ソフィア・コッポラ監督、「ビガイルド」で到達した娯楽と芸術の黄金比
2018年2月23日 14:00
[映画.com ニュース]長編6作目となる「The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ」(公開中)を手がけたソフィア・コッポラ監督が来日し、インタビューに応じた。第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で、女性として史上2人目となる監督賞を受賞。“愛憎スリラー”映画で新境地を切り開き、「自分のスタイルを貫きながら、ジャンル映画としての語り口にも挑むことができた」と強い手ごたえを示した。
ニコール・キッドマン、エル・ファニング、キルステン・ダンストといった各世代を代表する女優を起用し、クリント・イーストウッド主演作「白い肌の異常な夜」の原作であるトーマス・カリナンの小説「The Beguiled」を女性視点で映像化。南北戦争期のアメリカ南部を舞台に、世間から隔絶された女子寄宿学園で暮らす7人の女性たちと、彼女たちの前に現れた敵軍の負傷兵が、情欲と嫉妬に絡め取られていく。
「閉鎖的な空間で、男女のパワーバランスがいかに変化していくか。そんな普遍的なテーマに強くひかれたし、非常に現代的な問題提起だと感じたの」と語るコッポラ監督は、「もちろん、当時の“空気”も作品には色濃く反映されている。アメリカ南部で生まれ育った彼女たちは、男のために美しく、優雅であるべきと教育されているけれど、戦争のせいで周りに男がいない。しかも、敬虔(けいけん)なクリスチャンだから、内に芽生える欲望に対する葛藤も抱えている」と各キャラクターの内面を解説する。
学園長のマーサ(キッドマン)、結婚適齢期を迎えた教師のエドウィナ(ダンスト)、思春期真っただ中のアリシア(ファニング)と立場や世代が変われば、欲望の形も変わってくる。そんな女たちを翻ろうするのが、コリン・ファレル演じる負傷兵のマクバニーだ。「キリスト教の教えに従い、敵兵である彼の面倒を見ることになるけれど、招かれざる珍客なのは間違いない。一方、マクバニー自身も、捕虜(ほりょ)として南軍に突き出される危険にさらされていて、本能的にサバイバルの方法を模索している。そこで、女性たちの“欲望”に応えようとする。エドウィナに求婚したり、アリシアを誘惑したり……。マーサが自分を“男”として意識していることも見抜いている。根っからの悪人ではないけど、状況がそうさせているの」。
そんな女性7人と、たった1人の男が対峙し合う構図こそが「非常にユニークだし、この映画の核になった」と語るコッポラ監督は、本作で脚本も手がけており「大切なのは、キャラクターの脳に入り込んで『何を見て、何を感じるのか』『この状況なら、どうするか』とイマジネーションを膨らませること。登場人物の世代がこれほど幅広い作品は初めてだから、とても刺激的だった」と振り返る。
長編監督デビューを飾った「ヴァージン・スーサイズ」(1999)から、独自の視点と美意識を武器に、着実なキャリアを積み上げた。フランシス・フォード・コッポラの娘という“前置き”はすでに遠い過去のものだ。「自分のことを客観視するのは難しいけれど、人間的な部分に変わりはないと思う。もちろん、映画監督として20年近い経験があり、テクニカルな面での成長は自覚しているし、現場でも、俳優たちとうまくコミュニケーションが取れるようになった。年齢を重ねることで、描くキャラクターも変化しているし。今回であれば、やっぱりニコール(・キッドマン)が演じるマーサに共感したわ。コッポラ一族という点は……そうね、恩恵もあれば、不利なこともあった。こればかりは仕方ないことだから、両方受け入れて、自分らしい作品をつくることだけに集中しているの」。
最高傑作の呼び声も高い「The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ」は、「娯楽性とアートを両立させる上での、バランスの大切さを学ぶ機会だった」とも。「製作費が削減されてしまったこともあり、撮影期間はわずか26日間。選択の余地がなく、とにかく撮らざるを得ない状況だった。だからこそ、今は誇らしい気持ち。ビジネスに長けているタイプではないし、信じられるのは、自分の直感だから」。
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