釜山国際映画祭、東京国際映画祭、東京フィルメックスを巡って考えたこと【アジア映画コラム】
2022年12月11日 17:00
北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数280万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”、そしてアジア映画関連の話題を語ってもらいます!
カタールで開催されているFIFAワールドカップ2022が、昼夜を問わず、盛り上がっています。会場内にいる観客は、ほぼマスク無しの状態。「コロナよ、さようなら」「やっと元の生活に戻った」等々、喜びの声が聞こえてきています。一方、日本国内では“第8波”に関する報道が続いていますが、人々がコロナの存在を忘れかけているようにも見える……そんな風に感じています。
世界の映画業界に視点を移しましょう。早い段階から「withコロナ」を徹底してきた欧米では、今年のカンヌ国際映画祭から“ほぼ通常開催”に。その後、多少の制限はあっても、ほとんどの映画祭がフィジカル開催となっていきました。ところが、アジア各国の渡航制限が想像以上に長く、まだ完全には自由に動くことができませんでした。10月に入ってから、日本、韓国の渡航制限が緩和。ようやく制限なしでの渡航が可能となり、映画業界の交流も一気に盛り上がったという印象を受けます。
今回は、今秋に行われた第27回釜山国際映画祭、第35回東京国際映画祭、第24回東京フィルメックスの内容に触れつつ、映画祭の新たな動向を紹介します。
まずは、10月5日に開幕した第27回釜山国際映画祭について。2020年&2021年はフィジカル開催でしたが、「海外からプレスを呼ばない」「規模縮小」といった制限がありました。今年は韓国政府の渡航対策の全面緩和(PCR検査&ワクチン接種の証明も必要なし)を受けて、3年ぶりの通常開催となり、私も3年ぶりに現地入り。映画祭初日、メイン会場「映画の殿堂」を訪れた際は、場内の熱気に驚きつつ、とても感動していました。ようやく“完全復活”と言えるでしょう。
第27回は、71カ国から242本の作品が集結。30スクリーンを使用して、10日間上映されました。動員は16万人以上。着席率は約75%。舞台挨拶やオープントークなどが約360回。1600人以上の海外ゲストが映画祭やマーケットに参加していました。ラインナップも相変わらず豪華! 三大映画祭の受賞作、話題作などをはじめ、アジア各国の新鋭監督の作品、2022年における韓国映画の良作など、本当に観たいと思える作品が多かった……。
日本映画関連で最も注目されていたのは、Special Program in Focus部門の特集「Discovering New Japanese Cinema」でした。昨年の第26回「GALA部門」では、濱口竜介監督の「偶然と想像」「ドライブ・マイ・カー」が上映され、多くの映画研究者、映画ファンが衝撃を受けたそうです。
韓国国内では「日本の新鋭監督の作品をもっと知りたい」という声があるため、釜山国際映画祭のプログラミング・ディレクターのナム・ドンチュル氏をはじめ、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三氏、大阪アジアン映画祭プログラム・ディレクターの暉峻創三氏、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭プログラミング・ディレクターの長谷川敏行氏が合計10作品を厳選。草野なつか監督作「螺旋銀河」、春本雄二郎監督作「由宇子の天秤」、三宅唱監督作「ケイコ 目を澄ませて」などが披露されました。
監督や役者たちも現地に飛び、観客と濃密な交流を行っていました。何人かの監督と話す機会がありましたが、映画祭の雰囲気をとても気に入っていた印象です。ちなみに「Discovering New Japanese Cinema」に関しては、私がプロデュースしたWeb映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」(https://youtu.be/tIYUgzgVv6w)で取り上げています。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭プログラミング・ディレクターの長谷川さんを招いて、特集の背景、現地の反響などについて語っていますので、よろしければご覧ください!
