海の怪物と人間は友だちになれる?「あの夏のルカ」が描く「“あなたを認めている”とはっきり示す」重要性
2021年6月20日 16:00

Disney+で配信中のディズニー&ピクサー最新作「あの夏のルカ」が、普遍的な友情物語とともに最高の夏を連れてきた。
映画は、海の世界に暮らす13歳のシー・モンスター、ルカの物語。物語の舞台となる北イタリアの美しい港町ポルトロッソの住民たちは、未知の存在であるシー・モンスターを何よりも恐れていた。実はシー・モンスターもまた得体の知れない生き物である人間の存在を恐れており、それぞれの世界は海面で隔てられ、決して交わることはない。シー・モンスターは身体が乾くと人間の姿になる性質を持つため、ルカは抑えられない未知の世界への憧れと好奇心を胸に、親友のアルベルトとともに人間になりきることに。禁断の地である人間の世界へと足を踏み入れ、人間の女の子ジュリアと出会ったことで冒険が始まる。

手掛けたのは、「月と少年」が第84回アカデミー賞の短編アニメーション賞にノミネートされ、今作で長編デビューを飾ったエンリコ・カサローザ監督。「カールじいさんの空飛ぶ家」のストーリーアーティストを務めたほか、「リメンバー・ミー」「トイ・ストーリー4」などにも参加した実力者だ。
カサローザ監督はスタジオジブリの大ファンとしても知られており、宮崎駿監督が「崖の上のポニョ」の絵コンテを水彩画で描いたことを知り、自身も「月と少年」の絵コンテを水彩画で制作。今作では、ピクサーの象徴ともいえる3Dアニメーションに、あえて2Dのあたたかな要素を入れ込み、自身のパーソナルな物語をファンタジーとして紡いだ。製作期間約5年のうち、4年間をともにしたプロデューサーのアンドレア・ウォーレン(「カーズ クロスロード」)とともに、製作の旅路を語った。(取材・文/編集部)

私たちはいつも、作品にして語れるようなパーソナルなことを探しているんです。自分が経験したことで、何か知恵を得たことはないか、何か感じたことはないかと。そこで私は、自分と親友とのことを考えてみました。私は過保護に育てられてシャイな性格だったのですが、私の親友は情熱的で、やりたいことを自由にやっていました。それを周りの人たちに話すと、みんな「ああ、私にもそんな友だちがいた!」と言っていて、これは面白いと感じました。親友は、私にはない何かを持っていました。彼に出会っていなかったら、私はいまの自分になっていただろうかと考えさせられましたね。成長するにつれてお互いに変化していく、彼と過ごしたのは、そんな特別な時間でした。これが、この映画の第1の要素です。
その次は、ではなぜこの作品はアニメーションで、なぜファンタジーでやるべきなのか、そして素晴らしいファンタジー要素をどう取り入れるかを考えました。そして辿り着いたのが、「もし彼らが海の怪物で、人間から隠れているとしたら?」というアイデアです。これは、民話から着想を得ています。日本の民話にも、キツネやタヌキが人間に化けて騙したりするようなものがありますよね。そういう民話を集めていると、これは興味深いと感じたんです。子どもは物事が変化していくことへの感覚が鋭いので、特に「これが私の体なの?」とか「なんだか周りに溶け込めない」と感じるものです。この2つの感情が一緒になることで、物語が面白くなりました。そして、最後に忘れてはならないのは、この映画の舞台は私が育った場所がモデルであるということです。


ジュリアも、ルカとアルベルトのように孤独を抱えていると興味深いものになると思いました。この3人は、心に空虚な場所を持っていると感じます。ルカはひとりでいて、両親にもあまりかまってもらえない。アルベルトは、父親に捨てられるというとても悲惨な過去を持っています。そしてジュリアは、両親が離婚しているのでときには父親とこの町で、ときには母親と別の場所で暮らしていて、友だちを作ることができずに寂しい思いをしている。加えて、彼女の気性の激しさのせいで友だちを作るのが難しいというのも、面白い設定だと思いました。彼女はある意味アウトサイダーなので、私たちはそこに別のアウトサイダー(ルカとアルベルト)を登場させることで素晴らしい物語を生み出したかったのです。
ストーリーアーティストにマッケンナという女性がいるのですが、彼女からたくさんのインスピレーションを受けました。彼女はとても陽気で、気性が激しく、何にでも愛を持って全力投球するような人です。絵コンテを担当していたマッケンナと、ジュリアの声を担当したエマ・バーマンのエネルギーが結びつき、ジュリアが計り知れない力を持つ存在となったのだと思います。ジュリアは本当に悪びれず堂々としている一方で、弱さも持っていて、その複雑さが大好きです。
でも友情を育むための重要な瞬間は、そういった勢いだけではありません。例えば、ルカは創意工夫を凝らして物事を解決する方法を見つけています。ルカは賢くて好奇心旺盛なんです。シー・モンスターの世界では誰もそれが良いことだとは思っていませんが、アルベルトが初めて「すごくいいアイデアだね」とルカの個性を認めて受け入れてくれます。“あなたを認めている”とはっきりと示すことは、非常に重要なことです。
そして、ルカにとってジュリアは素晴らしい別次元の存在です。オタク気質であることやジュリアから物事を学ぶことで繋がっているという感覚があり、このふたりの関係もとても気に入っています。“学ぶ”ということを面白くするのは簡単なことではないので、どうすればそこに楽しいトキメキをもたらすことができるかを考えました。答えは好奇心です。「次はなにが起こる?」「それは一体なに?」「私たち好みが似ているね!」というような感情です。シー・モンスターと人間のように、お互いを恐れている世界を描くことは大きな意味がありました。友情と異質性、そしてそれらをどのようにして橋渡しするのかについて、非常に深く考えましたね。

また、「やりすぎないほうがいいのはどんなときだろう?」という問いもありました。それはキャラクターにおいても重要なデザイン感覚でした。ただ画面にたくさんのものが表示されているのではなく、本当に明瞭で美しいデザインのものになっているのかと。このような要素をすべての部門で検討しました。
アニメーションについても考えました。2Dアニメーションをたくさん見て、インスピレーションを得ました。では、その要素をどうやって取り入れるか。2Dアニメーションでは、1秒間にたくさんの絵を描くための資金はありません。その少ない資金からインスピレーションを得て、ポーズを保持し、それを次のポーズにスナップさせることができるかどうかを考えました。なので、違う雰囲気のものを探すのはとても楽しかったです。みんなすごく興奮していましたね。人と違うことをするのは、作品にちょっとした奇跡をもたらすような気分です。(2Dと3Dが)コラボレーションしたことで、違いを見つけられたのも良かったです。

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