【コラム/細野真宏の試写室日記】「キャラクター」VS「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」の行方は?
2021年6月10日 10:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末も大作が公開され、ランキングも大きく変わりそうな雰囲気です。
新作で最も公開館数が大きいのは、ヒットする確率の高い“フジテレビ×東宝”のコンビによる「キャラクター」で、310館規模での公開となっています。
そして「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」は公開館数は210館規模で、300館を超える大規模公開ではないのですが、実は、近年の「機動戦士ガンダム」シリーズの中では公開規模の大きい注目作なのです。
まず、この2作品の出来は、文句なく良いです。
「キャラクター」については、菅田将暉が演じるマンガ家と、バンド「SEKAI NO OWARI」のボーカル・Fukaseが演じる殺人鬼による異色なダーク・エンターテインメントとなっています。
プロデュースは、2017年に公開され興行収入19.3億円のヒットを記録した「帝一の國」の村瀬健で、主演・菅田将暉×監督・永井聡と、「帝一の國」チームとなっているのです。
永井聡監督というと、長編デビュー作「ジャッジ!」や「帝一の國」が象徴的で、コミカルな映画が合っていると思っていましたが、本作によってシリアス路線でもクオリティーの高い作品が作れるということが分かりました。
本作は、原案を「週刊ビッグコミックスピリッツ」編集長だった小学館出身の長崎尚志が担当していて、マンガ家の実情をリアルに描くことに成功していて、そこも見どころの一つとなっています。
例えば、本作で登場するマンガの作画は、非常にクオリティーが高いと思います。
とは言え、作画が上手いだけでは「売れる」という状況までは行かない、というかなり厳しい現実を突きつけてもいるのです。
キャストも何気に豪華で、高畑充希が菅田将暉の恋人役で、小栗旬と中村獅童が連続殺人を捜査する刑事役で脇を固めます。
本作は、マンガ家と殺人鬼の奇妙な人間模様を軸に、社会が動いていく様を描いているので独自性があります。
そのため、似た雰囲気の作品を探すのは難しいのですが、あえて挙げるとすると、「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督×小栗旬主演の「ミュージアム」でしょうか。
小栗旬がメインの刑事役というのも一致しています。
私の感覚では「ミュージアム」より「キャラクター」の方が一般受けをすると思うので、ポテンシャルとしては「ミュージアム」の興行収入15億円を超えてもおかしくないと考えます。
平時で考えると、「帝一の國」のように興行収入20億円くらいは狙える気がしますが、新型コロナウイルスの影響で新規公開作品が目白押し状態であることと、感染症対策で座席を半分にする要請等で、本来の力を発揮しにくい環境にあります。
そのため、興行収入15億円が当面の目標となるかと思います。
次に、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」ですが、こちらも注目作です。
正直、これまで「機動戦士ガンダム」関連の映画は、試写で見ても、今一つな感じがありました。
ただ、この「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」については、スタッフの並々ならぬ気迫すら感じるのです。
まず、作品紹介のところに「『閃光のハサウェイ』は、40周年プロジェクトの集大成として制作される作品」とあります。
そもそも1979年のテレビ放送開始から40周年を迎えた「機動戦士ガンダム」。
「機動戦士ガンダム」という作品は、この40年間、派生した様々なシリーズが登場していますが、やはり初代の「機動戦士ガンダム」を超えるものは登場していないのかもしれません。
例えば「名探偵コナン」などでモチーフにされるのは、やはり初代の「機動戦士ガンダム」のキャラクターだったりするのが象徴ではないでしょうか。
そして、これまで「機動戦士ガンダム」の派生シリーズ映画を見続けて感じていたのは、初代のキャラクターのインパクトが強すぎて、どこか付きまとう「コレジャナイ感」。
ただ、初代「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザインを担当した安彦良和のキャラクターであればいいのか、というと、実はそうでもないと「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」を見た際に感じました。
「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」は、その名の通り「機動戦士ガンダム」の起源を描いた「前日譚」に当たる作品ですが、今のアニメーションとして見ると、どことなく古さを感じてしまうのです。
では、どこに答えがあるのでしょうか?
そもそも「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」は「機動戦士ガンダム」の生みの親の一人である富野由悠季の小説が基になっています。
そして、その小説の挿絵は「エヴァンゲリオン」シリーズの庵野秀明監督にも大きな影響を与えた作品「超時空要塞マクロス」でキャラクターデザインを手がけた美樹本晴彦によるものとなっています。
本作のキャラクターデザインは、その美樹本晴彦のキャラクターデザインを原案にし、「現代っぽさ」を加えた絶妙なバランスとなっていたのです。
正直、最初は少し違和感がありましたが、作画のクオリティーが終始高く、やっと「これが今の時代に合った答えなのかもしれない」と思えました。
「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」は、新型コロナウイルスの影響でたびたび公開延期され、ようやく今週末6月11日(金)から公開となります。
すでにYouTubeにて冒頭の約20分間も公開されていますが、まさにこれは「自信の表れ」と言えるでしょう。
私自身も何度か見ていますが、何度見ても飽きがこないクオリティーの高さがあります。
ちなみに、本作は「『逆襲のシャア』から33年」というのがキャッチコピーとして使われています。
「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」は、1988年に公開された映画で、本作「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」は、その「シャアの反乱」から12年後の世界を描いているのです。
ただ、必ずしも予備知識は要らないのでは、という感じです。
本作でも説明が出ますが、主人公のハサウェイ・ノアが初代「機動戦士ガンダム」のブライト・ノアの息子だということくらいでしょうか。
さて、肝心の興行収入ですが、実は、この「機動戦士ガンダム」シリーズは近年、特殊な興行形態となっている点に注意が必要なのです。
それは、通常は劇場公開後に発売するBlu-rayを「劇場限定版Blu-ray」として映画館で同時に販売したりするため、通常の興行収入という物差しでは測れない作品となっています。
そのため、近年では公開劇場数も2桁だったりするのが通例なのですが、本作では210館規模と珍しく多くの劇場で公開されるのです。
しかも、入場者特典は5週にもわたって用意されているようなので、今回は劇場での興行にも力が入っていることが分かります。
通常であれば興行収入15億円は狙える作品だと思いますが、やはり「劇場限定版Blu-ray」同時発売があるため、読み切れないものがあります。
そのため、まずは興行収入10億円突破が必達の目標でしょうか。
今週末は、このようなポテンシャルの高い作品が公開されるので、「初速」が大いに注目されます。
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