=幸せ」と信じて疑わない彼女は、結婚を考えていた恋人に振られ、初めて人生の岐路に立たされる。あらゆる手段でお相手探しに奔走し、ハンサムで家柄も良い弁護士・幸一郎との結婚が決まるが……。一方、富山から上京し東京で働く美紀は、恋人もおらず仕事にやりがいもなく、都会にしがみつく意味を見いだせずにいた。そんな2人の人生が交錯したことで、それぞれに思いも寄らない世界がひらけていく。「愛の渦」の門脇麦が箱入り娘の華子、「ノルウェイの森」の水原希子が自力で都会を生き抜く美紀を演じる。監督は「グッド・ストライプス」の岨手由貴子。

2021年製作/124分/G/日本
配給:東京テアトル、バンダイナムコアーツ
劇場公開日:2021年2月26日

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(C)山内マリコ/集英社・「あのこは貴族」製作委員会

映画レビュー

3.5「窮屈さ」と向き合う二人の女性の物語…だけで終わってほしくなかった。

2023年3月5日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
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すっかん

3.0環境の呪縛への気付きと、一歩外へ踏み出す勇気

2021年3月5日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 貴族とは誇張した表現かと思いきや、ヒロインの華子は割と掛け値なしの現代貴族。
 松濤の令嬢華子と富山から進学で上京した美紀それぞれの数年間の人生、二人の邂逅とその後が、5章に分けて描かれる。
 ヒロイン二人の出会いは束の間で、一緒に行動して何かを成すわけではないが、ひと時の会話が華子の自我の目覚めを誘う。

 深窓の令嬢だろうが苦学生だろうが、人生の岐路で惑い、悩むことはある。そんな時に幸せに繋がる決断をし自尊心を取り戻すには、環境の枷に惑わされず自分の心に向き合い、自身の足で前に踏み出すしかない。そんな主題が、分かりやす過ぎるほど対照的な二人の人生のコントラストと共に描かれる。
 全体にヒロイン二人の心の動きがとても細やかに描かれている。都心での華子の移動手段が、そのまま彼女の心の状態を表しているのが印象的だ。
 環境因子も取り除いて自分の素直な気持ちを見つめ、守って生きることの難しさと大切さ。日々ありのままの気持ちを話せる相手の得難さ、そんな誰かがいることの幸せ。
 そんなメッセージを感じ取った。

 華子の結婚相手探しを端緒として、冒頭から上流家庭の特殊な息苦しさについての描写が続く。結婚することも結婚にあたり仕事を辞めるのも、一族郎党が肩書きだけで中身のない見合い相手を連れてくるのも当たり前。
 華子自身も一応ちょっとした試行錯誤をするが、閉じられた世界の外側には到底手が届かないし、耐性もない。かといって姉達のように上手いこと環境を受け入れて立ち回ることも出来ない。
 見ていて何だかきついなと思ったところに婚約者幸一郎の雲上一族が登場し、家制度の化石の描写でお腹一杯になり苦しくなった。

 美紀の章では、受験で慶応大学に入った彼女が目の当たりにする内部生との経済的格差が描かれ、息苦しい世界の外面の華やかさと、階級間の絶望的な線引きを見せられる。一方、美紀の故郷富山の、既視感あふれる田舎の情景で少しほっとする。
 ラストで解放のカタルシスがあるのかな?スカッと明るく終わるかな?と期待をし過ぎたせいか、終盤は随分大人しめという印象。格差と上流社会の閉塞感のインパクトが強すぎて、ささやか(本人にとっては一大事だが)で静かな解放シークエンスだけでは拭いきれない胸苦しさが残った。

 また、一部心情描写に違和感を覚えたシーンもあった。二人が初めて出会った場面だ。
 とある不穏な展開をきっかけに、華子の友人逸子が二人を引き合わせる。
 流れから考えて普通は険悪になりそうな局面だ。華子はお嬢様だから泰然としていたとも考えられるが、美紀もニコニコしながら即座に引き下がり、しゃんしゃんと話が進む。台詞で説明があるので頭では理解したが、感覚的には???という感じだった。
 そもそも、美紀を呼び出しておきながら説教するでもなく、ふんわりしたことを言い始める友人逸子が一番よく分からない。
 作品のテーマの都合で女性同士の諍いを描きたくないのは分かるが、それなら他にやりようがある気もした。
 婚約者の幸一郎が、問題がある割にさほど因果応報な目に合わないのももやもやポイント。

 これは勝手な妄想だが、この作品は後から登場する美紀を筆頭の主人公と思って観るのが、後味がよくなるという意味では正解なのかもしれない。
 彼女の方が環境設定が身近だし、半生の起承転結がきちんとあり、気持ちの揺らぎや決心も描かれている。華子に着目していると、本人の意志が希薄な一方で環境のインパクトが強くて疲労する。

 華子がタクシーから降りて自分で足跡を刻む物語は、ラスト近くでやっときざしたばかり。彼女の歩みのドラマは作品を越えた先で始まるのだろう。

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ニコ

4.0フラットというよりニュートラル

2021年3月31日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

この映画のどこに進んでいるのかわからない、それでいて忘れがたい瞬間を確実に重ねていくような語り口に、最初は戸惑い、やがてなんとかペースをつかめるようになり、なんとも言えない心地よさが余韻として残った。

地方出身者としては水原希子が演じた田舎からの上京組に感情移入してしまうのだが、並行して描かれる上流(という言葉自体がすでに問題をはらんでいるが)の世界もまた、あるがままに並走していて、ほんのわずかな瞬間にだけ、ふたつの世界が交錯する。かといって格差社会に物申す映画ではなくて、厳然と存在する格差の中で、それぞれに生き方を見つけようとする人たちを描いている。

フラットというと公平な視線を指している気がしてしまうが、公平とも違う。どちらかというとニュートラルという言葉が近い。岨手監督が『グッド・ストライプ』を撮った人だと後から気づいて、納得した。あれも、どこに収めていいのかよくわからないけれど、とてもニュートラルでいい空気の映画だった。

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村山章

4.5東京は時折、自転車の方が車より速い

2021年3月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この映画は東京に生きる2人の女性を描く作品だ。東京という街は面白いところだと思う。ロサンゼルスほど貧富の差や人種で分断されておらず、かといって金持ちと貧困層の住む世界ははっきりと異なる。それでも東京は時折、違う世界に住む住人がまじりあう時がある。本作はそんな間隙のような瞬間を描いた作品と言えるかもしれない。
もう一つ、東京が面白いなと思うのは、混雑しているが故に車よりも自転車で移動した方が早い時があるということだ。主人公の華子はいつもタクシーで移動する。誰かが行き先を告げてくれたタクシーの後部座席に乗っているだけのような人生を彼女は送っている。彼女の人生の行き先は誰かに決められてしまっていることの象徴だ。もう一人の主人公、美紀は、自分の足と手で自転車を漕いで移動する。美紀は、自らの意思で人生の向かう先を決めている。そんな彼女の乗った自転車が、華子の乗ったタクシーを追い抜いていく。その時、初めて華子は自らの意思でタクシーの後部座席を降りる。
自転車がタクシーを追い越すのは東京ではしばしば見かける「東京あるあるネタ」にすぎないが、そんなあるあるネタを最も重要なシーンに活かされている。「東京の映画」として大変秀逸だ。

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杉本穂高