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同じ思いをしている人がここにもいた――仲野太賀が語る、“大人になりきれない”男への共感

2020年11月21日 12:00

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公開中の「泣く子はいねぇが」
公開中の「泣く子はいねぇが」
(C)2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

今年、「静かな雨」「MOTHER マザー」「今日から俺は!!劇場版」「生きちゃった」などの出演映画が相次いで公開され、現在放送中のTBS系連続ドラマ「この恋あたためますか」ではパティシエを好演している俳優・仲野太賀。作品ごとに異なる顔を見せる仲野が、「自分に誇れるものができた」と自信をにじませる主演作「泣く子はいねぇが」(公開中)について語った。

是枝裕和監督が率いる映像制作者集団「分福」が企画協力し、秋田・男鹿半島の伝統行事である「男鹿のナマハゲ」から、「父親としての責任」「人としての道徳」というテーマを見出した、佐藤快磨監督(「ガンバレとかうるせぇ」「歩けない僕らは」)の完全オリジナル作品。親になることからも、大人になることからも逃げてしまった主人公・たすくが過去の愚行と向き合い、不器用ながらも青年から大人へ成長する姿を描く。

元妻役は吉岡里帆が演じた
元妻役は吉岡里帆が演じた
(C)2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

たすく役で主演を務めた仲野は、佐藤監督が執筆した脚本に強くひかれたそう。“大人になりきれない”たすくに、自身が元々抱えていたある思いを重ねた。

「僕自身も20代に入ってからは漠然とモヤモヤした気持ち、ジレンマのようなものがありました。大人の領域に入ったにも関わらず、なぜうまくできないんだ、なぜ大人としてふるまえないんだという思いがあったんです。10代だった頃の子どもじみた気持ちがずっとどこかにあって。だから、たすくにすごく共感ができました。たすくは、奥さんに求められたことに応えたかったけれど、応えられなかったということから話はスタートしていますが、誰しも人の期待に応えられない瞬間は絶対にあると思います。

父親であるたすくと僕とでは違いますが、僕の延長線上にある役がたすくなんだなと思いました。20代のジレンマを抱えている僕が、この脚本だったらそういった思いを余すことなく表現できるはずだと。今でももちろんジレンマはあります。ただ、ずっと霧の中にいるわけではないです。『泣く子はいねぇが』と出合って、同じような思いをしている人がここにもいたんだと思えたことは、自分の中で大きなことでした」

画像3(C)2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

たすくへの共感以外にも、役者として「演じたい」と心を動かされた場面があった。

「ラストシーンの脚本を読んで、この役をとにかく演じたいって強く思いました。このシーンを体感したかったんです。役者としてどう表現しようか考えて、ワクワクする気持ちもありました。段取りだけして、あとはぶっつけ本番のような形で撮影したのですが、今まで準備して積み上げてきたものをぶつけるような気持ちでした」

本作で商業デビューを果たした佐藤監督との信頼関係や、撮影を行った男鹿の方々の協力もあり、「本当に恵まれた撮影でした」と振り返る表情から、その充実ぶりが伝わってくる。たすくの元妻・ことねを演じた吉岡里帆柳葉敏郎ら共演者が見せた姿勢も、仲野にとって本作への愛情をより一層強くさせた。

画像4(C)2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

「吉岡さんと本格的に向き合って共演できたのは、今回が初めてです。同い年ですし、大活躍されている方というイメージがありつつ、ずっと近い匂いは感じていました。撮影でことねとして向き合ったとき、今まで見たことのない吉岡さんの姿だったんです。こんな表情をするんだって、驚きました。ことねとしての覚悟や儚さ、母としての切実さを持って目の前にいてくれたので、吉岡さんもそういう思いでこの現場に来てくれたことが本当にうれしかったんです。

昔から知っている柳葉さんとは、これまでも2度ほどご一緒させてもらっています。今回は僕が主人公で、柳葉さんが父親代わりのような役柄だったので、感慨深さはありましたし、柳葉さんも同じように思ってくださったみたいです。柳葉さんに説教されているシーンでは、エンジンのギアが入っていくような化学反応がありました」。

画像5(C)2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

最後に「誇れるものができました。撮影が今年の3月で、今年はいろんなことがあったのに、11月に公開ができることになって。そういう経験もすべて経て、これからの俳優人生を生きていく覚悟も決まりました」と、改めて本作への思い入れの強さを語った仲野。「2020年度の邦画のなかで見逃せない作品になっていると、自信をもって言えます」。どこまでも真っすぐで熱いその言葉に、嘘はない。

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