劇場公開日 2023年6月2日 PROMOTION

渇水 : 特集

2023年5月29日更新

【個人的・今年のベスト邦画(暫定)】白石和彌プロデ
ュース×生田斗真×豪華キャスト=きっと良作・秀作だ
ろう→結果:期待を大幅に超える“傑作”だった! 心
に刺さりまくった編集部スタッフが猛プッシュレビュー

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思考や感覚、人生観をガラッと変化させてくれる――映画.com編集部に在籍している筆者は、そんな“唯一無二の映画”を求めていた。しかし、運命の出合いなんてものはそうそうない。年間を通じて数えるほどだ。

ところが、2023年上半期、その“瞬間”が訪れた。タイトルは「渇水」(6月2日公開)。最初のフックは「白石和彌が初プロデュース」というワード。「凶悪」「孤狼の血」「死刑にいたる病」……あの白石監督が惚れ込み、企画プロデュースを名乗り出る。それだけで期待値急上昇! でも、それは「良作・秀作だろう」という範疇を抜け出ることはなかった。

やがて訪れた鑑賞の機会。観終わった直後、芽生えていた……誰かに語りたくてたまらない衝動が……!

「生田斗真の芝居が……! 物語が……演出が……あの“表情”についても語らせてくれ……!!!!」。

そんな溢れんばかりの思い&心にグサッと刺さったワケを、本特集に詰め込みました!この“推し”への熱意よ、伝わり給え……!


【作品概要】
停水執行――水道局職員が心の渇きにもがく
芥川賞候補となった小説を映画化

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1990年の文學界新人賞を受賞し、第103回芥川賞候補となった故・河林満さんの同名小説を映画化。根岸吉太郎、高橋伴明、相米慎二、市川準、森田芳光、阪本順治、宮藤官九郎作品で助監督としてキャリアを重ねてきた高橋正弥(※高は、はしごだか)が監督を務めている。

水道料金を滞納する家庭の水を停める業務(=停水執行)に就く市の水道局職員・岩切俊作(生田斗真)が、育児放棄を受ける幼い姉妹と出会い、ささやかな幸せを求めて本当の自分を取り戻していくさまを描く。


【予告編】渇いた世界に、希望の雨は降るのか――。

【レビュー】編集部員「23年、現時点の邦画ベスト」
物語設定、迫真の演技……“最推し”のワケは?

本作は、現時点での“個人的ベスト邦画”。そのため“推しの理由”は、何十個でも紡ぐことは可能だ。しかし、悲しきかな、文字数の制限というものが……ここはグッと堪えて“最推しの理由”を7つだけ語らせていただこう!


【“最推し”の理由1】
水道を止める――シンプルな物事の積み重ねで“深い物語”を描く
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ストーリーの建付けは至ってシンプル。背景は日照り続きの夏。県内全域で給水制限が発令されているという状況下で、岩切が水道料金を滞納する家庭を訪ね、水道を停めて回る……という様子が描かれていく。

物語に派手さはない。だが、繰り返される「停水」という行為によって“人生”が浮き彫りになっていく点にグイグイとひきつけられるだろう。「水道の停止」は、即座に生命の危機に直結するものではない。だが、人間としての尊厳には深く関わる。

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「停水」を告げられた滞納者たちの反応は、さまざまだ。諦め、拒絶、怒り、逃避……。「料金を支払えばいいじゃないか?」。もっともな問いかけだ。しかし、彼らには“そうしない”もしくは“そうすることができない”理由がある。

岩切の業務は「停水」ではない。あくまで滞納金の徴収であり「停水」は最終手段なのだ。だが、その事実とは裏腹に日々繰り返されてしまう「停水執行」によって、彼の心は渇ききってしまった。つまり、滞納者だけでなく、岩切も自らの渇きを癒す“水”のようなものを求めている――全編を通して“水を渇望する”世界観によって、タイトルも深みを増していることに気づかされるだろう。


【“最推し”の理由2】
生田斗真を“最強の凡人”に このキャスティングが天才的発想
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「生田斗真がとにかくすごいんだよ」。本作に興味を抱いた方に、まずは伝えておきたいポイントだ。

