第72回ベルリン映画祭授賞式、栄誉賞イザベル・ユペールがコロナ陽性でオンライン参加
2022年2月17日 11:00
第72回ベルリン国際映画祭で栄誉賞を授与されるイザベル・ユペールが、コロナテストで陽性が判明し、出席を見送る事態になった。もっとも、自覚症状はほとんどないということで、式にはオンラインで参加した。ユペールとは旧知の仲で、本映画祭で特別上映されたロラン・ラリヴィエール監督の新作「About Joan」で共演を果たしたドイツのラース・アイディンガーが、ラブレターと言えるような熱烈な賛辞を述べ、続いてラリヴィエール監督が挨拶をし、代理で金熊像を受け取った。
パリの自宅からスクリーンを通してこの光景を見ていたユペールは、感極まった様子で、「わたしの熊に触りたいです。いまちょっと孤独を感じていますが、とても嬉しいです」と挨拶。さらに新作の経験を語ったあと、「わたしの部屋には、これまで一緒に仕事をしてきた監督たちが住み着いています。映画なしではわたしの人生は想像できません。映画は世界に通じる窓です。映画は我々をより良く、幸福にしてくれるものです」と締めくくると、会場に大きな拍手が起こった。
「About Joan」は、若い頃の激しい恋愛の痛手を負わせられた相手に偶然再会したのをきっかけに、封印してきた過去の人生を振り返り、解放される女性の物語。ユペールが再び、率直で心に残る演技を披露している。
今年のラインナップには女優が印象的な作品が多い。「アマンダと僕」が記憶に新しいミカエル・アースの新作「Les Passagers de la nuit」におけるシャルロット・ゲンズブール、クレール・ドゥニが作家クリスティーヌ・アンゴとともに脚本を書いた「Avec Amour et acharnement」のジュリエット・ビノシュ、フィリス・ナジー監督の「Call Jane」におけるエリザベス・バンクスとシガニー・ウィーバー、ウルシュラ・メイヤーの「La Ligne」で共演したバレリア・ブルーニ・テデスキとステファニー・ブランシュ、2015年パリのコンサート会場で起きたテロの惨劇をイサキ・ラクエスタが映画化した「Un Ano,una noche」のノエミ・メルラン、さらに無実にも拘らずグアンタナモに収容された青年の実話をもとにしたドイツ映画「Labiye Kurnaz Vs. George W. Bush」で、パワフルな母親に扮したメルテム・カプタンなど。偶然とはいえ、女性の活躍を意識させられた。
ところで、日本ではあまり知られていないかもしれないが、ベルリン映画祭と連動して行われるイベントに、ヨーロッパ映画で活躍する新進俳優の才能を讃える「ヨーロピアン・シューティング・スターズ」がある。毎年、目立った活躍を果たしたヨーロッパ各国の俳優たちをセレクトし、ベルリン映画祭の公式行事としてセレモニーがおこなわれる。過去にはアリシア・ビカンダー、リズ・アーメッド、アルバ・ロルバケルなど、いま第一線で活躍する俳優たちが受賞している。
今年は10カ国にわたる男優と女優が選ばれたが、中でも今後スターになるのは確実と思われるのが、フランスのアナマリア・バルトロメイだ。昨年ベネチア映画祭金獅子賞に輝いたオドレイ・ディワン監督作「L’Evenement」でヒロインを演じ、その演技が高く評価された。もっとも、2011年、当時12歳にして「マイ・リトル・プリンセス」でイザベル・ユペールと共演し、妖艶な娘を演じているだけに、新人と呼ぶのはいささか憚られるかもしれない。だが本人は、「『L’Evenement』が作品として評価を受け、こうして自分も賞を受けることでようやく、役者としての自覚が持てるようになった」と語る。今後益々の活躍を期待したい。(佐藤久理子)