あの夏のルカ : インタビュー

2021年6月19日更新

海の怪物と人間は友だちになれる?「あの夏のルカ」が描く「“あなたを認めている”とはっきり示す」重要性

エンリコ・カサローザ監督(左)とプロデューサーのアンドレア・ウォーレン
エンリコ・カサローザ監督(左)とプロデューサーのアンドレア・ウォーレン

Disney+で配信中のディズニー&ピクサー最新作「あの夏のルカ」が、普遍的な友情物語とともに最高の夏を連れてきた。

映画は、海の世界に暮らす13歳のシー・モンスター、ルカの物語。物語の舞台となる北イタリアの美しい港町ポルトロッソの住民たちは、未知の存在であるシー・モンスターを何よりも恐れていた。実はシー・モンスターもまた得体の知れない生き物である人間の存在を恐れており、それぞれの世界は海面で隔てられ、決して交わることはない。シー・モンスターは身体が乾くと人間の姿になる性質を持つため、ルカは抑えられない未知の世界への憧れと好奇心を胸に、親友のアルベルトとともに人間になりきることに。禁断の地である人間の世界へと足を踏み入れ、人間の女の子ジュリアと出会ったことで冒険が始まる。

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手掛けたのは、「月と少年」が第84回アカデミー賞の短編アニメーション賞にノミネートされ、今作で長編デビューを飾ったエンリコ・カサローザ監督。「カールじいさんの空飛ぶ家」のストーリーアーティストを務めたほか、「リメンバー・ミー」「トイ・ストーリー4」などにも参加した実力者だ。

カサローザ監督はスタジオジブリの大ファンとしても知られており、宮崎駿監督が「崖の上のポニョ」の絵コンテを水彩画で描いたことを知り、自身も「月と少年」の絵コンテを水彩画で制作。今作では、ピクサーの象徴ともいえる3Dアニメーションに、あえて2Dのあたたかな要素を入れ込み、自身のパーソナルな物語をファンタジーとして紡いだ。製作期間約5年のうち、4年間をともにしたプロデューサーのアンドレア・ウォーレン(「カーズ クロスロード」)とともに、製作の旅路を語った。(取材・文/編集部)

※本記事は、「あの夏のルカ」の内容に触れています。


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――ルカはとても可愛らしいキャラクターですね。

カサローザ監督 そうなんです。ピクサーのチーフ・クリエイティブ・オフィサーのピート・ドクターが、数カ月前に当時の最新版の上映会で、「ルカを養子にしたい!」と言っていたのを覚えています。彼は本気でルカを養子にしたがっていましたよ(笑)。

――このプロジェクトはどのように始まったのですか?

カサローザ監督 私は短編の「月と少年」を作った経験はありましたが、(この企画の)最初は、クラスの後ろの方から手を挙げて「長編のアイデアを売り込んでもいいですか?」という感じでした。そしたらみんなが「いいよ!」って言ってくれたんです(笑)。

私たちはいつも、作品にして語れるようなパーソナルなことを探しているんです。自分が経験したことで、何か知恵を得たことはないか、何か感じたことはないかと。そこで私は、自分と親友とのことを考えてみました。私は過保護に育てられてシャイな性格だったのですが、私の親友は情熱的で、やりたいことを自由にやっていました。それを周りの人たちに話すと、みんな「ああ、私にもそんな友だちがいた!」と言っていて、これは面白いと感じました。親友は、私にはない何かを持っていました。彼に出会っていなかったら、私はいまの自分になっていただろうかと考えさせられましたね。成長するにつれてお互いに変化していく、彼と過ごしたのは、そんな特別な時間でした。これが、この映画の第1の要素です。

その次は、ではなぜこの作品はアニメーションで、なぜファンタジーでやるべきなのか、そして素晴らしいファンタジー要素をどう取り入れるかを考えました。そして辿り着いたのが、「もし彼らが海の怪物で、人間から隠れているとしたら?」というアイデアです。これは、民話から着想を得ています。日本の民話にも、キツネやタヌキが人間に化けて騙したりするようなものがありますよね。そういう民話を集めていると、これは興味深いと感じたんです。子どもは物事が変化していくことへの感覚が鋭いので、特に「これが私の体なの?」とか「なんだか周りに溶け込めない」と感じるものです。この2つの感情が一緒になることで、物語が面白くなりました。そして、最後に忘れてはならないのは、この映画の舞台は私が育った場所がモデルであるということです。

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――ウォーレンさんはこれまで「カーズ クロスロード」などをプロデュースされていますが、今作にはどの部分から参加されたのですか?

