生田斗真「渇水」鑑賞前後では「世界が変わって見える」 “震える磯村勇斗”の思い出も語る
2023年5月25日 16:00
生田斗真が主演を務める映画「渇水」(6月2日全国公開)の公開直前ティーチインイベントが5月24日、東京・神楽座で行われ、生田のほか、キャストの門脇麦、高橋正弥監督、企画プロデュースの白石和彌が出席した。
本作は、故河林満さんが1990年の文學界新人賞を受賞し、第103回芥川賞候補となった同名小説を映画化。心の渇きにもがく水道局職員・岩切俊作(生田)が幼い姉妹との交流を通して生きる希望を取り戻していく姿を描く。
生田らは上映後、観客のもとに登場。生田は「楽しんでいただけましたでしょうか? この映画の撮影中、ずっと雨が降っておりました。先日やった完成披露試写会でも大雨でございました。僕はこの映画のキャンペーンは“雨男キャラ”で行こうと思っていたのですが、今日ものすごく晴れてしまいました(笑)。キャラが崩壊しました(笑)。どう宣伝すればいいのかわからないので、みなさんのお力をお借りしたいと思います」と早速会場をわかしていた。
まず話題に上がったのは、参加の決め手について。主人公・岩切役の生田と、姉妹の母・小出有希を演じた門脇は、このように答えた。
生田「日本映画界でとんでもないおもしろい脚本があるんだというのが噂になっていたようで、そんな脚本が時を経て自分の元に回ってきて、その時に感じたのは中身の良さもあるんですが、たくさんの人の想いや作品への愛情が詰め込まれた、ただならぬオーラをもった脚本でした。参加しないと後悔するだろうなと思って、即座に参加させてもらうことを決めました」
門脇「台本を読ませていただいて、なんていい本なんだろうと思ったのと、白石さんと何度もご一緒しておりまして、白石さんが“門脇さんで”と言ってくださっていると言うのを聞いて、断る理由がありませんでしたね」
次に語ったのは、役を演じるにあたって心がけたこと。
生田「岩切は自分のせいで大切な家族と離れて暮らすことになってしまって、そのことをきっかけに、彼の人生がストップしてしまって、思考も止まっていたような気がします。自分がどこにいて、何をしていて、何のために働いていて、どうして人の家の水を停めなきゃいけないのか、そういうことに蓋をしていて、無理をしている。そういう男の悲しい、独特なオーラが滲み出てくるといいなと思ってやりましたね」
門脇は、姉妹の母親・小出有希役として出演を果たしている。
門脇「ネグレクトをしているという難しい役柄だったので、地に足がついていて実在感があるように、私とは遠い登場人物と感じましたが、そう見えないように演じました。彼女にもそういう行動をとってしまった理由があって、ただの悪い人ではないので、0.1秒だけでもいいので、娘たちを見守る瞳が哀しみが滲めばいいなと思って演じました」
続けて明かされたのは“高橋監督の演出”について。生田、門脇、高橋監督の言葉によって、当時の様子が浮き彫りになっていく。
生田「雨で撮影がストップしちゃった日も、撮影が思うようにいかない日も、高橋監督はずっと嬉しそうでしたね。この映画を撮れているという幸せに満ち溢れていて、一番潤っているのは監督かなって思っていました(笑)。高橋監督の人柄に惚れて、この現場が進んでいったなと思います」
高橋監督「映画を作ることは楽しい作業ですので、雨で恨めしい時もありましたが、映画が中止になったわけではないので、自分としても励みというか、次は面白いシーンを撮ろうという気持ちでいたのかもしれないですね」
門脇「姉妹二人の役者さんが台本をもらっていない状況で進んでいって、監督がおふたりにつきっきりだったので、寂しかったです(笑)。でも、映画をご覧いただいた方は分かると思うのですが、あたたかい監督の雰囲気が滲み出るような現場で、楽しい映画ではないかもしれないけど、現場は居心地が良くて楽しかったですね」
一番大変だったシーン、苦労したシーンの話になると、生田は「磯村くん、そして子役のお二方とアイスを食べるシーンがありまして、長回しの撮影だったので、アイスを何本も食べて頭が痛くなりましたね(笑)。特に磯村くんは食べ切らなきゃいけないという使命があったので、あの時期にはなかなか見れない、震える磯村勇斗というのがみえましたね(笑)」と会場の笑いを誘う。
そして、門脇は「撮影中雨が多くて、一番最後に生田さんと対峙して家を出ていくシーンが、雨なので今日は撮れませんというのが2、3回あったので、最後ようやく撮影できた日は、清々しい気持ちでしたね(笑)。大切なシーンだったので、撮って不安な気持ちを終わらせたいと思っていたので、撮れた時は本当に清々しかったですね」と話すと、生田は「麦ちゃんは僕の出会った女優さんの中で一番帰るの早いんですよね。走って車に帰るんですよ(笑)」とエピソードを披露した。
ちなみに、門脇によれば「段取りをちゃんと組むこと。走りながら、脱げるものは脱いでおくのは一番大きなコツ(笑)」が“早く帰る秘訣”だそうだ。
