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【インタビュー】藤原竜也と西野七瀬が奏でた芝居の妙味

2021年8月21日 11:00

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取材に応じた藤原竜也(右)と西野七瀬
取材に応じた藤原竜也(右)と西野七瀬

映像化不可能、映像化困難といわれる類の作品はこれまでに幾度となく出合ってきたが、そんな謳い文句を掲げた作品に限って、数年後に映像化されている傾向が強いと感じる人は少なくないはず。不可能とされる原因がCGやVFXに関連した技術的なものなのか、製作費が絡む予算的なものなのかにもよるが、少なくとも今作はいずれも該当しない。不可能といわれた理由は、原作者・佐藤正午氏の筆致が映像作家たちの追随を許さなかったからに尽きる。

直木賞作家・佐藤氏の作品群のなかでも最高到達点と評されることがある今作だが、タイトル「鳩の撃退法」が、まず意味不明。オンラインの世界ではSEOという概念が重要視されがちだ。特定のキーワードでネット検索した際、ページが上位に出てくるよう工夫することを意味するが、試しに今作を検索してみると映画の公式サイトの上に「ハト駆除対策」「鳥害対策」などの広告が幾つも並ぶ。さて、前置きが長くなったが主演の藤原竜也、共演の西野七瀬は不思議なタイトルの作品と対峙するに際し、どのような心持ちで富山県での撮影に臨んだのだろうか……。(取材・文/大塚史貴)

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蜷川幸雄氏演出の舞台で鍛え抜かれ、卓越した演技力で数々の難役に挑んできた藤原だが、今作ではかつて直木賞を受賞したこともある天才作家・津田伸一という何とも謎めいたキャラクターに息吹を注ぎ込んでみせた。

藤原「今回、僕は原作を一切読まずに入ったのですが、何をもって『鳩の撃退法』というのか分からなかったですし、撮影中は実際、面白くて……。自分が津田として小説を書きながら、現実の世界と小説の物語が交錯していくという話じゃないですか。だから僕らも謎解きといいますか、撮影しながら実体験をさせてもらっている感じで富山での1カ月を過ごしました。撮影なのか現実なのか分からないくらいの狭間でやっていましたし、やりながら紐解いていくわけです。脚本を読んだ時点では分からない部分がいっぱいあったので、現場に入ってから理解していったことの方が多かったですね」

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藤原が語るように、今作は小説と現実、過去と現在が交錯しながら進んでいく。元直木賞作家の津田は、都内のあるバーで担当編集者・鳥飼なほみ(土屋太鳳)に執筆途中の新作小説を読ませていた。富山の小さな街で経験した“ある出来事”をもとに書かれた内容に心躍らせる鳥飼だが、話を聞けば聞くほど小説の中だけの話とは思えない。鳥飼が津田の話を頼りに小説が本当にフィクションなのか検証し始めると、驚愕の真実が待ち受けていた……。

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一方、西野が演じたのは、津田が富山で足繁く通っていたコーヒーショップの店員・沼本。「ぬまもと」ではなく、「ぬもと」。津田のことが気になる様子で、軽口を叩き合ったりもする。また、フィクションなのか否かを検証するため富山を訪れた鳥飼と知り合い、街を案内する役割も果たしている。今作にヒロインという立ち位置のキャラクターは必要ないが、随所で登場する心が和むシーンには必ずと言って良いほど西野の姿を確認することが出来る。

西野「沼本という人物が、あまり掴みどころがないなと思っていたんです。結局、そのまま沼本のことを分かり切らないまま終わった感じはあります。ただ、沼本はそれで成立しちゃうのかな……とも感じていました。あまり一貫性を持っていなくても、沼本になるかなと思って演じていました」

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出演本数こそ多くない西野だが、与えられた役回りできちんと存在感を示している印象がある。今作とはテイストが全く異なる、「孤狼の血 LEVEL2」での真緒役も然り。そんな西野は鳥好きとして知られ、そのきっかけは鳩だったとか。

藤原「そうなの? どうして好きなの?」

西野「鳩の鳴き声ってあるじゃないですか。あれが鳩であると認識したのが小学生の頃だったんです。そう認識した瞬間、今までただの鳩として見ていたのが、すごく魅力を感じるようになったんです。『この子たち、歌うんだ!』って。鳥ってチュンチュンとかカーカーとか、単発が多いじゃないですか。なのに、鳩はメロディを奏でているって気付いてからはずっと気になる存在なんです(笑)」