「俳優・生田斗真」は、作品によって与えられたキャラクターの“色”を、何倍も鮮やかに表現してきた…というのが、個人的なイメージ。例えば「脳男」の鈴木一郎、「土竜の唄」シリーズの菊川玲二、「彼らが本気で編むときは、」のリンコ等々、スターのオーラを伴って築き上げてきたキャラたちは、今なお頭の中に息づいている。

だが、本作では「ここまで“色”を消せるのか…」と度肝を抜かれた! このキャスティングは「岩切=最強の凡人」ととらえた際、あえて凡人を演じたことがない生田を起用してみるという逆転の発想によって実現している。

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この方針、大正解だ。

全身から発せられている諦めの境地。特に“目”の芝居が素晴らしい。幾度となく水を与えたとしても、すぐさま干上がってしまうかのような……“あの目”が作品に通底する「渇き」の大部分を担っているといっても過言ではない。生田はオファーから出演快諾まで1週間という異例の早さで、本作への参加を決めた。この“色のない男”との出合いは、生田の“演技の幅”を世に示す結果になっていることは間違いない。


【“最推し”の理由3】
門脇麦、磯村勇斗、尾野真千子……“オール実力派”と言ってもいい 共演陣の芝居も脳裏に焼き付く
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生田の存在感は言わずもがな。では、脇を固める俳優陣は? これが“隅から隅までハマりまくっている”という点が、本作の凄まじいところ。白石氏の推薦を受けて参加した門脇は、岩切が出会う姉妹の母・小出有希役。我が子への愛情が徐々に揺らぐ「人間の複雑さ」を体現しており、時折見せる寂寥感がこれでもかと胸を突いた。

同僚・木田拓次は、岩切のようには“割り切れない”男。彼の心情がどう変化していくのか――。この過程を繊細に表現していく磯村勇斗の好演も光っている。岩切の妻・和美役は、尾野真千子。短い掛け合い、瞬間的な表情で明示する“夫婦の溝”……この技量、流石としか言い様がない。

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そのほかにも「こんな役を“この人”が…!」という“発見”も楽しめる作品でもあるのだが、なかでも姉妹(恵子&久美子)を演じた山崎七海、柚穂の佇まいは特筆すべきものがある。輝きに満ちた無邪気さがある一方で、大人たちを射るように見つめる瞳――。彼女たちの仕草は、映画の世界を飛び越えて、現実世界にまでに波及してくる。確実に心がざわつくはずだ。


【“最推し”の理由4】
水の公共性、貧困格差、ネグレクト……考えさせられる「現代的テーマ」
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筆者が考える“傑作”の条件には「鑑賞後も、映画の内容について“考え続けているか”」というものがある。では、本作は? もちろん、今でも頭の中を考えが巡り続けている。例えば、そもそも「水は誰のものなのだろうか」と。これまで何気なく使っていた“水”への意識ががらりと変わってしまった(ある人物の「水って“重いんだ”」という言葉は、心の奥底に深く突き刺さっている)。

物語の核を成す姉妹の存在には、ヘビーな問題がのしかかっている。母・有希も好き好んで、水道料金を滞納しているわけではない。しかし、社会における就労格差によって支払いもままならない状況だ。その焦燥感が、ある種の育児放棄という事態を生み出している。いわゆる負の連鎖……では、これらに対する“ストッパー”の存在とは? 描出される現代社会の“リアル”は、他人事では済ませられないはずだ。

白石和彌(左)、高橋正弥監督(右)
白石和彌(左)、高橋正弥監督(右)

脚本作りが始まったのは、約10年前。東日本大震災が起きる少し前だった。震災を経験したことで「さらに、普通の生活に重くのしかかる災害や貧困、格差や差別も大きな要素になった」「大人たちのシステムに取り込まれていく子どもたちの存在を顕在化させたいと考えた」(高橋監督)と変更が加わっている。

こうして生まれた脚本は、映画業界を震撼させた。白石氏も「いい脚本があるという評判が、業界中に轟いていた」「すごい、こんなの、よく書けるなと本気で思いました」と“世に出すべき映画”だと強く感じたという。つまりプロデュースという立場は、前のめりの参加だったのだ!


