黒沢清監督「スパイの妻」ベネチア映画祭で監督賞「ずっと監督を続けてきて本当に良かった」 作品賞は「ノマドランド」
2020年9月13日 08:05

[映画.com ニュース]第77回ベネチア国際映画祭が現地時間の9月12日に閉幕し、金獅子賞を、フランシス・マクドーマンドがノマドのように旅を続ける女性を演じた、クロエ・ジャオの「ノマドランド」が受賞した。また黒沢清監督の「スパイの妻」は銀獅子賞(監督賞)を受賞。本賞が日本映画にわたったのは、北野武「座頭市」(2003)以来17年ぶりとなった。黒沢監督は日本からビデオメッセージを発信し、「この年齢になってこんなに喜ばしいプレゼントを頂けるとは、ずっと監督を続けてきて本当に良かったとしみじみ感じています」と語った。
女優賞は、「Pieces of a woman」と「The World to Come」の2本のコンペ作品に主演し、もっとも存在感を示していたバネッサ・カービ―が、前者の作品で受賞。男優賞は、イタリア映画「Padrenostro」で10歳の息子を持つ父親に扮し、奥深いニュアンスを表現したベテラン、ピエルフランチェスコ・ファビノに渡った。

審査員グランプリは、ミシェル・フランコがバイオレントなディストピアを描いた「New Order」に、下馬評の高かったアンドレイ・コンチャロフスキーの「Dear Comrades!」は、スペシャル審査員賞を受賞した。一方、脚本賞はインド映画の「Disciple」、若手有望俳優に送られるマルチェロ・マストロヤンニ賞は、イラン映画で大人に搾取される少年に扮したルホラ・ザマニに送られ、バランスよく各国に振り分けられた印象だ。
「スパイの妻」に関して、審査員のひとりであるドイツのクリスティアン・ペッツォルト監督は、「独特のリズムと美しい映像がオペラのようでもあり、ポリティカルでいて感情がこもっている。40年代の伝統的な世界をとてもモダンなやり方で表現していて、こういう映画を久しぶりに見た気がします。それに黒沢監督はこれだけ長いキャリアがあるにもかかわらず、こういう賞をもらったことがないということで、授賞は我々にとっても、とてもハッピーなことでした」と語った。審査員長のケイト・ブランシェットはつけ加えて、「私は個人的にスティーブン・ソダーバーグが『監督とはどこにカメラを置くべきか知ること、物語やパフォーマンスを指揮することが求められる』と言っていたことを思い出しました。今回のコンペティションのなかで、これに当てはまる素晴らしい監督たちが何人かいて、決断は困難でしたが、明白だと思える結果に落ち着きました」と、黒沢監督が競合を抑えて受賞したことを物語った。
全体を振り返れば、金獅子のジャオ監督とフランシス・マクドーマンド、賞こそ逃したものの評価は高かった「Miss Marx」のスザンナ・ニッキャレッリ監督と主演のロモーラ・ガライ、コンチャロフスキーの作品に主演した監督の公私にわたるパートナー、ジュリア・ビソツカヤ、女優賞のバネッサ・カービー、さらに今回栄誉金獅子賞を授与された、アン・ホイ監督とティルダ・スウィントンなど、これまで以上に女性パワーが目立つ映画祭となった。(佐藤久理子)
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