ウォーレン ピクサーのプロジェクトは通常、全体で5年ほどかかります。この作品には、企画が立ち上がってから1年後に参加しました。ちょうどエンリコが最初の上映会を行うときで、それは楽しい冒険でした(笑)。

カサローザ監督 もうお分かりかもしれませんが、上映会は大抵の場合、非常にラフな絵コンテ状態で行われているので……。「これは良くないな。これはいいかもね。でもほかは全部書き直そう」などとダメ出しされる例のあれです(笑)。

――実は「カーズ クロスロード」公開時、ブライアン・フィー監督とプロデューサーのケビン・レハーさんの取材中に、重病を患いながら映画を楽しみにしている幼い男の子に公開前の作品を見せてもいいかという確認のメールが入ってきたのを覚えています。レハーさんは「もちろんだよ」と即答されて、心を痛めていらっしゃいました。ピクサーの制作陣には、こういった人に寄り添う精神があふれていると感じました。

ウォーレン ええ、その時のことを覚えています。人を派遣して彼のために上映しました。その子は「カーズ クロスロード」を見るのをとても楽しみにしていたけれど、公開日まで健康状態が安定しているかどうかわからないという内容の手紙をいただいたのです。誰かのためにそのようなことができるというのは、とても光栄なことでした。

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――カサローザ監督のパーソナルな物語とのことですが、作品内で実際にモデルがいるキャラクターは誰ですか?

カサローザ監督 ルカには私の面影がありますし、アルベルトには私の親友であるアルベルトの面影があります。そう、名前も同じにしました(笑)。ジュリアは創作の部分が多いですね。実際に、私も(実在の)アルベルトも、ルカたちのような年齢の頃は女の子とどうやって話せばいいのかわかりませんでした。だからオタクっぽくて、人気者でもなかったんでしょうね(笑)。

ジュリアも、ルカとアルベルトのように孤独を抱えていると興味深いものになると思いました。この3人は、心に空虚な場所を持っていると感じます。ルカはひとりでいて、両親にもあまりかまってもらえない。アルベルトは、父親に捨てられるというとても悲惨な過去を持っています。そしてジュリアは、両親が離婚しているのでときには父親とこの町で、ときには母親と別の場所で暮らしていて、友だちを作ることができずに寂しい思いをしている。加えて、彼女の気性の激しさのせいで友だちを作るのが難しいというのも、面白い設定だと思いました。彼女はある意味アウトサイダーなので、私たちはそこに別のアウトサイダー(ルカとアルベルト)を登場させることで素晴らしい物語を生み出したかったのです。

ストーリーアーティストにマッケンナという女性がいるのですが、彼女からたくさんのインスピレーションを受けました。彼女はとても陽気で、気性が激しく、何にでも愛を持って全力投球するような人です。絵コンテを担当していたマッケンナと、ジュリアの声を担当したエマ・バーマンのエネルギーが結びつき、ジュリアが計り知れない力を持つ存在となったのだと思います。ジュリアは本当に悪びれず堂々としている一方で、弱さも持っていて、その複雑さが大好きです。

――キャラクターたちが持つ複雑な家庭環境や身体的な障害などが、非常に自然に受け入れられるように描かれていました。意識したことはありますか?