今年の釜山国際映画祭は、上映作品以外でも注目を集めました。まずは、豪華な俳優・監督陣が集結していたオープニングセレモニー。特に、釜山国際映画祭のアジア映画人大賞(功労賞)を受賞したトニー・レオンが登場した時は、会場から爆発的な歓声があがっていました。
映画祭オフィシャルは、トニー・レオンとコラボしており、1日150個限定(開催期間限定)の完全受注限定グッズも制作。これが大人気で、毎朝グッズショップの前に長蛇の列ができていました。そして、世界中に人気コンテンツを送り続けているNetflix Koreanが限定カフェをオープン。映画ファンや映画人などが集まって、映画やドラマシリーズの話で盛り上がっていました。
映画祭と同じタイミングで「ACFM:Asian Contents & Film Market」も復活しました。歴代最大の動員となったようで、世界各国の映画人が映像ビジネスの可能性を探していました。とりわけ東映アニメーションとCJ ENMの戦略的業務提携協定は、大きな話題に。この2社が今後どのようなコンテンツを生み出すのか……楽しみがひとつ増えました。
釜山国際映画祭が閉幕してから2週間も経たず、第35回東京国際映画祭が開催されました。上映イベント、トークイベントなどの詳細は、映画.comのニュース記事で確認できますので、ここでは割愛。日比谷・銀座地区開催となってから2年目。TOHOシネマズ日比谷、丸の内ピカデリー(期間限定)、丸の内TOEIが加わり、会場の規模は広くなっています。釜山ほどではありませんでしたが、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、ツァイ・ミンリャン監督をはじめ、メインのコンペティション部門とアジアの未来部門の製作陣、関係者が多数来日し、観客と交流を深めていました。特に、関係者のみで行われたネットワーキングイベント「Meet the Programmers」の盛り上がりを見ていると「映画祭の雰囲気が戻ってきたなぁ」と感じました。もちろん、改善点はまだあります。しかし、全体的に良い方向に向かっていると思いました。
疑問に思っていることがひとつ。それは「日本のマスコミは、映画祭に対して、あまりにも無関心なのではないか」ということ。もちろん、かつてのような世界的に注目されるイベントではないのかもしれません(「タイタニック」のワールドプレミアは、東京国際映画祭だったんです!)。でも、決してラインナップはつまらないわけではありません。
コンペティション部門では、世界でも評価されたイランのアカデミー賞代表映画「第三次世界大戦」(審査員特別賞)、ベネチア国際映画祭金獅子賞を獲得したミルチョ・マンチェフスキ監督の最新作「カイマック」、日本公開時に話題となった「おもかげ」のロドリゴ・ソロゴイェン監督の新作「ザ・ビースト」(グランプリ、監督賞、男優賞の3冠)など。ツァイ・ミンリャン監督の特集、パルムドール受賞監督クリスティアン・ムンジウの最新作「R.M.N.」、今年のカンヌ国際映画祭で大きな話題を呼び、最近発表されたカイエ・デュ・シネマ2022ベストワンに選ばれたアルベルト・セラ監督作「パシフィクション」など目玉となる作品が多かったんです。
ところが、日本の報道は、日本人俳優関連のものばかり。東京国際映画祭だけでなく、東京フィルメックスのメディア席の空席も目立ちました。例えば、東京フィルメックスで上映された「ソウルに帰る」「ノー・ベアーズ」は、今年の釜山国際映画祭でも上映されています。数分でメディア席が満席となった釜山に比べ、東京フィルメックスは上映直前になっても席がまったく埋まらなかったんです。
東京国際映画祭に参加した今泉力哉監督(「窓辺にて」)は、映画.comのインタビューでメディアの在り方について話しています。
「そもそもマスコミが映画に興味がないんですよね。いや、興味があってもそれを発信できにくい土壌が当たり前になってしまっていて、俳優の話などだけが取り上げられることが多い。これはつくり手の責任でもあるけど、日本における映画の置かれている位置、立場を本当に変えていきたいし、それを手伝ってほしいです、切に」
もちろん、人々の興味を引くためのトピックスも重要です。しかし、映画祭に関しては「映画を中心に発信してほしい」と考えてしまいます。「この映画は、三大映画祭の受賞作品。だから見てください」というアプローチではなく「世界の映画監督はどのような作品を作っているのか。どのテーマに関心を持っているのか」を周知していかないと、世界との距離がより離れていくはず。映画祭は海外の映画人ともっとも繋がりやすい場所でもありますから「もっと大切にしてほしい」と強く思い続けています。
第35回東京国際映画祭のラインナップ発表会が行われたのは、9月21日。市山尚三プログラミング・ディレクターがこんなことを仰っていたんです。
「中国に関しては検閲で止まっている映画が多く、もっとやるべき映画があったかもしれない。他の映画祭でも中国映画がないといった事態になっております」
今年の中国映画界は異常事態といっても過言ではありません。中国映画市場全体の話については別の機会に書く予定ですので、ここでは、2022年の国際映画祭における中国映画の状況について、少し触れておきましょう。
今年2月に開催されたベルリン国際映画祭では、リー・ルイジュン監督作「小さき麦の花」がコンペティション部門に入選。非常に高く評価されました。その一方で、カンヌやベネチアをはじめ、中国映画が世界各国の映画祭を“欠席”しているという状況が見受けられたんです(東京国際映画祭アジアの未来部門には、中国映画「へその緒」が上映されていますが、これは珍しい例のひとつ)。
今年の中国映画市場は、コロナの影響を受けて、新作がなかなか上映できないという状況が続いています。さらに中国共産党第20期全国代表大会(10月開催)があったため、例年よりも検閲が厳しくなっていると言われていました。
例えば、前述の「小さき麦の花」は中国国内でもかなり話題になっていましたが、何かしらの理由で9月末に上映・配信が急遽中止に。もともと釜山国際映画祭でも上映予定だったのですが、告知すらなく、作品ページが削除されていましたね。
例年10月に行われる平遥国際映画祭は、いまだに開催されず。延期なのか、中止なのか。その告知すらありません。そして、さまざまな事情によって、ドラゴンマーク(中国国家電影局が正式に上映を許可したことを示すマーク)が発行されにくくなっており、多くの新作が海外映画祭に参加できなくなりました。
幸いなことに、11月に入ってからは「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」「ザリガニの鳴くところ」といった外国映画の大作が披露され、シルクロード国際映画祭、海南島国際映画祭の開催も決定。12月には「ONE PIECE FILM RED」「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」が公開。回復傾向にありますが、市場規模を考えれば、まだまだ“足りていない”。これからどうなっていくのか――中国映画市場の動きから目が離せません。
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