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伊丹十三監督回顧上映、台北で大盛況 宮本信子が伊丹監督との公私の思い出を語る

2022年11月12日 19:00

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台北の観客の大反響を喜ぶ宮本信子
台北の観客の大反響を喜ぶ宮本信子

台湾・台北金馬映画祭で開催中の伊丹十三監督回顧上映で、宮本信子が台北の威秀影城 VIESHOW Cinemasでの舞台挨拶、観客とのQ&Aに参加した。

伊丹プロダクションの全面的な協力のもと、日本映画放送が全10作品を4Kデジタルリマスター化。「タンポポ」(1985)を除く9作が台北金馬映画祭で世界初上映となる。11月11日夜の「お葬式」の上映では、若い世代の観客で埋め尽くされた客席を前に、「こんなに若い人たちが……日本ではなかなかこういう風景は見られないので」と宮本は感無量の様子で感謝の言葉を伝えた。

台湾での劇場公開用ポスター
台湾での劇場公開用ポスター

映画監督デビュー前は俳優、デザイナー、エッセイスト、CMプランナーなどマルチに活躍していた伊丹十三監督。「伊丹万作という偉大な父親がいたので、映画を撮ることは考えていなかった」そうだが、デビュー作となる「お葬式」製作のきっかけが、宮本の父親の葬儀だったことを明かす。

司会を務めた、台北金馬映画祭CEOの聞天祥(ウェン・テン・シャン)氏に「80年代、伊丹十三監督について記事を読んだ記憶があって、伊丹監督が、自分の作品には必ず宮本信子に出演してもらうと書かれていたのですが、本当ですか?」と問われると、「初めて聞きました(笑)」と返答し、会場も爆笑。その後「伊丹さんは『僕たちはジョン・カサベテスジーナ・ローランズみたいに夫婦で、ずっと(監督&女優の関係で)やっているのは世界でそんなにいないよね』と言っていました」と懐かしんだ。

そして、「『お葬式』は初めての監督作品です。すごいと思ったのは、『キャメラを神聖化しない、画面をみんなで共有化する』と言って、モニターをつけたんです。日本で最初だと思います。そういう新しいことをどんどんやった。スタイリストやフードコーディネーターを取り入れるとか。今まで日本映画界がやったことのないことをやったということが印象に残っています」と伊丹監督の才能を称えた。

台湾での劇場公開用ポスター
台湾での劇場公開用ポスター

翌12日は「タンポポ」の上映後に、当時のプロデューサーを務めた伊丹プロダクションの玉置泰代表取締役会長とともに、観客からの質問に答えた。私生活のパートナーでもあった伊丹監督とのなれそめを尋ねられ、NHKドラマ「あしたの家族」(65)での初共演時を振り返る。

「まだ私は幼くて、伊丹さんは外国の映画『ロード・ジム』や『北京の55日』に出られていて、すごくハンサムでおしゃれで……昼間からビールなんて飲んでいて。そういうのは当時はルール違反だったのですが、すごく素敵で。違う星から来た、そんな感じがしました」「ちょっと近寄りがたい、私としては危険な感じのおじさんに見えたんです。12歳違いますし。当時ディレクターと伊丹さんが、どちらが宮本信子をお茶に誘うか、賭けをしていたんです。私が『セリフを覚えなければ……』なんて言っていたらディレクターさんはあきらめたんです。だけど伊丹さんはしつこくて、全然あきらめなかった」と俳優時代の伊丹監督について語る。

「結婚当初は先生と生徒みたいな間柄で、緊張する毎日でした。彼は子どもはいらないといっていましたが、人口問題を気にしていたから、私は『(私たち)ふたり減るから、ふたり産んでもいいんじゃないんですか』って、言ったんです(笑)。その後一緒に映画を作るようになって、だんだんパートナーとして認めてくれるようになったと思います。そこから私は強くなったと思います」と結婚生活についても語った。

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海外でも高い評価を受ける伊丹映画の特徴について、玉置氏は「伊丹さんは常に今の日本人というものを考えて作っていた。そして社会的な事象、興味を持ったもの、たとえば『お葬式』がヒットし、税金を取られてそれが面白いと思って『マルサの女』ができた。そして暴力団を法律で抑えようとなったときに『ミンボーの女』ができたり。26年前にも日本は給料が上がらないのに、物価が上がった時期があって、価格破壊という言葉ができて、『スーパーの女』ができた。あの映画は女性が主人公ということで面白くなった。そんな風に宮本さん主演で伊丹映画10本ができた」と分析する。

宮本はそんな玉置氏の発言を受け、「いちばんすごいのは、彼はそういったことを全部エンタテインメントにしたこと。伊丹さんが作りたい映画(の要素)というのが3つあって、ひとつは“びっくりする”、ふたつは“面白い”、三つ目は“誰にでもわかる”ということ。田舎のおじいさんやおばあさんが見ても面白いものをと言っていました。なにか問題があってもいつもユーモアがあって明るくて面白くて。それが伊丹映画だと思いませんか?」と観客に問いかける場面も。

そして、「彼は脚本を書き終わったら、『君へのプレゼントだよ』って手渡してくれました。それまでは、映画のヒロインって静かでおとなしくて古風な感じの女性が多かったと思うのですが、伊丹さんの映画は前向きで男と戦う勇気のある女性像。そこから日本映画は変わったと思います。いろんな映画ができて、女優としてなんて幸せなんだろうと思いました」と10作品全てに出演し、演じた役柄に思いを馳せる。

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また、「大病人」「マルタイの女」「静かな生活」では伊丹監督の経験が生かされているのでは?という質問を受け、「『ミンボーの女』で暴力団に襲われて、顔を切られました。もう少し深ければ危なかったのに、救急車の上で、『あなたじゃなくてよかった』と。そして、『大病人』では映画の“顔”であるスクリーンを切られたこともありました。私はそれがショックで、映画を作るにはこんな覚悟がいるんだなって。そういうことがあって、伊丹さんは死ということについても考えたのでは」と、伊丹監督を襲った悲しい事件についても言及していた。

お葬式」「タンポポ」の上映はともに満席。上映中に何度も大きな笑いが起こるなど、宮本の登場もあり、会場は連日大きな盛り上がりを見せていた。伊丹十三監督全10作品の4Kデジタルリマスター版は、2023年1月、日本映画専門チャンネル、日本映画+時代劇4Kで、オールメディア独占・TV初放送される。

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