ガス・バン・サント、怪優ホアキン・フェニックスへの演出は「コントロールをしないこと」
2019年5月2日 10:00

[映画.com ニュース]ガス・バン・サント監督が、ホアキン・フェニックス主演で風刺漫画家ジョン・キャラハン氏の半生を描く3年ぶりの新作「ドント・ウォーリー」が5月3日公開する。2014年に死去したロビン・ウィリアムズが、自身の主演で映画化の構想をあたためていた企画から約20年の時を経て完成させた。来日したサント監督が、アルコール依存症で事故により四肢麻痺となっても、ユーモアを湛えた魅力ある主人公を演じきったフェニックスへの演出法、また「誘う女」(95)以来のタッグについて語った。
「実際のジョンの写真もありましたし、70年代のスタイルは『ドラッグストア・カウボーイ』と同じ時代なので、似ていると思います。映画の最後にジョンの本物が出てきます、あの写真を見ると、ああ、セーターが違ってたねだとか、そういったことは目に入ってくるけれど、そういうことはどこかで解放してあげなくちゃいけない。現実に似せることに心配しすぎると、自分のやっていることの邪魔をすることもありますから」
「実は、フレディ・マーキュリーの映画をつくる話もあったんです。けれども、そういった映画はなるべく避けるようにしていたんです。それは、一般の人は本当のフレディのビジュアルをよく知っているから。伝記的にも人にすぐわかるようなものに、僕はナーバスになってしまう。観客にあまりにもよく知られている人物は、どういう風に見えるべきか、どういう風に振舞うべきかなど、演技も含めてね。『ボヘミアン・ラプソディ』はラミ・マレックがいて本当によかったと思います。とても似ていますしね。僕は『ミルク』のように、一般にあまり知られていないようなキャラクターを好むのです。自分のバージョンを作る余地を与えてくれる人物を選びます」
「初めて一緒に仕事をした『誘う女』は、あの役を彼が望んだのです。それは、リバー(・フェニックス)が亡くなってからすぐ1カ月後。オーディションをニューヨークでやって、彼は飛行機で来て参加し、一生懸命でした。兄が死んで大変な時期だったにもかかわらず、どれだけ彼がやりたがっていたのかがわかり、素晴らしい経験でした。それまでも、それ以降も、ホアキン自らオーディションに来る様子は見たことはありません」
「彼は、抑えることができずに全てを出し切るのです。その後も彼はいろんな映画を経ています。『ブギーナイツ』のオファーも受けていたんだそう。ポール・トーマス・アンダーソンはその時から彼を使いたかったそうですが、ホアキンは裸のシーンなどを不安に思って、断らざるを得なかったと。『ザ・マスター』はとてもはまっていました。彼の一番いい仕事だったんじゃないでしょうか。映画は『ザ・マスター』を超えなかったけど『インヒアレント・ヴァイス』の彼もよかった。ポール(・トーマス・アンダーソン)との2本が、彼の出演作で最高のものだと思う。彼は素晴らしい監督だし、ホアキンとのコンビネーションは素晴らしく、ディテールへのこだわりが感じられる。それを見ているとなんだか僕は二流のような気持ちになってしまうんだ。僕の撮影スケジュールより、ずっと彼らの方が長いからね。ポールはそれだけ一緒にホアキンと時間を過ごすことができるんだ。僕らはそれほどお金もないし、10分の1くらいかもしれないね。ともかく、ホアキンは才能もあるから、キャラクターの素養と監督の力が全部合わさらなきゃいけないんだ。今回の僕の作品も、『ザ・マスター』の演技と同じくらい素晴らしかったと思う」
「友人のように仕事ができるタイプです。なぜかわからないけど、僕のことを信頼してくれていているからだと思う。もしかしたら僕よりポールを信頼しているかもしれないけど…(笑)。仕事をしやすいし、楽しいけれど、結構厳しい毒を吐くときもあります。『ドント・ウォーリー』で覚えているのは、映画を撮る数週間前に、ジョナ・ヒルとホアキンが、パームスプリングスの僕の家に来て3人でダイニングルームのテーブルに座って、異なる7つのシーンをやってみたんです。ふたりでやる掛け合いのシーンがあって、リハーサルのいいチャンスだと思ったのです。でも、何度やってもホアキンは棒読みで演技はしないんです。僕が期待していたような演技は全くやりません。シーンの中で、もっと深くまで到達しなければいけないとわかっているはずなのに、やらないでいる状態。どうしてかわからなかったけれど、プッシュするよりも、このタイミングではないかも、とそこで気持ちを留めたのです。もしかしたら、お互いを探るための時間が必要だったのかもしれません」
「その後、ジョナに『あの時って変だったよね』って言ったんです。そうしたら『あれは僕のせいじゃない。ホアキンに合わせていただけだよ』と。ということは、ホアキンが全体を縛るような雰囲気を出していた。そういうことが起こりうるんです。僕はリハーサルなんていらないと思っていて、いきなり最初のシーンから始めるのはOKだと思っている。だから、リハーサルは僕のためだけではなく、他の映画監督がやるからということでやっているだけ。でも、リハーサルで面白いことがおきることがある。その場で即興がいくつも出てきたりだとか、それがよくてそれを撮影したりね。なので、リハーサルは僕にとって、お互いにバランスをとるだけのもの。ホアキンもジョナも、即興が素晴らしい俳優で、妙な空気が流れることもあるけれど、僕がコントロールすることではないと思っているし、僕の演出は、コントロールをしないことによって、コントロールするんだ。子どもがソファから飛び降りて、転がって怪我をするかもしれないけど、あえてコントロールはしない、ということ。コントロールしようする意識が働くと、何かおかしなことになる。それもある意味コントロールではあるんだけど、どこまでいけるか見てみようと思っているんです」
「ええ、俳優だけでなくいろんな部門でやるんです。撮影、衣装、照明、皆自由にやらせて、ぼくはボーっと見ているんです。そして、そこで出た予想外のアイディアがいちばんよかったりする。楽焼みたいな偶然性というのかな。そういう偶然性のアクシデントを楽しむことをね。ノンシャランが好きだけど、一方で混乱も生みます。フォルムを欲しがる役者もいますから。ロビン・ウィリアムズは、常にジョークを言って、みんなを笑わせていました。照明をセッティング中にもスタンダップ・コメディのようにロビン・ウィリアムズ的なユーモアでみんなを大きな笑いに包む。ある日、デビッド・クローネンバーグとランチをしていたら、デビッドがロビンのいるセットに遊びにきたんです。デビッドは、ロビンのことやクルーも知っていて、混沌とした状態。デビッドが「何かここ大きくないか?」とセットの一部を指摘したら、ロビンがそこで、「もうひとり監督がきたぞ!」と和ませた。デビッドは混沌を許さないタイプ。僕は好きでないけれど、こうしろとは言わない。ロビンがジョークを言ったら言わせてあげたい。もしかしたら、それは役者を甘やかしているのかもしれないけど」
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