劇場公開日 2021年3月26日 PROMOTION

ノマドランド : 特集

2021年3月22日更新

緊急事態宣言明け“最初の洋画大作”を映画館で見よう
奇跡の映画、至福の108分、空間に吸い込まれる体験

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年に何本か、この作品だけは絶対に見なければならない、と直感する映画がある。3月26日から公開される「ノマドランド」は、まさにそれにあたる。

ある者は「奇跡の映画」と形容した。またある者は「空間に吸い込まれる体験を味わった」と振り返る。圧倒的な強さでゴールデングローブ賞“2冠”を達成。アカデミー賞の最有力候補のひとつと称されるのは、もはや道理とすら思える。

車上生活者の女性を描く本作には、それほどの魔力が宿っているのだ。緊急事態宣言が明け、最初に公開される洋画大作。万難を排して映画館で鑑賞してほしい。

この特集では物語、監督、主演、受賞歴、得られる映像体験の素晴らしさに迫る。さらに映画.com編集長のレビューや、Twitterフォロワー約17万人を誇るオスカーノユクエ氏による解説も掲載する。


【予告編】あなたの人生を変えるかもしれない、特別な作品

奇跡の映画―― 物語、監督、主演、全てが超一流
車上生活を送る女性の人生に、あなたは何を感じるか

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○物語:家を失った女性は、キャンピングカーに人生を詰め込み旅に出た

ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた家を失ってしまう。キャンピングカーに亡き夫との思い出や、人生の全てを詰め込んだ彼女は“現代のノマド(放浪の民)”として車上生活を送ることに。

過酷な季節労働の現場を渡り歩き、毎日を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ねる。誇りを持って自由を生きるファーンの旅は、果たしてどこへ続いているのか――。

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○監督:クロエ・ジャオ 役者から真実の演技を引き出す稀有な才能

映画ファンの間で傑作と称される「ザ・ライダー」の新鋭クロエ・ジャオが、監督・製作・脚本・編集を担当。本作が規格外である理由は、彼女の存在によるところが大きい。

出演者たちは、2人(フランシス・マクドーマンドとデビッド・ストラザーン)以外は“実際のノマド”なのだ。つまり演技素人の一般人。そんな彼・彼女らに、ジャオ監督は“自身のリアルな胸中”をそのまましゃべらせ、物語と調和させる手法を採用した。これによりフィクションとドキュメンタリーの境界を融解させ、映画という芸術の新たな側面を発掘したと言える。

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素人を起用した作品は数多くあるが、そのほとんどが「よくやってる」レベルの演技にとどまっている。しかし本作は、ほぼ全員が「名演」レベルの演技を見せているから驚かされる。日本でのマスコミ試写において、エンドロールで「実際のノマドが出演者」と明らかになった時、その事実を知らなかった場内ではどよめきが起こったほどだ。

リアルなノマドたちによる「名演」には、名だたる俳優たちの芝居とはまた違った説得力がある。もちろん、マクドーマンドやストラザーンらが本物のノマドのなかに違和感なく馴染んでいる姿にも圧倒されるが、それらの素晴らしい”役者”たちが、ひとつの世界で同じノマドとして息づいている。その奇跡を実現させたのは、ジャオ監督の手腕に他ならない。

ジャオ監督は今後、マーベル新作「エターナルズ」を手がけることも決まっている。今最も注目される監督が、中国出身の、しかも女性であるという事実。実力で世界を変え続けるジャオ監督から、目が離せない。

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○主演:フランシス・マクドーマンド “無敵の俳優”“生きた劇場”“動く国立公園”

「ファーゴ」「スリー・ビルボード」で2度のアカデミー賞主演女優賞に輝いた無敵の俳優フランシス・マクドーマンドが、主人公ファーンに扮する。これまでの受賞歴は数知れず、この地球上で最も力のある俳優のひとりである。

シリアスな存在感が中核にある一方、どこか親しみやすさがあり、そしてどこかコミカルなお茶目さもあり、見ていて笑いが込み上げてくる。経験と才能に裏打ちされた怪物じみた演技力が、彼女の最大の魅力だろう。

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今回はファーンの人生の憂いと、これからを体現。実際のノマドたちと車上で生活し、労働し、交流することで絆を育んでいった。劇中、ファーンが大事にしていた皿が、あっけなく割れてしまうシーンがある。マクドーマンド自身も大学時代に父親から皿のセットを一揃いもらい、ずっと大事にしていたそうだ。

このほかにもファーンのキャンピングカーには、マクドーマンドの私物やアイデアが持ち込まれ、彼女の実生活や実体験が色濃く反映されており、血の通ったシーンの数々を創出した。これまでも様々な役を演じてきたマクドーマンドが、さらに踏み込んだ芝居を披露する様子にも、ぜひ注目していただきたい。

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○至福の108分:アクションはない 派手なロマンスもない しかしひたすら“没入”する唯一無二の映画体験

本作、実は映画館で見るべき作品である。低い灌木がまばらに生える荒野のはるかかなたに、天を突かんばかりの巨大な岩山が連なっている。風がさっと吹き、砂を巻き上げていくのが聞こえる――。

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雄大な自然と極めて解像度の高い環境音は、本作に特別な力を与えている。どちらかといえば静謐な作品だが、魂がスクリーンに吸い込まれ、映る空間に浸るような没入感が得られるのだ。

