高橋一生&蒼井優、19年ぶり映画共演は夫婦役 ふたりが考えるカップルの理想のコミュニケーションとは?
2020年1月26日 11:00
「百万円と苦虫女」のタナダユキ監督が、自身の同名小説を自らの監督・脚本で実写映画化した「ロマンスドール」が公開された。互いに嘘と秘密を抱えたラブドール職人の主人公と妻を描いた物語。高橋一生が主人公の北村哲雄、タナダ監督とは「百万円と苦虫女」でタッグを組んだ蒼井優が、哲雄の妻・園子を演じる。高橋、蒼井は19年ぶりの映画共演。互いにキャリアを重ね、夫婦役として映画の中で再会したふたりに話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/松蔭浩之)
ラブドール職人の哲雄は園子にひと目惚れして結婚。しかし、園子にはずっと職業を明かさずにいた。新婚時代を過ぎ、平穏な日常を送る中で哲雄は仕事にのめり込み、園子とは次第に気軽な会話もセックスもなくなっていく。夫婦の危機が迫るなか、園子は胸の内に抱えていた秘密を打ち明ける。
思春期の若者たちを描いた岩井俊二監督作「リリイ・シュシュのすべて」以来19年ぶり、今作では夫婦として向かい合うことになった。互いの役柄を知らされた時高橋は、「『素敵ですね…ありがとうございます』なんて監督に言ったと思います」「蒼井さんと夫婦を演じることに何の違和感もなかったことに、違和感がなかった。とても自然に会話ができました。それをありがたく思いながら演じていました」と振り返る。
「19年前、私はデビュー作だったので、一生さんをはじめ、あの場で知り合った方々は私にとっての親鳥みたい(笑)。とても近しい人という感覚があります。でも実際、一生さんとはセリフを交わすのすら今回が初めてで。長い時間一緒にいるのも初めてなのに、緊張する…ということが全くない空間を作ってくださったのですごく感謝しています」と、高橋の包容力に感謝する蒼井。「タナダ監督の中で、この哲雄という役を誰に託すのかは、とても大きなことだったと思うんです。一生さんみたいな役者さんがいらっしゃるからこそ、この作品が映画化できるんだな。なるほど、満を持してだな、と思いました」と、今回のキャスティングに深く共鳴したようだ。
主人公の哲雄は、頼りなさや人間らしい綻びもみせるものの、最終的には園子にとっての理想的な夫だと思わせてくれるような魅力的なキャラクターだ。映画、ドラマの話題作に立て続けに出演し、アイドル的なものではなく、実力とキャリアに裏打ちされた存在感で、幅広い世代からの支持と注目を集める高橋にとって、監督や観客の期待に応えなければ、というプレッシャーはないのだろうか。
「そういうプレッシャーは本当は必要だと思うんですが、僕にはなくて。ただ、与えられたものに対して、どれだけしっかりとその世界観に没入できるか、ということは、常に意識しています。ここのところずっと、そういう環境を作ってくださる方々と仕事をさせていただいていますし、あまり気負いもなく、あるひとりの人間の一時期の切り取りを演じながら、人生を体験させてもらっている感じです」
監督からのリクエストは「特になかった」と明かす。「タナダさんは『まずは1回動いてみてくれ』というタイプの監督。言葉ってすごく曖昧なもので、例えば、僕が何かを“白”でやりたいと言ったときに、監督も“白だ”と言ってくれたとします。ただ、僕にとっての白は真っ白で、監督にとっての白はアイボリーがかった白だったりする。微妙な違いが生まれるんです。言葉はこういうノッキングを起こしやすいので、身体で表現してしまった方が早いんです、。僕は、俳優はまず提示ありきだと思っています。その提示に応えてくださるスピードもタナダさんはすごく早いし、軌道修正も自然としてくださるので、僕もそこに負荷を感じずに演じられました。現場でタナダさんはモニターに戻らずカメラの横にずっといてくださって。そこに、俳優の動きを絶対見逃さないという気概が見えるんです。見逃されていない、ということは生きていることの自信につながります。そんな感覚でやらせてもらっていました」
昨年は「長いお別れ」(中野量太監督)、ドラマ版から引き続き好演を見せた「宮本から君へ」(真利子哲也監督)など、声優参加も含め映画4作品に出演と、脂の乗った監督たちから引っ張りだこの蒼井。タナダ監督作へは2度目の参加となる。「『百万円と苦虫女』では主演で、監督と私が共闘関係だったんですが、今回は一生さんが主演で、男女の共闘関係を見ることができてすごく面白かったです。タナダさんといっしょにものを作るって、変に熱くなることもなく、ほんとうにいい温度なんです。ちゃんと自分たちが自分たちの仕事に徹することができるようにしてくださって。そういうタナダ組をサイドから見ることができたのは楽しかった」と前回とは違った視点を持てたと語る。
とある出会いがきっかけで、哲雄に一目ぼれされて結婚した園子。蒼井の華奢ではかなげな外見から、すべてを夫に委ねるような雰囲気を感じさせるが、実際は人間として、女性としての欲望をはっきりと表現することのできる芯の強いキャラクターだ。「哲雄が語る園子として、哲雄目線で作っていくのが楽しかったですね。ちょっと理想的な奥さんを演じる瞬間も多々あって。その気恥ずかしさを越えた何かをタナダさんが理解して下さる自信と、安心感があったからこそ挑めた園子像かなと思います」と役作りを振り返る。
今作では、夫婦のコミュニケーションの問題も描かれている。もちろんそれぞれの性格や組み合わせで異なるものだが、ふたりにとっての理想のコミュニケーションを尋ねると、「うちはすごくしゃべる夫婦ですね」と昨年結婚したばかりの蒼井。「自分たちのいい時間の過ごし方は、他のペアに当てはまるわけではないから、それぞれを自分たちで見つけていくしかない。理想を持たないのも大事なのかも。その瞬間その瞬間を楽しむということだけ、なのかな。未来を想像するだけ無駄かもしれない、その通りにはならないし…」と達観した持論を展開。高橋も「僕もいっぱいしゃべることは大事だと思います。何でもいいからしゃべるって大事。表面上で交わされている会話の裏に流れているものも確認できると思うんです」と同調した。
撮影半年前から実際のラブドール工場での取材と専門家の手ほどきの下、一から製作工程を経験し、役柄に見事に反映させた高橋の“職人ぶり”も今作の見どころのひとつ。蒼井は「どの製作パートがいちばん楽しかった?」と高橋に質問。高橋が「僕は細かいことが好きなので、肌の色をつけたり、髪の毛を植えたりする作業がとても楽しかった。1本1本埋めていくんです。ずっとやっていると、ちょっとトランス状態になるほど」と返せば、「私も編み物やるからわかる。延々と同じ作業をやるのは登山と似ている。一歩一歩が頂上にたどり着く感じがする…」と、劇中の夫婦役とはまた違った、凝り性のふたりらしい会話を楽しんでいた。
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