横浜流星×藤井道人、6度目のタッグ「ヴィレッジ」までの軌跡
2023年4月20日 09:00
藤井道人監督が横浜流星を主演に迎え、オリジナル脚本を映画化した「ヴィレッジ」が、いよいよ4月21日に公開される。閉鎖的な村で孤独に生きる青年の怒りと哀しみを描いた本作で、横浜は新境地を切り拓き、一足早く作品を鑑賞したマスコミや試写会参加者からは絶賛の声が上がっている。
プライベートでも親交のある藤井監督と横浜がタッグを組むのは、今作で6度目。節目節目で共に作品を作り上げてきた2人だけに、藤井監督は「今まで見たことがない横浜流星でないと意味がない」と語り、「まさに一皮剥けた流星が見られる映画になっていると思います」と自信を滲ませる。本記事では、そんな固い絆で結ばれた2人の軌跡を作品と共に振り返っていく。
藤井監督と横浜の出会いは、「全員、片想い」の打ち上げだった。「片思い」がテーマの短編を集めたオムニバス映画で、2人はそれぞれ違う作品で監督、俳優として参加。横浜は伊藤秀裕監督の「イブの贈り物」で介護士見習いの青年を演じ、藤井監督は新川優愛と志尊淳が共演した「嘘つきの恋」でメガホンをとった。打ち上げで初めて挨拶を交わした2人は、お互いにブレイク前で先の仕事が決まっていなかったことから意気投合し、励まし合ったことを明かしている。
藤井監督と横浜が、監督と俳優として初めてタッグを組んだのは「青の帰り道」。7人の若者が夢を追いかける青春群像劇で、横浜はオーディションに合格し、ヤンチャだが仲間思いのリョウ役で出演。しかし、撮影を7割方終えた頃、本作はある事情で撮影中断を余儀なくされた。一時はお蔵入りの危機に陥ったが、藤井監督の情熱が周囲を動かし、撮り直しを経て2年越しで公開に漕ぎつけた。
プロデューサーの伊藤主税氏は、当時のインタビューで「再撮影ができた一番の要因は、監督を中心としたキャスト・スタッフの『撮り切る』という気持ち」だったと話し、「本当に純粋な気持ちが原動力でした。そして監督やメインキャスト7人が、友情で支え合ってきたんです。だからこそ完成したと思っています」と語っている。藤井監督も公開当時、「今後の監督人生が、このキャスト・スタッフと一緒に変わっていければ。完成した初号を見て、そう思いました」と胸の内を明かしており、苦しい危機を一丸となって乗り越えたことで藤井監督と横浜の絆は深まった。
「青の帰り道」から程なく、横浜は2019年放送のTBSドラマ「初めて恋をした日に読む話」で深田恭子の相手役の男子高校生・由利匡平(ゆりゆり)役を好演して大ブレイク。髪をピンク色に染め上げ、マンガ原作ならではの一途な年下男子を魅力的に演じ、大旋風を巻き起こした。一方、藤井監督もスターサンズの故・河村光庸さんが企画した「新聞記者」が注目を集め、同作は最終的に興行収入6億円超えの大ヒットとなった。
奇しくも同時期に脚光を浴びることになった2人は、「青の帰り道」の主題歌を担当したロックバンド「amazarashi」の「未来になれなかったあの夜に」のMV(https://youtu.be/IDcxxXCO_mg)で再タッグを組む。横浜はインタビューなどで「amazarashi」のファンを公言しており、MVではミュージシャン役を熱演。「キセキ あの日のソビト」「L・DK ひとつ屋根の下、『スキ』がふたつ。」でも共演した杉野遥亮や、泉澤祐希、柄本時生がバンドメンバー役で出演し、MVは映画さながらのクオリティで話題を呼んだ。
翌20年1月の日本アカデミー賞で、藤井監督の「新聞記者」は最優秀作品賞・最優秀主演男優賞・最優秀主演女優賞3部門を制覇。横浜も「愛唄 約束のナクヒト」「いなくなれ、群青」「チア男子!!」の演技が評価され新人俳優賞を受賞し、同会場で顔を合わせた2人はお互いの健闘を称え合った。
しかし、喜びも束の間、世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスが日本でも急速に拡大し、その影響は日本のエンタメ業界にも及んだ。誰もが先行きが見えない不安に襲われるなか、コロナ禍で苦境に陥った映画クリエーターを支援するプロジェクトが立ち上がる。
「COVID-19をひっくり返す」をコンセプトに12人の監督が12本の短編を製作した映画「DIVOC-12」で、横浜は藤井監督の「名もなき一篇・アンナ」に主演。妥協をしないことで知られる藤井監督は、約10分の作品のために、万全の感染対策のもと沖縄・京都・函館・東京を強行スケジュールで移動して撮影を敢行し、幻想的な再生物語を作り上げた。横浜は公開当時、「藤井さんに撮ってもらえたことが本当に幸せ」とコメントしており、未曽有の危機的状況下で再び苦労を共にしたことで2人の信頼関係は揺るぎないものとなった。
2人が4度目のタッグを組んだのは、Netflixで独占配信中のドラマ版「新聞記者」。映画版とは異なるアプローチで現代社会の問題を浮き彫りにした本作で、横浜はドラマ版オリジナルキャラクターの木下亮役を担い、映画版では描かれなかった一般市民の若者の目線で物語を紡いだ。
“亮”という役名は「青の帰り道」で横浜が演じた“リョウ”と同じ名前で、藤井監督は自己投影した役に親友の名前の“リョウ”を使うことを明かしている。「青の帰り道」に続いて特別な思いが込められた“亮”役を託された横浜は、等身大の演技でリアルな若者像を体現。重いテーマを扱った本作の中で、政治に無関心だった亮が事件を通して成長していく姿は、一筋の希望を与えた。
「新聞記者」で藤井監督の期待と信頼に応えた横浜は、同年劇場公開された「流浪の月」でこれまでのイメージを一新する難役に挑戦。歪んだ愛情から恋人に暴力を振るうキャラクターを演じ切り、第46回日本アカデミー賞で優秀助演男優賞を受賞するなど、役者として一層の飛躍を遂げた。
5度目のタッグは、23年の1月期に関西テレビで放送された連続ドラマ「インフォーマ」。桐谷健太扮するカリスマ情報屋の木原慶次郎と、佐野玲於演じる週刊誌記者の三島寛治が謎の連続殺人事件を追いかける同ドラマで、横浜は“ポンコツ1号”愛之介役で第6話に出演。放送開始直後、華麗な回し蹴りを披露し、SNSを賑わせた。
藤井監督の「ヤクザと家族 The Family」を大好きな作品のひとつにあげる横浜は、1話のみの参加ながら愛之介役を生き生きと演じ、屈託のない笑顔と空手仕込みのキレのあるアクションで魅了。放送終了後には、圧巻の格闘シーンと胸を打つ人間ドラマにSNSを中心に絶賛の声が上がった。
これまで幾度もタッグを組み、プライベートでも親交を深めてきた藤井監督と横浜だが、「ヴィレッジ」は横浜にとって藤井組初の長編主演映画。藤井監督は主人公の優に、横浜が俳優として感じている迷いや恐れ、そして監督自身が「新聞記者」以降に感じた恐怖を反映したことを明かしている。出会いから7年、共に切磋琢磨してきた2人が満を持して作り上げた渾身作を、ぜひ劇場で見届けてほしい。
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