【新春特別対談Vol.3】井浦新×高良健吾が明かす、最近感動したこと
2021年1月4日 12:00
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中の人々が日常生活において大きな変化を目の当たりにした。映画業界も封切りを予定していた新作は軒並み公開延期となり、政府による緊急事態宣言を受けて全国の映画館が休業を余儀なくされたことは記憶に新しい。デビュー以降、常に映画、映画館と真摯に向き合ってきた俳優の井浦新と高良健吾にこの1年について、そしてこれからのことを語り合ってもらった。(取材・文/編集部、写真/きるけ)
Vol.1では、政府の緊急事態宣言を受けてあらゆる活動が休止を余儀なくされたとき、ふたりが何を考えていたのかを明かしてくれた。Vol.2の議題は、全国のミニシアターを含む映画館について。そして最終回となる今回は、「最近、感動したこと」について聞いてみた。
高良「自粛期間中、新さんに『本を教えてください』とお願いした時に、星野道夫さんの『旅をする木』を紹介してくれたんです。それから星野さんの著書に感動してしまって……。それと通ずるものがあるのですが、(登山家で著述家の)服部文祥さんの狩猟に同行し、鹿の解体作業を手伝った時、不思議な気持ちになりました。自分も生とか死について演じるうえで色々考えてきましたが、こんなにも生(なま)で伝わってくるのが初めてで、感動とは言えないけど、ドキドキしました。手の動きとか全部変わっちゃったというか、ものを扱うときに全て丁寧になったというか、それは不思議な体験でした。星野さんの著書を読んでいたからこそ、これまでと違う考え方が出来たのかもしれません。あと、自分の1冊を選んでと言われたら、河井寛次郎さんの『いのちの窓』。僕が二十歳のとき、新さんが『これ面白いよ』と貸してくれたんです。何か迷ったときに読むと、いつだって答えが書いている気がするんです。そして、読むたびに捉え方が変わるんですよね」
井浦「僕は割とこまめに感動しているんです。朝、真っ暗な時間帯から現場に向かっているとき、暗闇を切り裂いて太陽がバーンと出てくる。それだけでグッときている。さらに雲の形が明確に出て来て、ロケ先でも風が強くていろんな雲の表情が見られた。そうこうするうちに、吉兆の意味を持つ彩雲が目の前に突然現れた。1分も経たずに消えちゃったんですが、今日は朝からすごいなと改めて感動したことを覚えています」
それだけで話が終わらなかったのが、実に興味深い。井浦は日本文化に造詣が深いことでも知られ、普段から月の満ち欠けや旧暦を念頭に置きながら、日々の生活を営んでいるという。
井浦「その日に限って月が読めていなくて、帰りに中央道を走っていたら、目線にとんでもない満月が現れたんです。マネージャーと一緒に見ていたんですが、満月が急に欠け始めていって、後から調べたら半影月食だったんです。その日は起床したときから空がおかしかった。昼は彩雲を見られましたし、完璧な1日だなあって感動が溢れました。映画やドラマ、本で感動もしますが、そういったことにすごく敏感になっています。毎日、風景だけで感動をもらえているんです」
高良「僕は20代のころ、イヤホンがないと絶対に外に出られなかったんです。音楽を聴いていないと外に出たくなかったし、忘れたことに気づいたら途中で買うくらい。だけど、最近は逆に聴けないんですよね。外に出て、音楽を聴いていない時の方が何かが聞こえてくる。人の動きもだし、耳でも見ている感じ。自分、変わったなって思いますね」
井浦「きっと、“開いた”んだろうね」
ふたりを取材するようになって10年以上が経過したが、個々で対峙する時間の方が長く、2ショットで話を聞くのは「千年の愉楽」のインタビューをした2012年までさかのぼる(公開は13年)。「横道世之介」「ジ、エクストリーム、スキヤキ」「悼む人」「止められるか、俺たちを」など、共演作は少なくないが、今年は新たに「おもいで写眞」が加わる。
今作は、ふたりが所属する芸能プロダクション「テンカラット」の設立25周年企画として製作されたもので、同社所属の深川麻衣が主演し、熊澤尚人監督がメガホンをとっている。富山県を舞台に、主人公の結子が亡き祖母が遺した写真館で“遺影写真”を撮る仕事を始めるという設定。老人たちと触れ合うなかで、結子が撮るものは単なる遺影写真ではなく、色褪せない思い出を映す“おもいで写眞”へと変わっていく……というもの。
井浦「今まで、何かの記念に映画を作ろうという企画に携わったことがなかったんですよ。それが自分の所属する会社が25周年で映画を製作するって聞いて、どんな形でもいいから参加させてもらいたいなと思いました。本当に嬉しいことでした。(同じ事務所の)中条あやみなんて、出演していないのに現場に来ていましたよ(笑)。また、そういう雰囲気がいいですよね」
高良「自分の所属する事務所が映画を製作するだけじゃなく、それに参加させてもらえるってすごく嬉しいし、特別な思いがあります。けど、プレッシャーとかはなくて楽しめました。事務所の先輩たちもいたし、自分も先輩になっちゃいましたしね。深川さんが現場でかなりしごかれていて、だんだん成長していく深川さんを近くで見られたのは、僕にとってもすごく良い経験になった。かなり悩んでいたけど、『アドバイスとかせんぞ!』と固く誓っていました。10あるうち、僕が10言うのって、すごく失礼な気がしたから」
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執筆者紹介
大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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