映画のキャッチコピーは進化したか?「映画のキャッチコピー学」の樋口尚文氏が選ぶ名惹句
2018年2月15日 19:00
[映画.com ニュース] 日本で映画が産業として成立し始めた1920年代から現在にいたる映画宣伝の惹句、キャッチフレーズをその手法や切り口でまとめ、その映画の本質や時代背景に迫った「映画のキャッチコピー学」(洋泉社)。その著者は、電通で30年間クリエイティブ・ディレクターを務め独立し、映画監督で映画評論家として活躍する樋口尚文氏。約100年間のキャッチコピーを紐解いて、明らかになった驚愕の事実とは?
宣伝コピーを生業にしてきた樋口さん。その原体験は佐賀・唐津に住んでいた6歳の頃にさかのぼる。「田舎の映画館は、独自のチラシを作っていたんです。それが新聞に織り込んであって、漢字も読めないのに、親の前で朗読していたりしました。結構、きわどいエロティックな惹句もありまして、親は面白がって、聞いていました。映画少年だった70年代は映画館を巡ってはチラシをもらい、見ていない映画を想像したりしました。チラシのビジュアルよりも映画への妄想をかきたてるコピーに惹かれていました」
映画のキャッチコピーには一般の業種の広告のものとは違う独特の雰囲気を感じていたという。「映画のコピーはどちらかというと、人間の本能に訴えかける、右脳で発想したような言葉が多い印象です。100年間を見れば、その進化がうかがえ、面白いものが書けると思っていました」
しかし半年間、図書館で新聞を丹念に調べた結果、分かったのは真逆の事実だった。「時代時代によって、そのワードは違うのですが、基本的にまったく同じことをやっているんです。輝いていたのは、昭和5年から12年まで。洒脱だし、賑やか。言葉も素晴らしい。それが日中戦争の頃までは続くのですが、太平洋戦争の頃になると、バタリと消える」。本書ではそんな変遷を明らかにし、アプローチの方法を「スケールと物量」「スタアの魅力」「上映方式」など類型化し、ユーモアを交えて解説している。そんな本書で紹介されたものから、「これぞ!」という名キャッチコピーを選んでもらった。
妖気骨を刺し鬼気胸に迫る! 本格的怪奇映画の極
心弱き人、妊娠中の御婦人には絶対おすゝめの出来ぬ
「裁かるゝジャンヌ」のカール・ドライヤー監督による芸術的なバンパイヤ映画。「ホラー作品としての怖さを押さえつつドライヤーの作家性も匂わせ、かつ40数年後の『サスペリア』の画期的コピーを先取りする“禁止ニュアンス”で観たい欲望を駆り立てる手法も試みられています。約100年前の『イントレランス』などを筆頭に戦前のコピーは一気に現在と同じレベルにまで進化しきっています」
アメリカに禁酒法がしかれていた1920年代を舞台に、ラム酒を密売する船員とハリウッドの女王の恋物語。監督は「美しき人生」のロベール・アンリコ。「作家・井上ひさし氏によるものです。惹句になんでも叩き込まなければならないという時代に、その機能を最大限に使っています。あまりに名調子で映画を見ているような気分になる。こういうことを書ける筆力のある宣伝部はなかなかいない。昔は、コピーライターがあまりいなかったし、評論家の言葉もずっとステータスがありました。いい宣伝文句を編み出してくれる人というポジションでもあったのです」
ファン、マスコミの熱望に応えて たった今、続映が決まった
実録路線の先駆けとなった、深作欣二監督のヤクザ映画。「東映宣伝部の名惹句師、関根忠郎さんによるもの。興行2日目で決まっているような内容を『今、決まった』と書くわけです。そのハッタリと勢いが素晴らしい。自分の映画『インターミッション』が続映になった時も、そっくり真似しました(笑)。関根さんは100年史を調べても、職業的に惹句師、コピーライターで、あれだけの質であれだけの量を書いている人はいない。関根さんの作品は、ご自身による『関根忠郎の映画惹句術』という著作あるので、なるべく選ばないようにしようと思ったんですが、結果的には数多く選んでいました」
自分の魂をとりだし掌の上で確かめたくなる。(映画監督 鈴木清順)
美しいモデルの周辺で殺人事件が発生。そのモデルはもともとシャム双生児として出生し、切り離されたもう一つの肉体の魂が惨劇を生んでいた、というブライアン・デ・パルマによるサスペンス。「『自分の魂をとりだし掌の上で確かめたくなる』とは、なかなか書けない。昔の宣伝部は、すごく言葉に飢えていたようで、それを埋めているのが作家、映画監督、評論家だった。そこは発見でした。今も芸能人のコメントを使う手法はありますが、メインキャッチ相当の扱いで鈴木清順監督の言葉を使っているんです」
大捜査陣と犯人側の先陣争い ――今、その苛烈なタイム・レースに
《東映実録》が力ずくで割り込んだ!
日本犯罪史上空前絶後の完全犯罪となった1968年12月に発生した三億円事件。その時効を当て込んで、東映の製作陣が「真犯人」を暴いたということが売り文句の話題作。「普通の感覚なら、割り込んだではなく、『衝撃の公開』とか、書くと思います。最後の一行がすごい。どこからその発想が出てきたのか。大爆笑でした」
角川映画のキャンペーン(1976年)
「キャッチコピーの数少ない進化点と言えます。一般の商品では、イメージ、ブランド感をうたうものはありましたが、映画界においては画期的。パッケージ感を打ち出しています。賑やかなお祭りに参加しませんか?という符牒で、それを物量作戦で煽ることで、ファンも『なになに?』と見に行ったわけです」
「サスペリア」(1977年)
イタリアの巨匠ダリオ・アルジェント監督作。ドイツのバレエ名門校に入学した若い娘の恐怖体験を描くホラーの金字塔。「モニュメンタルなキャッチコピーです。それまでの惹句は、作品の内容をどう伝えるかに終始していましたが、これは違います。作品世界がどれだけ怖いかを暗示はしているけども、映画をどう見たらいいかについて書いています。コピーとしても洗練されていて、様式美があります」
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