【“最推し”の理由5】
感情が加速度的に昂る!諦めの境地にいた男が“流れ”を変える瞬間
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自分と岩切に似ている部分はあるだろうか――答えは「YES」。岩切と似た思いを抱える人こそ、必見の作品なのだ。

岩切も、筆者も、ヒーローという立場とは程遠い場所で生きている。岩切は“凡人”として描かれ、水が上から下に流れるように、ただその流れに身を任せて日々をやり過ごしている。それが彼なりの処世術なのだろう。良心はある。しかし、代償を払ってまで善行に身を捧げるほどの余裕というものはない。

しかしながら、岩切は姉妹との交流を通じて、“胸が熱くなる”ような結論に辿り着く。そして「“流れ”を変えてみたくなった」という言葉に続き、停滞した状況をぶち壊すために、想像だにしないアクションを起こすのだ。

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岩切の行動は、今のネット社会を大いにざわつかせ、炎上を招くような代物だ。しかし岩切は、ただがむしゃらに前へ、前へと突き進んでいく 。損得勘定? そんなものを考えている暇はない。身の破滅? そんなものはどうでもいい。あの瞬間「岩切俊作」はただの凡人ではなく、確かにヒーローだった――。

観ていて、筆者は拳を突き上げそうになっていた。 叫びたくなった。気づかぬうちに涙も流れていたかもしれない。岩切の行動は、シンパシーを感じていた筆者の“鬱屈とした心”すらも救ってくれたのだ。 この興奮だけは、絶対にスクリーンで味わうべき!


【“最推し”の理由6】
原作のラストを改変→鳥肌モノの瞬間が待ち受けていた
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実は上述の“岩切が流れを変える”という展開、原作小説には登場しないパートでもある。つまり、脚色がかなり秀でている証拠。この存在しなかった光景から辿り着く“ラスト”も小説とは異なるものになっていく。

原作小説を読んでいる方であれば、その結末に衝撃を受けたはず。高橋監督は映画化にあたり、河林さんの遺族に「そこは変えさせてもらえないか」と願い出ている。

エンドロール直前に映し出されるのは、岩切の“顔”だ。あるキーパーソンが彼に伝えたのは、とても短い言葉。このセリフが全身の毛穴が開くほどのインパクト! 全編貫き通した「水を渇望する」という題材を見事に回収し、「生への希望」を端的に表している。原作読者の方にこそ、映画版の“答え”を目の当たりにしてほしい。いや、本当に“震えます”から……。


【“最推し”の理由7】
主題歌&劇中音楽:向井秀徳 エンドロールまで“心が満たされる”
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ラストの“最推し理由”はダメ押しの一手……「NUMBER GIRL」「ZAZEN BOYS」で数多の音楽ファンを虜にしてきた“THIS IS 向井秀徳”の参加である。本作では劇中音楽も担当しており、岩切の物語が加速していくタイミングでは、向井の轟音ギターが鳴り響く。これがマジで最高すぎる……! 内に秘めていた興奮はあれよあれよと膨張し、最早抑え込むことができない。スト―リーの展開も相まって、今にもその場から“走り出したくなってしまった”。それほどの凄まじい高揚感が得られるのだ!

さらにさらに、主題歌「渇水」も痺れる仕上がり! この主題歌、当初はインスト(歌詞、歌唱のない、演奏オンリーの楽曲)を使用予定だったが、作品に刺激を受けた向井が歌を作ってしまった……という経緯あり(天才か)。高橋監督から「音楽だけですべてを物語っていて感動しました」という言葉を引き出すほどの名曲となっている。

向井秀徳
向井秀徳

この楽曲があまりにも良すぎてですね……筆者は“完全な終幕”まで身動きひとつとれないまま。代替え不可能なピースとしてハマった“向井の音楽”。最後の最後まで一分の隙もない……!

まだまだ伝えていない魅力は、たんまりとありますが、ひとまずここで本稿を終えましょう。でもやっぱり最後の最後に、これだけは“念押し”で言っておきたい。「良作・秀作だろう」という予想は軽々と超えてきます。公開日となる6月2日以降、どうにかスケジュールを空けて劇場へ向かいましょう!

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インタビュー

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