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「鳩」に引っ掛けた余談が続いたが、今年30代ラストイヤーを迎えた藤原はデビューから24年が経過している。藤原といえば蜷川組をはじめとする舞台が主戦場であると周知の事実だが、映画にも40本近く出演するほど多くの映画人たちから愛されている。映画の師匠といえば、藤原を「バトル・ロワイアル」に大抜擢した故深作欣二監督だろう。藤原にとっていま、映画という分野において共闘できると信頼のおける存在はいるのだろうか。

藤原「難しいですねえ。深作欣二監督からは、映画の楽しさをたくさん教えていただきました。演劇では蜷川さんがいたわけですが、当時は現場で『この人のためにエネルギーを使おう!』とか、『この人が喜ぶ顔が見たいから何とか次のステップへ自分を持っていって凄いものにしてやろう!』という熱意を抱きながら演じていましたね。秤を失った今、どこに自分のモチベーションを持って行ったらいいのか、何のために自分は表現をしているのかなどと考えることもありますが、舞台では蜷川さんの遺志を継いだ吉田鋼太郎さんをはじめ素晴らしい演出家がたくさんいらっしゃいます。映画においても、才能に溢れた監督さんは数多くいらっしゃいますから、作品に出させていただくたびに、ひとつひとつの出会いを大切にしていきたいですね」

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真摯な眼差しを真っ直ぐこちらに向けてくる藤原は、今作でも意欲的なチャレンジをしているといい「意識的にやったのが、すごく実験的なことなんです」と明かす。

「今回は、リハーサルに時間を多く取らず、一発で撮っちゃう現場だったんですね。それで『ここは句読点、いらないだろうな』とか『スピード重視で言ってみよう』『でも言葉が伝わらなかったら大変だから、この言葉を立てて……』とか、演劇的な表現を当ててみたんですね。やっているうちに『間違っていないな』と思えてきたので、そのまま最後までやってみたんです。自分の中で新しい挑戦が表現として出来たので、そこは収穫でしたね」

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酸いも甘いも知り尽くした藤原は、淡々とそう語る。今作で初めて対峙した西野は、現場で何を思ったか。

西野「津田と沼本は常連客と店員の関係なので、距離感が近いというのは分かっていたんですけど、私の中に緊張とか邪魔なものがあったことで仲の良さが作れていない、表現できていなかったんですね。それで、(タカハタ秀太)監督が『ちょっとハグとかしてみたら?』って…」

藤原「ははは、ちょっと変わった監督なんですよ」

西野「ハグの次に『抱っこしてもらったら?』と仰られて、急にお姫様抱っこをしてもらって……。でもそれで、ちょっとほぐしてもらったというのはありましたね。距離感が微妙に近いというお芝居をこれまでしたことがなかったので、そこが難しかったです」

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藤原「確か撮影の序盤だったんだよね。僕は傍から見ていて、彼女にはキャッチ出来ない感情とか表現を監督が強く求めている部分があったんですよ。七瀬ちゃんは嫌な顔せずに、監督とすごく話をすることでそれを乗り越えていったんじゃないかなと思いましたね。僕だったら『出来ません』って言っちゃうよ(笑)。七瀬ちゃんはちゃんと向き合って、言葉としても心情としても監督とセッションを重ねながらやっているな……、という印象を抱いていました」

現場での奮闘ぶり、芝居のアプローチを“先輩”がしっかりと見守ってくれていたという事実に、西野の表情は自然と綻ぶ。そんな西野の母親は、大の映画ファンだったという。

西野「母が映画好きなので、しょっちゅう一緒に映画を観に行っていました。行きたかったわけではないんですが、『リング』にも連れて行ってもらって、映画館であんなに怖い映画を観たことがなかったので、すごく記憶に残っています(笑)。大スクリーンで観て、本当に怖かったんです」

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一方の藤原にとって、幼少期の記憶に残る映画体験はどのようなものだったのだろうか。聞いてみたら、誰も想像がつかない作品のタイトルが挙がってきた。

藤原「小学生低学年の頃のある日、学校内がざわついていたんですよ。埼玉の秩父は当時、大きな映画館がなかったのですが、市民会館みたいなところでもの凄い映画が上映されると。とにかく凄い映画だと。それで僕らは家に帰って、『凄い映画だから観に行っていいか』と母親にねだってチケット代をもらい、子どもたちだけで初めて観に行った映画が『ザザンボ』っていう……。子どもたちがなんでそんなにざわついたのか。内容が全く分からなくて、映画というのはこんなに難しいのかと。今でいうアングラな芝居を見る感覚に近かったのかなあ。ある意味、違う衝撃を受けた映画でしたね」

話の展開が対照的なふたりだが、劇中での共演シーンでは観客の心を和ませるアクセントを加えることに成功している。近い将来、更なるキャリアアップを果たした西野が、再び藤原と相対す日が来ることを楽しみに待ちたい。

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