劇伴と主題歌を手がけたのは、「NUMBER GIRL」「ZAZEN BOYS」で知られる向井秀徳。生田は「映画がバーンと終わって、そこから“This is 向井秀徳”のギターの音が流れてくると興奮しますね。初号試写の時に、向井さんもいらしてくださって、映画見終わった後に、飲み行こうって声かけていただいて、飲みに行きました。向井秀徳に誘われた!と思って、めちゃくちゃ嬉しかったですね」と驚きのエピソードを披露していた。
観客からの質問コーナーでは「撮影されていて、ハッとした、思ってもいなかった変化のあったシーン、もしくは忘れられないシーンはありますか?」という問いかけがあった。この質問に登壇者それぞれが答えている。
生田「若い女優二人とのシーンは印象的で、二人は宿でもずっとふたりで寝泊まりを一緒にしていて、関係性が出来上がっていくんですが、僕たちは会話はなるべく避けていたところ、彼女たちの心がつながっていって、一心同体になっていく瞬間を見た時は、とてもピュアなものをみたような、ハッとする気持ちになりましたね」
門脇「私も姉妹との、娘とのシーンですかね。現場に入るまで、現場中も、不安だったのですが、二人が河原で遊んでいるシーンを眺めていた時に、それでも家を出ていくんだ、この姿を見ても家を出ていく人なんだなというのが、役を一掴みできた時でしたね」
生田「いま思い出しましたが、麦ちゃんの登場シーンは、僕と磯村くんが彼女に声をかけるんですが、そこに佇む門脇麦のなんとも言えない説得力、本物がいるという感じでしたね。まさかその数時間後に走って帰っていく人とは思えない、艶かしい綺麗さがありましたね(笑)」
白石「滝のシーンですかね。パキーっと晴れていて、生田さんが神々しかったですね。滝も監督は場所をこだわっていて、美しく撮れていて、高橋さんはもってないようで持っている人なんだなというのを感じましたね」
高橋監督「お二人が出ているシーンですが、現場でも編集をしていてもハッとしたのが、生田さんが門脇さんに一言申す時に、門脇さんの『水の匂いがする』という芝居は、最初拝見した時から、ハッとして、編集中も既に見ている世界なのに、すごいな、この二人の丁々発止と思っていましたね」
本作は、16ミリフィルムでの撮影が敢行された。
生田「フィルムで撮影すると、8分しか撮影できないんですね。そのリミットが来ると、フィルムチェンジの時間が来て、時間がかかるから待つんですよ。その待っている時間がすごく好きで、待ち時間の間に撮影部や照明部とコミュニケーションできるのがたまらなく好きで、フィルム映画を映画館で観る機会が少なくなってきているので、フィルムでしか刻めない味とか香りを楽しんでいただきたいですね」
門脇「フィルムってだけでテンション上がりますよね! 自分がずっと観てきて大好きな映画のあの監督も役者さんもフィルムチェンジっていう時間を通ったんだっていうのがすっごい嬉しいし、スタッフの皆さんが嬉しそうなのでこっちも嬉しくなりますね」
高橋監督「メリットで言うと、水の表現とか、光に映る水や、太陽、滝のシーンはフィルムで撮って良かったな、というのがありますし、粒子が荒れていて、ざらついていたり、映像の中で粒が見えたりするんですが、そういったところがこの映画の中では非常に有効だったと言うのがありますね」
イベントの最後には、それぞれが作品への熱い思いを明かしている。
生田「この映画はエンタメ作品ではないし、心を抉られるようなシーンもあると思うのですが、この映画を観る前と観た後では世界が変わって見えると思います。長年かけて完成したこの映画をたくさんの人に見ていただければと思いますので、みなさんお力をお貸しいただければと思います」
門脇「口コミでじわじわ広がる映画、今年絶対ナンバーワンですよね。インタビューも言葉選びが難しかった作品ですが、だからこそ、おひとりおひとりの口コミで本当の良さが伝わってくる映画だと思うのでお願いします」
白石「現代人って岩切のようにどこか心の中が渇いていて、愛が足りなくて渇いて、色々な状況で渇きがあると思うんですよね。この作品は、河林さんが書いた作品を、高橋さんによって映画化された時点で化学反応が起きていて、渇いた心にちゃんと水を届ける作品になったと言うのを観るたびに感じています。小説はビターな終わり方なのですが、映画は観て良かったな、もうちょっと人間とか社会を信じてみようかなと言う作品になっているので、是非応援していただければと思います」
高橋監督「御三方が言い尽くしていただいたのですが、いい原作、いい脚本、16ミリフィルムで撮られて、スタッフ、キャストの皆さんが全身全霊をかけてつくっていただいたので、そういう良い芝居が観れる、良い映像だったと言うことを周りの方々に広めていただければと思います。本当に僕だけではなくて、スタッフキャストが一丸となってつくった映画なので、そこを感じ取っていただければと思います」
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