たっぷり撮影3カ月の「カツベン!」 周防正行監督「もう徹夜撮影はしたくなかった」

2018年11月15日 10:00

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[映画.com ニュース] 周防正行監督の4年ぶりの新作「カツベン!(仮題)」の岐阜ロケが11月13日、報道陣に公開され、周防監督が終盤に入った作品への思いを語った。本作は映画黎明期の大正時代を舞台に、活動弁士を夢見る青年・染谷俊太郎(成田凌)が、小さな町の映画館に流れ着いたことから始まる“アクション×恋×笑い”の要素を織り交ぜたノンストップ・エンタテインメント。撮影は近年の日本映画としては長い約3カ月弱を予定。「贅沢な時間を過ごさせていただいています。徹夜の撮影はもうやりたくない」と話した。(取材・文・写真/平辻哲也)

9月18日、東映京都撮影所でスタートした撮影は2カ月近くを経過し、全体の8割が終わった。「これまでとは違う内容が盛りだくさんです。拳銃を撃つシーンをはじめ、アクションをたくさんやったので、ちょっと気分的に違いますね」。周防監督は、大ファンであるヤクルトスワローズ・山田哲人選手のトリプルスリー記念パーカーを着て、撮影に臨んでいた。

デビュー作の「変態家族 兄貴の嫁さん」から「舞妓はレディ」まで脚本はすべて自らが手がけてきたが、本作は伊丹十三監督、金子修介監督、阪本順治監督、黒沢清監督、矢口史靖監督、三谷幸喜監督、周防監督の助監督を務めてきた大ベテランの片島章三氏が10年以上温めてきたものだ。

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「自分で脚本を書いていれば、どうして、このシーンを削ったか、残したかが全部分かります。今回、かなり前から脚本を読ませていただき、面白いと思っていたのですが、準備、撮影と進み、ようやくその感覚に追いついたなという気がします。片島さんには監督補として現場についてもらっているので、相談しながらやっています。僕はスタッフの意見を聞いて、みんなとやりとりしますが、いつもに増し、共同作業をしている感じが強いですね」

この日は少年時代の俊太郎が人気活弁士、山岡秋声(永瀬正敏)に魅了され、人生のターニングポイントになる重要なシーンだ。ロケ地は、江戸時代に舞台が建築され、明治期の1890年に現在の形に改築されたという芝居小屋「白雲座」(下呂市、国の重要文化財)。総勢100人のエキストラが大正初期の扮装で出演し、チャンバラ活劇のサイレント映画を見て、歓声をあげ、拍手で喜ぶという場面が撮影された。

「岐阜にはこういう小屋がたくさん残っていて、他にもたくさん見せていただきました。メインの映画館は福島にあるのですが、そのサイズ感、雰囲気と照らし合わせて、選びました。ここはメイン舞台の10年前の設定なので、それに見合った小屋の雰囲気が出ています。客席のムシロはこちらで用意しましたが、そういうものの雰囲気もピッタリくるんです」

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ロケ地は、大正期にふさわしい場所を求めて、全国を探した。メインとなる映画館は、1887年に竣工と推定される福島の芝居小屋で、昭和期には映画館として使われた「旧広瀬座」(国の重要文化財)。「劇場に関しては、たくさんの場所を見せていただき、見つけることができました。大正時代の話では、撮れる場所自体がすごく限られます。アスファルトで舗装されていない道を見つけるのは大変です。追いかけっこになるシーンでは、いきなり山中になっちゃったりするじゃないですか。それを山中ではなくて、生活の雰囲気を感じる中で、撮ることが勝負でした。今回、ロケハンに相当な時間をかけられたことがよかったです。プロデューサーが目星を付けてくれたのですが、それを考えると、かなり前から場所探しをしましたね」と明かす。

撮影期間も3カ月弱に及び、近年の映画の標準的な製作期間の倍以上費やしている。この日の撮影は多数のエキストラが出演する時間のかかるシーンという事情もあるが、ワンシーンのみ。入念にリハーサルを行い、エキストラへの演出や指示も細かいが、午後6時前にはすべての予定を撮り終えた。

「本当に恵まれた環境の中で、やらせてもらっていると思います。やっぱり、余裕がある中で仕事をしないと、スカスカの部分ができてしまう。年齢のこともあるし、もう徹夜で撮影することはしたくないですね。きょうのシーンはラストシーンまで影響する重要なシーンなので、結構、集中しなければいけないので、緊張しました」

「活動弁士」という職業は日本固有の職業という。「世界のサイレント映画は音楽と字幕だけでやっていたんです。映画は最初にやってきた頃は、外国の街が写っていたら、その場所をちゃんと説明しなければいけないということだったと思います。その後も、物語を語るようになったときに、誰かが説明することになり、観客もそれを受け入れ、“活動弁士”という職業が自然発生的に生まれていったのです」

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活動弁士は1930年代、トーキー映画の出現によって、職業として廃れていく。「トーキーがなくても、弁士の仕事自体に疑問を持つ人はいただろうと思います。なぜかというと、日本では同じ映画も、活動弁士よって違う内容になってしまう。そんなバカなことがあるのか、と思った人はいるはずです。さらに、日本の映画は外国映画に比べると、映像的な工夫が本当になかった。舞台を正面から見たままで撮ればいいわけです。細かいところは弁士が全部説明してくれるから。オーバーラップ、トラックバック、カットバックという技術は外国映画に比べて、ほとんど発達していないんです」

「カツベン!」ではトーキー以前、活動弁士がスターだった時代が舞台。そんな中、主人公の俊太郎は活動弁士、山岡に憧れ、一方の山岡は自分の仕事に懐疑的になっていく。山岡のモデルは弁士を廃業後、漫談家、作家、俳優などで活躍し、“元祖マルチタレント”となる徳川夢声だ。

「徳川無声は、弁士が終わった後も喋りの世界で、自分の独自の世界を築き、役者としても活躍しました。自分の技術が必要なくなった後に、自分の表現を発見していったのでしょう。この映画は、そんなことの入り口にある話です。ほとんどの皆さんは、日本映画にはどういう歴史があって、どうスタートを切ったということを知らないと思います。それを理解してもらいながら、活劇として、娯楽映画として、楽しんでいただけるように作っています」

シコふんじゃった。」では学生相撲、「Shall weダンス?」では社交ダンスの世界と、なじみの薄い題材をエンタメとして描いてきた周防監督。「カツベン!(仮題)」でも、新たな世界を見せてくれそうだ。映画は、東映京都撮影所、東京・東映撮影所でのセット撮影、関東近郊や福島、中部・近畿地方ロケを敢行し、12月にクランクアップ。19年12月に公開される。

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