「オールド」の源は認知症の父&我が子の成長だった シャマラン監督が語る、映画に込めた個人的体験
2021年6月29日 09:00
ニューヨーク・トライベッカ映画祭で行われたトークイベント「トライベッカ・トーク」に、「オールド」のM・ナイト・シャマラン、キャストのアレックス・ウルフが出席。ウルフが司会を務め、シャマラン監督が「オールド」の秘話、過去作について言及した。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
「シックス・センス」「スプリット」など、スリラー映画の名手シャマラン監督の新作「オールド」のテーマは“時間”だ。とある家族がバカンスで訪れたビーチで、“時間”が異常なスピードで加速し、身体が老いていく不可解な現象に見舞われ、謎を解かなければ脱出できない恐怖とサバイバルを描く。ウルフのほか、ガエル・ガルシア・ベルナル、トーマシン・マッケンジー、エリザ・スカンレン、ビッキー・クリープスらが出演。日本では、8月27日から全国公開を迎える。
まずシャマラン監督が語ったのは、ニューヨーク大学に通っていた頃の“分岐点”だ。
シャマラン監督「ニューヨーク大学に在籍していた頃は、わりと成績が良かった。監督になる夢に火がついたのは、スパイク・リーの本を読んだり、彼の映画『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』を鑑賞した時のこと。でも、僕の両親だけでなく、叔父、叔母も医者だ。親戚のうち14人が医者で、僕もその道を進むと思われていた。そんななか、志願した学部はニューヨーク大学のTISCH(芸術学部)だった」
そして、熱心なスポーツファンの父への告白の瞬間が訪れた。「ホッケーの試合を見ていた時『お父さん、僕は奨学金でニューヨーク大学のTISCH(芸術学部)に行く』と告げた。父はソファで頭を抱え、テレビをじっと見つめたたまま。僕の方は見ずに、うなだれて、かなりがっかりした様子だった」と振り返る。未知の世界に自ら足を踏み入れたシャマラン監督。当初は行く先もわからず怯えていたそうだが、スパイク・リーと知り合い、彼の協力を得たことで、映画の道を歩んでいくことになったそうだ。
シャマラン監督は、舞台に出演してきた人々を雇うことが多い。その理由については「少し物議を呼ぶことを言うが、僕は監督初期の頃に、こう考えていた。俳優としての技術がより必要になるのは、一番下がテレビ、その次が映画、最後に演劇だと思っていた」と明かす。
シャマラン監督「なぜなら順序が上がるごとに、(作品に)より時間をかける必要があるからだ。例えば、ある場面で“怒る”というシーンがあるとする。もし、それを演劇で表現するのであれば、舞台上のどこにいても怒りのエネルギーを保っていなければいけない。自分のやり方を考えすぎたり、計算しすぎたりすることはできない。俳優にはアイデアを考えてもらい『体で覚えよう』として欲しくないんだ。例えば『オールド』で『僕らはこのビーチを離れなければいけない』というセリフを3度言うとしたら、3回目のテイクでは、自分が事前に持っていた演技のアイデアは失われ、再び同様のエネルギーでは発言できなくなる。まるでゴーストのように、同じテイクを繰り返すだけだ。だが、舞台俳優はテイクを繰り返すことで、より自発的に、それに乗っかって演技をすることができる。だから、僕は舞台で訓練された俳優が好きなんだ」
セットでは常にクールで落ち着いた態度を保ち、1度も感情を爆発させたことがないシャマラン監督。しかし「オールド」では、ハリケーンによって、何度もセットが破壊されるという被害に遭っていた。
シャマラン監督「(ハリケーンによる被害で)実際は涙が出そうになったが、(目を)隠していたんだ(笑)。『オールド』はパンデミックが起きてから、初めてキャスティングし、撮影をした大作だった。我々スタッフと俳優陣全員が、ドミニカ共和国で撮影できたことは、とても新鮮だった。撮影中は、我々で(コロナ禍の)ルールを作り、皆が同じホテルに泊まり、僕が全員の宿泊費を払うと告げた。それはホテルの清掃員、ケータリング業者、受付、駐車場で働く人も含めてだ。10週間分の撮影の約束をすることができ、僕が全ての出費をまかない、ホテルと撮影現場のビーチを行き来できればいいと思っていた」
シャマラン監督「そのうえ、僕らには独自のラボもあって、最終的には、ひとりもコロナ感染者を出さずに撮影を行うことができた。ところが、撮影スケジュールが変わってしまえば、こんな素晴らしい俳優陣を全員キャストすることができなくなる。そのため、撮影をハリケーンのシーズンにすることになってしまった。ハリケーンによってセットを壊されたこともあったが、僕がそのリスクを冒したのは、出演してくれた俳優陣と仕事をがしたかったからだ」
「オールド」撮影中、シャマラン監督はどのような映画を想起していたのだろうか。
シャマラン監督「製作中は、僕自身がインスパイアされた監督の作品を見ている。ただし、読む本や鑑賞する映画には気を払っている。なぜなら、自分が手掛けている最中の映画に、それらが直接反映されることがあるからだ。『スプリット』では、僕と撮影監督のマイケル・ジオラキスは、ロバート・アルトマンの作品をずっと鑑賞していた。そのなかでも『三人の女』に影響を受けて『スプリット』を撮影していたと思う。一方『オールド』で見ていたのは、オーストラリアのニューウェーブの作品。ニコラス・ローグ監督作『美しき冒険旅行』、ピーター・ウィアー監督作『ピクニックatハンギングロック』といった自然が関わる映画をよく鑑賞していたよ」
話題は、これまで手掛けてきた映画のなかで“個人的な作品”へと転じた。
シャマラン監督「例えば『アンブレイカブル』について。人生において、誰もが『僕はこういう人物だ』と言ってくれることに対して確信が持てなかった時期のことだ。ある朝、起きた時に灰色(の世界)に包まれるような感覚になった時があった。そんな感覚を抱いているキャラクターを、そのまま『アンブレイカブル』に書いている。『レディ・イン・ザ・ウォーター』では、社会との繋がり、神話のなかに居場所を見つけることで『我々は、神話を信じることができるか』を書いているんだ」
シャマラン監督「『オールド』で影響を受けたのは、僕の父の存在だ。歳をとって認知症になり、まるで駅を往来するように記憶が訪れては消えている。今、彼にトライベッカ映画祭に来ていることを告げてきているが、私の言っている事を理解しているかどうかはわからない。一方で、僕の子どもたちは、学生映画を監督したり、コンサートで歌ったりしている。いつの間にそういうことになったのだろう? そのように“瞬きをしたら、全てが変わってしまった感覚”を映画で描いてみたんだ。それは、赤ちゃんだった自分のオムツを変えてくれた人に対して、今度は逆に自分がオムツを変えてあげているような感覚。『これは、いつの間に起きたのか?』。そういった誰もが共感できる事を描いているんだ」
多くの大作や話題作を手掛けてきたシャマラン監督。既に次回作を視野に入れているようだ。
シャマラン監督「次回作における新たなキャラクターが、僕のことを呼んだり、その声が聞こえたりすると、脚本を書くのが待ち遠しくなる。僕は、アガサ・クリスティのような作家(アーティスト)が好きだ。彼女は小説を書くと、すぐに次回作に取り掛かっていた。(脚本家も含めた)作家は、それが喜びとなり、そこに我々のエネルギーがあるべきだと思う。このエネルギーは、人々に受け入れてもらうことを楽しみにしている。新作のキャラクターを、最も正直に、力強い方法で伝える。新しいキャラクターがどんなキャラクターであれ、書くのが待ち遠しくなるんだ」
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