熊は、いない

劇場公開日:

熊は、いない

解説

政府から映画制作を禁じられながらも不屈の精神で映画を撮り続けるイランの名匠ジャファル・パナヒが監督・脚本・製作・主演を務め、自らを題材にして撮りあげた社会派サスペンス。

パナヒ監督はトルコで偽造パスポートを使って国外逃亡しようとしている若い男女を主人公にしたドキュメンタリードラマ映画を撮影するため、イランの国境近くの小さな村からリモートで助監督レザに指示を出す。そんな中、滞在先の村では古い掟のせいで愛し合うことが許されない恋人たちをめぐるトラブルが大事件へと発展し、パナヒ監督も巻き込まれていく。

2組のカップルが迎える想像を絶する運命を通し、イランに残る抑圧的な社会問題の現状を浮き彫りにする。2022年・第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で審査委員特別賞を受賞。

2022年製作/107分/イラン
原題:Khers nist
配給:アンプラグド
劇場公開日:2023年9月15日

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映画レビュー

4.5混迷と絶望。

2023年9月30日
PCから投稿
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村山章

4.0彼に真の笑顔が再び灯るその日まで

2023年9月29日
PCから投稿

表現や言論の自由が保証されていないイラン。パナヒ監督はこの国で、体制に対して反逆的な活動を行ったかどで禁固刑や映画製作の禁止を言い渡されるも、その後、制約の中で映画作りを続けている。こういった背景を考慮に入れて本作に臨むと、まずもって冒頭のどこか演劇的なワンシーンと、そこから二重三重の境界を超えてパナヒが映画とつながり合う様に、たったそれだけで観ている我々の胸は強く締め付けられる。映画は死なない。パナヒの情熱も全く死んでいない。本作はこの二つの「不死」を裏付ける作品と言えそうだ。だが、かくも制約下で表現し続ける精神を刻みつつも、パナヒはいつしか二組の愛し合う男女が陥った苦しみと直面せざるをえなくなる。立ちはだかる壁を前に、彼が浮かべる表情のやるせなさ。彼に笑顔が戻る日はやってくるのだろうか。我々にできるせめてもの支援は、何よりもまず彼の新作を待ち続けること。そして劇場で鑑賞し続けることだ。

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牛津厚信

4.0虚実の曖昧化と穏和なユーモアを武器に権力と闘い続けるジャファル・パナヒ監督

2023年9月15日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

笑える

悲しい

知的

ジャファル・パナヒ監督は今の世界で最も権力と闘っているメディア表現者の一人と言えるのではないか。イランはイスラム諸国の中でもとりわけ報道や表現に対する規制が厳しく、2023年の世界報道自由度ランキングでは180カ国中最下位の北朝鮮から、中国、ベトナム(これら3カ国は社会主義国家)に次いで低い177位だった。表現者にとっても不自由極まりないイラン国内に留まりつつ、権力側から個人への抑圧や暴力、宗教観にも関わる女性蔑視・差別などを題材に映画を撮り続け、政府から上映禁止、映画制作禁止、逮捕・禁固といったさまざまな圧力と妨害を受けてきたパナヒ監督。不屈の闘士と呼びたくもなるが、この「熊は、いない」を含む近年の監督作に本人役で出演している彼の姿を見ると、大柄で小太りの優しそうなおじさん(オバチャンっぽい雰囲気もある)といった印象で、意外に思う人も多いのではないか。

「人生タクシー」(2015)、「ある女優の不在」(2018)と同様、本作も劇映画の体裁でありながら、パナヒ本人が監督として作中に登場することで、ひょっとしてドキュメンタリー的なパートもあるのではと錯覚させる。ひねりの効いたフェイクドキュメンタリーと見なすことも可能だろう。冒頭のトルコのカフェを舞台にした男女のやり取りの長回しショットから次の“種明かし”のカットへの編集が端的に表すように、虚構と現実を巧みに曖昧化することで、観客がそこからさまざまなメッセージを自分なりに受け止められる豊かさを確保しているではないか。現実を描いているようで、寓話的でもあり、その曖昧なはざまにこそ豊穣さがある、とでも教えられているような。

