【「アヒルと鴨のコインロッカー」評論】中村義洋監督の脚本力が冴え渡り、原作ファンを唸らせた意欲作
2020年5月31日 11:00

[映画.com ニュース] 新型コロナウイルスの影響により、多くの新作映画が公開延期となり、映画ファンの鑑賞機会は減るばかりです。映画.comでは、「映画.comオールタイム・ベスト」(https://eiga.com/alltime-best/)に選ばれた、ネットですぐ見られる作品の評論を毎週お届けいたします。今回は「アヒルと鴨のコインロッカー」です。
「How many roads must a man walk down……」。濱田岳と瑛太(現在は永山瑛太)がダブル主演した「アヒルと鴨のコインロッカー」は、ボブ・ディランの名曲「風に吹かれて」が主題歌に使われ、全編を通じて重要な役割を果たしている。
原作は、伊坂幸太郎の第25回吉川英治文学新人賞を受賞した青春ミステリー。大学入学で仙台へ引っ越してきた椎名(濱田)は、隣人・河崎(瑛太)と知り合い、同じアパートに引きこもるブータンからの留学生ドルジに広辞苑を贈るため、書店を襲撃しようと持ち掛けられる。断り切れなかった椎名は手伝う羽目になるが、この計画の裏には河崎とドルジ、ドルジの恋人で河崎の元恋人・琴美(関めぐみ)をめぐる切ない物語が隠されていた。
人気原作を映像化する際、原作ファンの手厳しい反応は良きにつけ悪しきにつけ、付きものだ。今作に関しては、いわくありげなタイトルを手始めに、原作者の伊坂が「映画にするのは難しいと思った」と語るほど伏線や仕掛けが巧妙に張り巡らされており、ファンの懸念も大きかった。だが蓋を開けてみたら、伊坂はもちろん多くの原作ファンを唸らせる良い結果へと転じたのだ。
これは、ひとえにメガホンをとった中村義洋監督の“腕力”によるところが大きい。今作でも鈴木謙一と共同で執筆しているが、脚本家としての才能もいかんなく発揮した代表作のひとつといえる。小説では、椎名の現在の物語と琴美の2年前の物語が同時に進行するカットバック形式で描かれている。一方の映画では軸を現在に置き、琴美のエピソードを回想として挿入することで、見る者の注意を上手く誘導している。
自ら精度の高い脚本を書けるからこそ原作の行間に潜むメッセージを読み解き、製作チーム個々の仕事、俳優たちの演技で補完すべき“余白”を作り出すことにも成功している。そして全体の世界観を壊すこともなく、映画化するうえで必要不可欠な変更を加えることに躊躇がない。
今作で信頼を勝ち取った中村監督はこの後、「フィッシュストーリー」(2009)、「ゴールデンスランバー」(10)、「ポテチ」(12)と立て続けに伊坂作品を映画化している。そして全ての作品に濱田は出演しており、中村組にとって欠かせないプレイヤーとなっていく。また、松田龍平、大塚寧々、岡田将生も好演しているが、現在はタレント・作家・YouTuberとして活躍するMr.都市伝説 関暁夫が出演していることも、キャスティングの妙といえる。
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