カサローザ監督 そのように感じていただけて、本当に嬉しいです。もしこれが、アメリカが舞台の作品であれば、多くの表現を用いて作品に多様性をもたらすでしょうが、この映画の舞台はイタリアなので、それは難しいことでした。多様性をどのような方法で表現できるかを深く考え、「あなたのことを理解している」という友情の感覚がとても重要だと感じました。「私にはあなたがどんな人かわかる。あなたって良い人だよ。一緒に行こう!」というような。子どもの頃は深く考えたりはしないけれど、それが最高なんですよね。アルベルトのような「さあ、手を貸して、とにかく一緒にやってみよう!」という感覚。彼は一瞬もためらわずに「ほら!」と言ってくれます。

でも友情を育むための重要な瞬間は、そういった勢いだけではありません。例えば、ルカは創意工夫を凝らして物事を解決する方法を見つけています。ルカは賢くて好奇心旺盛なんです。シー・モンスターの世界では誰もそれが良いことだとは思っていませんが、アルベルトが初めて「すごくいいアイデアだね」とルカの個性を認めて受け入れてくれます。“あなたを認めている”とはっきりと示すことは、非常に重要なことです。

そして、ルカにとってジュリアは素晴らしい別次元の存在です。オタク気質であることやジュリアから物事を学ぶことで繋がっているという感覚があり、このふたりの関係もとても気に入っています。“学ぶ”ということを面白くするのは簡単なことではないので、どうすればそこに楽しいトキメキをもたらすことができるかを考えました。答えは好奇心です。「次はなにが起こる?」「それは一体なに?」「私たち好みが似ているね!」というような感情です。シー・モンスターと人間のように、お互いを恐れている世界を描くことは大きな意味がありました。友情と異質性、そしてそれらをどのようにして橋渡しするのかについて、非常に深く考えましたね。

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――どのようにして2Dの要素を3Dアニメーションに取り入れたのですか? 水しぶきや街並みにあたたかさがありました。

カサローザ監督 子どものまなざしや不思議さを感じることが重要だったので、写真のような表現とは対照的に、できるだけ多くのアートワークや、物事の本質に迫るためのイラストやペインティングを取り入れたいと思いました。私たちが追い求めていたのは、美しい絵画と写真の違いのようなものです。3Dの素晴らしい点は、没入感があることです。しかし、正確で完璧すぎる部分が、少し冷たさを感じさせます。私たちは不完全さを求めました。イタリアのチンクエ・テッレに行くと、家は完全にまっすぐに建っておらず、1つずつ追加されたように押しつぶされているし、小さな通りも、すべてが少し曲がっています(笑)。それで、「この本質を引き出そう」と思いました。実際には、一つの建物に大体15個の窓がありますが、正確に描くと多すぎると感じたので、2つにするというような美しい構成で、本質を引き出そうとする感覚でした。

また、「やりすぎないほうがいいのはどんなときだろう?」という問いもありました。それはキャラクターにおいても重要なデザイン感覚でした。ただ画面にたくさんのものが表示されているのではなく、本当に明瞭で美しいデザインのものになっているのかと。このような要素をすべての部門で検討しました。

アニメーションについても考えました。2Dアニメーションをたくさん見て、インスピレーションを得ました。では、その要素をどうやって取り入れるか。2Dアニメーションでは、1秒間にたくさんの絵を描くための資金はありません。その少ない資金からインスピレーションを得て、ポーズを保持し、それを次のポーズにスナップさせることができるかどうかを考えました。なので、違う雰囲気のものを探すのはとても楽しかったです。みんなすごく興奮していましたね。人と違うことをするのは、作品にちょっとした奇跡をもたらすような気分です。(2Dと3Dが)コラボレーションしたことで、違いを見つけられたのも良かったです。

――エンドロールも見逃せないポイントですね。スタジオジブリを思わせました。

ウォーレン そうなんです! あれは「となりのトトロ」なんですよ。

カサローザ監督 「となりのトトロ」のように、“その後のお話”を少し入れました。(「となりのトトロ」のエンドロールで)メイとサツキが登場するのが大好きなんです。今作の“その後のお話”はそれにインスピレーションを受けたものです。

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