そんな究極に近い映画体験をもたらしたのは、「ゴッズ・オウン・カントリー」「ザ・ライダー」などを手がけた撮影監督ジョシュア・ジェームズ・リチャーズ。音楽は「最強のふたり」や是枝裕和監督作「三度目の殺人」などのルドビコ・エイナウディが担当した。可能な限り質の良い映像・音響設備がある劇場へ足を運び、至福の108分を堪能してもらいたい。

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○世界的評価:ゴールデングローブ賞で圧勝 アカデミー賞のフロントランナー

“世界三大映画祭”のひとつであるベネチア国際映画祭の金獅子賞を獲得(過去に「ジョーカー」「シェイプ・オブ・ウォーター」など)。さらに、“アカデミー賞に最も近い”とされるトロント国際映画祭では観客賞(過去に「ラ・ラ・ランド」「スリー・ビルボード」「グリーンブック」)に輝いた。

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ベネチアの金獅子賞、トロントの観客賞のダブル受賞は史上初の快挙である。ゴールデングローブ賞でもドラマ部門の最優秀作品賞と監督賞を獲得(まるで当然かのように)し、賞レースで圧倒的な強さを見せている。第93回アカデミー賞では作品賞など6部門にノミネートされ、「授賞式ではいくつの部門を制覇するのか」に注目が集まっている。


【レビュー①】映画.com編集長・駒井尚文
「その類い希なる才能を世界に知らしめる1本」

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シネマスコープ画面の端から端までを使って映し出す、空と大地とスカイライン。息をのむような美しいカットが、映画の随所に挿入されています。監督のクロエ・ジャオと、撮影監督のジョシュア・ジェームズ・リチャーズは、そのほんの数秒のカットを、おそらく何日も何日も待って、最適な光を捉まえて撮っているのでしょう。

マジックアワーを選んで、自然光のみで、広角の手持ちカメラで撮影するスタイルは、最近のテレンス・マリック監督とエマニュエル・ルベツキの仕事を彷彿とさせます。「ソング・トゥ・ソング」とか「聖杯たちの騎士」ですね。マリック監督は、俳優が演じるシーンではマイクすら使わず(俳優をあおって撮る際に吊られたマイクが邪魔)、俳優の語りを後で映像に被せるポエミーなスタイルを貫きますが、クロエ・ジャオはちゃんとマイクを吊り下げて、俳優のセリフを収録します。彼女はポエムを詠んでいるのではなく、ストーリーにコミットしていると感じます。

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「ノマドランド」は、「クロエ・ジャオの映画」ではなく「フランシス・マクドーマンドの映画」です。マクドーマンドはプロデューサーも兼ねている。しかし、一連の賞レースを経て、クローズアップされているのはマクドーマンドではなくジャオの方。

物語を紡ぎ、映像を紡ぎ、映画を紡ぐ、その類い希なる才能を世界に知らしめる1本です。映画ファンを自認する人なら、絶対に見逃せません。必ず映画館で、シネマスコープの画面いっぱいに広がる彼女のアートを楽しんでください。


【レビュー②】賞レースマニア・オスカーノユクエ
「ノマドランド」がオスカー戦線を独走する3つの理由

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コロナ禍の影響で例年の2カ月遅れとなる4月25日に授賞式が開催される今年のアカデミー賞。過去92年の歴史を振り返っても異例中の異例と言える今年のアカデミー賞ですが、こと受賞結果に関しては、波乱のない穏やかなものになりそうです。

ここ数年、アカデミー賞は本命視される作品が賞を逃すサプライズが続いていますが、今年に関してはそんな番狂わせが起きることはないでしょう。下馬評そのままに、「ノマドランド」が作品賞を受賞する公算が極めて高いです。

理由は大きく3つ。

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まず1つ目は、圧倒的な前哨戦実績です。毎年、暮れから年始にかけて全米各地で発表される映画賞は、“アカデミー賞前哨戦”としてオスカーウォッチャーたちの耳目を集め、その結果をもとに本番たるオスカーの行方が占われます。

通常であれば、少なくとも2~3作品が本番で受賞争いの余地を残す程度に賞を分け合うのですが、今年は「ノマドランド」が他を寄せ付けない無双っぷり。正直なところ予想という面では全く面白みに欠ける展開となっています。

2つ目は、クロエ・ジャオ監督という才能の出現。演技経験ゼロの素人たちが実名のまま自身の物語を演じるという手法で周囲を驚かせた前作「ザ・ライダー」で一躍脚光を浴びると、製作&主演のフランシス・マクドーマンドによって「ノマドランド」の監督に抜擢されました。

その才能を見抜いたのはマクドーマンドだけではありません。かのマーベルもジャオに目をつけ、MCU最新映画「エターナルズ」のメガホンを任せています。2015年に長編映画デビューを果たしたばかりのジャオは、ハリウッドではめずらしい中国出身の女性監督。人材のダイバーシティ(多様性)を課題に掲げるアカデミー協会にとっては、まさに象徴的な存在といえます。

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3つ目は、この作品が劇場用映画であること。コロナ禍の危機にあえいだ2020年は、全米の映画館が機能不全に陥り、配信サービスが大いにシェアを拡大しました。アカデミー賞を争う有力候補も気づいてみれば配信作品が多数派となり、劇場用映画は明らかな劣勢を強いられています。

そんな状態の中で、劇場用映画の輝ける星となっているのが「ノマドランド」なのです。ここ数年、「ROMA ローマ」や「アイリッシュマン」など配信作品があと一歩のところで作品賞を逃しているのも、アカデミー会員の劇場映画への愛着が無縁とは言い切れません。そんな心理が、特にコロナ禍のいま、強く働いたとしても不思議はないでしょう。

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