【コラム/細野真宏の試写室日記】「ルパンの娘」。武内英樹監督作「のだめ」「テルマエ」「翔んで埼玉」似ているのはどれ?
2021年10月13日 10:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末の10月15日(金)には上映規模が300館超えの大作が一気に4本も公開される、という異例な週となっています。
まずは目下、本年度邦画実写1位の大ヒットとなっている「東京リベンジャーズ」や、それを追いかけている「マスカレード・ナイト」など、絶好調なフジテレビ映画が放つ「劇場版 ルパンの娘」。
この「ルパンの娘」で注目すべき点は、何と言ってもフジテレビの武内英樹監督作品、という部分です。
武内英樹監督といえば、直近では「翔んで埼玉」の監督として有名でしょう。
埼玉県を(愛ある)ディスりで描き出し、ローカルネタにも関わらず、まさかの興行収入37.6億円の大ヒットを記録し、2020年に発表された日本アカデミー賞では「最多ノミネート」を果たしました。
さらには2020年3月6日の授賞式では「最優秀監督賞」を受賞し、フジテレビ社員であるにも関わらず日本テレビに登場してスピーチするという異世界を生み出したりと、最後まで楽しませてもらった作品でした。
そんな武内英樹監督が次に手掛けたのが本作「ルパンの娘」となっています。
そもそも武内英樹監督は2009年の「のだめカンタービレ 最終楽章 前編」から映画のメガホンをとっています。
その「のだめカンタービレ 最終楽章 前編」は興行収入41.0億円を記録し、総監督に回った2010年の「のだめカンタービレ 最終楽章 後編」では興行収入37.2億円となっています。
その後、2012年に「テルマエ・ロマエ」という“時空を超えた入浴スペクタクル”という異色作を監督し、興行収入59.8億円という、ちょっとした社会現象的な大ヒットを記録しました。
そして、2014年に続編「テルマエ・ロマエII」を作り、こちらも興行収入44.2億円という大ヒットを記録しています。
ちなみに、ここまでの4本は、フジテレビ映画×東宝配給、という最強タッグだったのですが、2018年にはフジテレビ映画×ワーナー・ブラザース配給でオリジナル作品「今夜、ロマンス劇場で」を手掛けます。
こちらは、これまでのような派手さのある作品ではなかったこともあり、興行収入10.2億円となっています。
そして、2019年の「翔んで埼玉」は、フジテレビ映画×東映配給に変わりましたが、これがまさかの興行収入37.6億円という大ヒット作となったのでした。
これで武内英樹監督は東映と仲が深まったのか、本作「ルパンの娘」も東映配給となっているのです。
では、本作「ルパンの娘」は、これまでの武内英樹監督作品の、どの作品に近いのでしょうか?
まず、「ルパンの娘」は、2019年にフジテレビ系列で連続ドラマとなっていて、さらにはその続編が2020年に連続ドラマとなっています。
つまり、「連続ドラマの映画化」という流れなので、構造としては「のだめカンタービレ」に似ていると言えます。
具体的には、「連続ドラマの内容を知らなくても、映画が楽しめる」という構造になっているのです!
思えば、「のだめカンタービレ 最終楽章」はかなり好きな映画でしたが、私は「月9」での連ドラ「のだめカンタービレ」は一切見ていませんでした。それでも映画は十分すぎるほど楽しめたのでした。
本作「ルパンの娘」の場合では、冒頭で「これまでのまとめ」が楽しい感じで紹介されます。
この「つかみはOK」的な雰囲気は、「翔んで埼玉」に似ているのかもしれません。とにかく「小ネタの応酬」で、すぐに“武内英樹監督ワールド”に引き込んでくれます。
さらには、“時空を超える”プチSF的な要素もあったり、映画では「ディーベンブルク王国」といった舞台で日本ではないため、その面では「テルマエ・ロマエ」に似ている、とも言えます。
このように、連ドラの映画化で舞台が海外という面では「のだめカンタービレ」、舞台が海外や“時空を超える”面では「テルマエ・ロマエ」、脚本が「翔んで埼玉」と同じ徳永友一という面では「翔んで埼玉」に近いのかもしれません。
つまり、良いとこ取りをしているような作品で、コメディ、ホームドラマ、アクション、ミステリー、SF、ラブストーリー、さらにはミュージカルまで幅広い分野を“武内英樹監督ワールド”で楽しませてくれるのです!
本作の懸念材料があるとすると、連ドラの視聴率がそれほど良くなかった点でしょう。
そもそも連ドラ向きの題材であったのかどうかも難しいところです。例えば、「翔んで埼玉」を連ドラで展開していたら、視聴率の面ではダメな結果になるでしょうし。
「ルパンの娘」については、おそらくこの映画が最初から予定されていて、連ドラは「前フリ」的な要素だと思われるので、これまでのように武内英樹監督作品を映画単体で楽しむ感じでいいのではと思います。
文字通り、約1分での映画内の解説で、このドラマでの予備知識は本当に分かってしまうので。
とは言え、映画の中にちりばめられたドラマの象徴的なシーンは効果的で、連ドラがあったからこその「深み」のようなものを生んでいる面もあります。
そのため、連ドラを見ていた人には、よりハマる作品になっているとも言えます。
本作は個性的なキャラクターが集まっていますが、さすがの演出力とキャスティング力で、どのキャラクターもハマっていました。
「ミッション:インポッシブル」シリーズのようなオープニングなど、カッコイイ映像の一方で、SF的なものは逆にアナログ風な映像だったりと、まさに「カオス」な雰囲気は本作ならではでしょう。
個人的な関心事としては、武内英樹監督作品は全てが興行収入10億円という「ヒット作のライン」を突破しているので、大作映画がひしめき合うコロナ禍の今も、この記録が維持できるかに注目しています。
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