国境に近い村に滞在するパナヒ監督が、村の若い男女らをめぐる諍いに巻き込まれていくさまは、ユーモラスな雰囲気を漂わせつつ、目に見えない何かにじわじわと手足をからめとられていくような恐ろしさもある。

タイトルになっている「熊は、いない」とは、ある村人からパナヒ監督に告げられる言葉。村人たちが“熊”にどんな存在を重ねているのかも、分かりやすく示される。だが映画をラストまで観ると、本当に“熊”はいないのだろうか、さらにはこの現実世界、日本の社会にも“熊”的な存在はいるだろうか、それとも存在するように思い込まされているだけで実在しないのではないか、などと思い悩んでしまうのだ。

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高森 郁哉

3.5作家としての覚悟を感じる

2023年12月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

 イラン政府から国外に出ることを禁じられ、反政府的という理由で収監されたこともある孤高の映画作家ジャファル・パナヒ。彼は様々な抑圧を受けながら、自らを主人公に映画作りを行っている。

 本作は、そんな彼が小さな村に身を潜めてリモートで新作映画の撮影をしている…という所から始まる。
 映画は、この新作映画の撮影風景と、パナヒが滞在する村で起こる事件。この二つをリンクする形で構成されている。

 新作映画の方は、偽造パスポートを使ってフランスへ出国しようとするカップルのドラマである。パナヒ監督はリモートで撮影の支持を出すのだが中々思うようにいかず、最後には思わぬ顛末を迎えてしまう。
 この新作映画は一見すると劇映画のように見えるのだが、実は完全なフィクションではないということが後半から分かってきて面白い。こうした虚実入り混じった作風はパナヒ監督の得意とする所であるが、それがここでも確認できる。
 また、ここには国外に出ることを許されないパナヒ自身の苦悩も垣間見えて興味深かった。

 村の話の方は、古いしきたりに阻まれる若いカップルのドラマである。この村では昔から女性に結婚相手を選ぶ権利は無く、親同士で相手が決められている。若いカップルは、そのしきたりを破って逢瀬を繰り返すのだが、たまたまパナヒ監督がその様子を撮影してしまったことから、彼はこの騒動に巻き込まれてしまう。
 ここから分かってくるのは、女性差別的な風習に対する批判である。パナヒ監督は過去にも「チャドルと生きる」や「ある女優の不在」といった作品で、女性差別の社会に強い批判をしてきたが、ここでもその主張が繰り返されている。

 最終的に新作映画の方も、村の話の方も悲劇的な結末を迎え、何ともやるせない思いにさせられる。しかし、最後にパナヒ監督が”ある決断”を下す所で映画は終わっており、そこに自分はある種の頼もしさを覚えた。
 今目の前で起こっている理不尽な現実から決して目を逸らさないという思い。作品を通してこの現実を世界に伝えるという作家としての使命。そんなパナヒ監督の強い信念が感じられた。

 もう一つ印象に残ったのは、中盤でパナヒが助監督から隣国トルコへの越境を勧められる場面である。ここで彼は国境を超えるかどうか迷うのだが、ここにも彼の強い信念が感じられた。結局国境を越えなかったということは、おそらく彼は今後もイランに留まりながら映画を撮り続けるのだろう。その勇気は感嘆に値する。今後も彼の作品は追い続けていきたいと思った。

 演出はドキュメンタリータッチを基調としており、時折目を見張るような長回しも見られる。特に、虚実を往来するオープニングシーンは正にパナヒ監督の真骨頂という感じがした。

 尚、タイトルの「熊」だが、これは動物の熊に例えた暗喩である。パナヒ監督は村人から「この通りには熊が出るから注意するように」と警告されるが、その意味については色々と解釈できよう。自分は一種の「脅し」と捉えた。
 「脅し」は実際に危害を加えなくても、すると思わせればそれだけで効果的である。つまり、実際に「熊」がいるかどうかは問題ではなく、いると思わせればいいわけである。力の強い者が弱い者を支配する常套句。昨今のモラハラ、パワハラ問題に通じるものを感じた。

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ありの
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