【コラム/細野真宏の試写室日記】「シャン・チー テン・リングスの伝説」。アジア系マーベル作品はヒットするのか?
2021年9月2日 10:00
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映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
いよいよ今週末の9月3日(金)から、「アベンジャーズ エンドゲーム」以降の世界を舞台に、マーベルの新たなヒーローが活躍する映画が公開されます。
その新ヒーローの名は、シャン・チー。
名前からもわかるように、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)作品では初めての「アジア系のヒーロー」となっています。
まず、「テン・リングス」というのが大きなキーワードとなります。
これは、10個のリングからなる「伝説の腕輪」という意味と、その「伝説の腕輪」を操るリーダーによって作られた組織、という2つの意味があります。
実は、後者の「テン・リングス」という組織については、MCU作品のスタートであった2008年の「アイアンマン」の段階から登場していたのです!
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まずは、その「アイアンマン」の「復習」から。
「アイアンマン」の冒頭では、主人公トニー・スタークがアフガニスタンでテロ組織に捕まります。
その際に、アジトとなる洞窟に連れて行かれるのですが、よく見ると、その洞窟には「10個のリング」が描かれた「テン・リングス」の垂れ幕があったのです。
そして、2回ほど「テン・リングス」の組織名が登場していました。
ただ、この時の「テン・リングス」は、アルカイダ的なテロ組織のような風貌であったため、本作とはだいぶ印象が異なります。
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実は、この10個のリングからなる「伝説の腕輪」は“永遠の命”を持つことが可能で、トニー・レオン演じるシャン・チーの父親が1000年前にリーダーとして作った組織が「テン・リングス」なのです。
そして、トニー・レオンは香港の俳優であることからもわかるように、本作での「テン・リングス」は中華系の組織という印象です。
そのため、本作の主役シャン・チーは、中国生まれのカナダ人のシム・リウが大抜擢されています。
また、シャン・チーの伯母には、中国系マレーシア人のミシェル・ヨーという、こちらもトニー・レオンと同様に、長きにわたって香港、ハリウッドで活躍する俳優が起用されています。
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このように、本作は、「中華系の作品」の雰囲気が強くなっているのです。
これは、そもそも「シャン・チー」というキャラクターが、1973年にマーベル・コミックに登場した時からアジア系だったのが最大の理由です。
ただ、中国の映画市場が、いずれはアメリカを抜いて世界最大となるほど巨大になり、ハリウッドから見て、魅力が増していることも大いに関係があると言えます。
それもあってか、「シャン・チー」の次回作は「エターナルズ」で、昨年度のアカデミー賞で作品賞、監督賞などを受賞した「ノマドランド」の中国人監督、クロエ・ジャオがメガホンをとっています。
「エターナルズ」でもメインキャラクターを演じるのは中国系イギリス人のジェンマ・チャンだったり、韓国系アメリカ人のマ・ドンソクも出演します。
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ところが、ちょっとした「誤算」が生じてきています。
「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督が過去に中国の批判を行なっていたことが問題視されたようで、昨年度のアカデミー賞の授賞式は中国では中継されていません。
さらに、「ノマドランド」の中国公開も消えたままになっています。
そして、5月に入ってから中国のChina Movie Channelは、中国当局によって「エターナルズ」の公開に加えて「シャン・チー テン・リングスの伝説」まで中国の公開リストから外したと報じているのです。
この2作品は、おそらく中国が最大のマーケットだったため、もし、このまま2作品が中国で公開されないと、かなりのダメージがあると想定されます。
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このような背景のある作品ですが、「シャン・チー テン・リングスの伝説」の構成としては、舞台がアメリカと中華圏という2つになっているため、まだ世界でウケる可能性はあります。
それは、主役のシャン・チーが、幼少期から暗殺者として育てられたのですが、トニー・レオン演じる父親から逃げる形で「ホテルマン」としてアメリカにいるからです。
そして、そのホテルマンの友人にケイティという最も付き合いの長い友人がいます。
その友人ケイティも、「クレイジー・リッチ!」「フェアウェル」「ジュマンジ ネクスト・レベル」で有名な中国系・韓国系アメリカ人のオークワフィナがキャスティングされています。
そのため、本作は、見た目としても「アジア系の映画」という印象が強くあります。
ちなみに、このケイティには、特に特殊能力はないのですが、シャン・チーの良き理解者として“相棒”になっているのです。
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序盤のアメリカでのシーンでは、バスの中の「マーシャルアーツ(武芸)」のアクションシーンが見どころの1つとなっていて、そこで封印していた力を解き放つことで「本題」が始まります。
そこからは舞台が中国に移り、後半ではこれまでのMCU作品とは少し違った作風となっていきます。
とは言え、日本ではジャッキー・チェン主演映画などでお馴染みの雰囲気でもあるため、普通に入り込める人は多いと思います。
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さて、本作から、ようやくMCU作品が東宝、松竹、東映といった国内映画配給会社系列の大手シネコンでも見ることができるのです!
それは、ディズニーが同時配信にはせずに、劇場最優先の形をとるからです。
ただし、アメリカでは「45日ルール」というのがあり、公開46日以降はディズニープラスで配信されます。
この「45日ルール」が日本ではどうなるのか。そして、公開46日以降はディズニープラスで有料配信なのか、無料配信になるのか、で興行収入の見通しも変わってくるのです。
いずれにしても、世界の映画市場を再び席捲するのは確実な「MCU作品」。その新キャラクター作品なので、大規模なMCU作品は映画館の大スクリーンで見たい人も多いでしょう。
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一方で、MCU作品では、初登場のキャラクター主演作品は、日本においては意外と苦戦している事実もあります。
そのため、本作は興行収入10億円を突破できるかどうかが、まずは大きな注目点となりそうです。
なお、本作も他のMCU作品と同様に、エンドロールの途中や、その後にも映像は続きます。エンドロールが始まっても席を立たずに最後まで見逃さないようにしましょう。
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