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映画にエキストラ出演してみたら、敗北感と尊敬の思いで胸がいっぱいになった話

2019年6月9日 11:00

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写ってる! 編集スタッフが参加したシーンの写真
写ってる! 編集スタッフが参加したシーンの写真
(C)2019「ダンスウィズミー」製作委員会

[映画.com ニュース] みなさん、映画に出演したことはありますか? 映画.com編集部のOはあります。といっても、エキストラでなんですけど。2018年10月に行われた矢口史靖監督作「ダンスウィズミー」の撮影現場に、「エキストラとして来てみなよ」とお誘いがあったので、行ってきました。参加して感じたことは、胸に広がる敗北の苦い味。そして、映画製作に心血を注ぐ人々への尊敬の念でした。

レポートをお届けする前に、「ダンスウィズミー」(8月16日公開)のご紹介を。「ウォーターボーイズ」「ハッピーフライト」などの矢口監督が初挑戦したミュージカル映画で、音楽が流れると歌って踊らずにいられない“ミュージカルスターの催眠”をかけられた女性会社員が、催眠術師を追って北を目指す姿を軽やかに描きます。主演は「いぬやしき」などの注目女優・三吉彩花。劇中では長い手足をいかし、華麗かつキュートなダンスを披露しています。

今回Oが参加したのは、埼玉・羽生市の羽生市産業文化ホールで行われた撮影。主人公・静香(三吉)と千絵(やしろ優)が、北海道・札幌で開催された催眠術師・マーチン上田(宝田明)による催眠ショーに乗り込むシーンです。札幌が舞台の場面を埼玉で撮影する…。これが“映画的ウソ”ってやつですね。

同所内の大ホールは、ステージがあり、傾斜がついた客席があるスタンダードなホール。エキストラは客席に座り、ステージ上でパフォーマンスするマーチン上田に対しリアクションする、という演技が求められます。会場に入って驚いたのは、その参加人数。ど平日にも関わらず、100人以上の老若男女が集っていました。地元住民を中心に募集したそうですが、数日間にわたって文字通り朝から晩まで行われる撮影を、文句もなく楽しみながらこなすとは。映画にかける情熱がシンプルにすごい。

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Oは午後1時30分に会場入りし、ホールを包む熱気に圧倒されつつ、会場左前方の客席に座ります。エキストラに台本は渡されていないため、スタッフが口頭でシーンの説明をしてくれます。「拍手をしてもらいますが、大きすぎるとダメなので、まずは1~6月生まれの方は拍手をお願いします」「非常に良い! ゆっくり拍手のパターンもいただいときましょうか!」などユーモラスかつ優しく指示してくれて、緊張がゆるゆるとほぐれていくのを感じました。現場によってはピリピリした“修羅場”もありますが、矢口監督の現場は常にノビノビとした空気が充満しています。

そしてリハーサルへ。千絵が客席を通り、ステージに上がろうとずんずん進んでいく、という場面です。千絵はOの近くを歩いていき、カメラはそれを正面からとらえるため、確実にOが映ってしまう…! 俄然、気合いが入ります。これまで映画の撮影現場は取材で何10回と訪れていますし、そこでは一流監督たちの演出、一流俳優たちの演技合戦を間近で見ています。インタビューも多数経験し、演技論も多くうかがってきました。培った知見を、まさに今ここで発揮する時です!

矢口監督の「よーい、スタート!」の声がかかり、ショーの和やかな雰囲気をぶち破った千絵が、ステージ上に猛然と歩いていきます。それを視界の端にとらえたOは、「なんかヤバい奴がいる」という、驚いたような怯えたような表情を浮かべることを選択します。千絵が真横を通り過ぎていきます。満を持してOは、プラン通りの顔をバチッと決め…られない! 撮影が始まると急に羞恥心がこみ上げてきて、意志とは反対に表情筋がガッチガチに固まり、悲しいことに1ミリも動かせなくなりました。

ド素人の自分が勝手に演技プランまで考えていたことが、分不相応というか、なんだか猛烈に恥ずかしくなってきました。そもそも「驚いたような怯えたような表情」ってなんなんだ。その後、何度かリハーサルや本番を経るも演技することが出来ず、むっつりとした表情でぼさっと座るだけになってしまいました。

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撮影に参加しているうちに、あることに気がつきました。隣に座っているおじさん(モロ師岡に似ていた)がめちゃめちゃ上手い。キャストの動きに合わせて「ああ? なんだなんだ」「いいぞー!」など自分でアレンジしたセリフを発するし、なんなら他のエキストラとの会話すらも組み込んでいました。すごいなこの人。あまりにも自発的で、あまりにも自然な演技だったため、「もしかして本物のモロさん?」と疑ってしまいました(もちろん違う)。

隣のおじさんだけではありません。老若男女、周りの全員が、名演技をしているように見えます。わずか数カットで木偶の棒と化したOとは大違いです。「負けていられない」と気合いを入れなおしたものの、大声で笑う場面では「ハハ、ハハ…」と引きつったような、「すきま風が吹いたのかな?」みたいな情けない声が出て、もう敗北感で胸がいっぱい。作品の足を引っ張らないよう頑張りましたが、悪戦苦闘のうちに撮影は終了の時刻を迎えました。演技するって、本当に難しい…。

一方でエキストラとして参加して改めて感じたことは、映画製作は本当に時間がかかる、ということ。カメラが回っている時間は非常に短く、15秒分を撮影したかと思えば、30分~1時間かけて画角やセットなどを調整し、また15秒ほど撮影する。その繰り返しで、大部分は準備に費やされています。

製作スタッフに聞くと、羽生市産業文化ホールでの撮影は3日間(1日8時間とすると計24時間)行われましたが、同所でのカットは本編では4分12秒しか使用されていません。つまり撮影された0.27%しか、本編になっていないんです。2時間の映像を創出することが、いかに果てしない作業であるかがわかります。大げさではなく、映画はスタッフ・キャスト・協力者らの汗と涙の結晶であり、一回性の集積と時間の圧縮によって成立する芸術なのです。

完成した映画を見ると、1秒にも満たない一瞬ですが、Oが映り込んだシーンがありました。そして冒頭に掲載した写真は、宣伝を担当するF社のSさんが、数1000枚におよぶ現場写真から血眼になって探してくれた1枚。このなかのどこかに、小さくOが写っています。こうして見ると、自分が映画の一部になれたことが実感できて、気分が高揚して仕方がないです。

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