台湾映画の「今」を伝える「2014年第16回台北映画祭」レポート
2014年7月29日 08:45

[映画.com ニュース] 今年も台北に映画祭の夏が来た。台湾映画の「今」を伝える「2014年第16回台北映画祭」が、6月27日から7月19日まで台北市の中山堂をメーン会場に開催された。
台湾映画界が新たな才能発掘を目指す台北映画祭は、いわば「台湾人の、台湾人による、台湾人のための」映画祭である。観客たちはベテラン、新鋭監督の意欲作、きらりと光る新人俳優を見つけに、日々せっせと会場へ通う。客席には若者が多く、上映後の質疑応答も和気あいあい。市民を中心とした参加型のイベントだ。今年は若手監督を対象にしたコンペティション部門「国際青年監督賞」に12作品、台湾映画を対象とした「台北映画賞」に長編劇映画10作品などが出品された。
中でも注目を集めたのは、青春映画の名作「藍色夏恋」(02)のイー・ツーイェン(易智言)監督12年ぶりの新作「行動代號:孫中山」、直訳すると「コードネームは孫文」。台北の高校を舞台に、家が貧しく学級費を払えない少年たちが、学校に放置された孫文の銅像を盗み出し、くず鉄屋に売ってお金を工面しようとする物語。イー監督得意の学園映画だが、叙情豊かな「藍色夏恋」と一転、笑いに満ちた青春コメディーとなった。
過去にチェン・ボーリン(陳柏霖)、グイ・ルンメイ(桂綸[金美])、ジョセフ・チャン(張孝全)ら若手俳優を育て、“新人発掘の名手”と呼ばれるイー監督。今回も素人の中高生9人を街中から探し出してトレーニング。みずみずしい魅力を引き出している。しかし一方で、ユーモアたっぷりのせりふや演出の裏にあるテーマは、台湾で深刻化する格差や貧困の世代間連鎖。少年たちの冒険は「貧乏人の子は貧乏に終わる」現実への異議申し立てでもある。
映画祭での上映後、監督は満場の客席に語りかけた。「世の中には富める人も貧しい人もいる。問題は台湾社会の階級の間に交流がないこと。人と人の交流が断たれれば、希望もチャンスも失われる。それこそ深刻な問題だ。(映画で)子供たちは『おれたちが力を合わせれば、将来きっと大きなことができる』と言う。彼ら自身が立ち上がり権利を勝ち取るべきだ」

そんなイー監督のもとで12年前、「藍色夏恋」の撮影監督を務めたのがチエン・シアン(銭翔)監督だ。長編2作目の「迴光奏鳴曲」が今回、台北映画賞部門の最優秀長編劇映画賞を獲得した。南部最大の都市・高雄を舞台に、中年主婦の孤独と倦怠を静ひつなタッチで描く。主演はツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督作品の常連チェン・シャンチー、共演は台湾で自転車ブームが起きるきっかけとなった「練習曲」(07)のイーストン・ドン(東明相)。繊細な演技、無駄のない脚本、緻密な演出が、観た後に静かな余韻を残す。
質疑応答に立ったチェン・シャンチーは、ここ2年で両親が相次ぎ他界。「もう演技をする意味はないのでは」と落ち込み、悩む主人公を演じる「心の準備はできていた」と振り返った。いわば自身を投影した迫真の演技で、最優秀主演女優賞を獲得。作品賞とのダブル受賞に、授賞式で監督と抱き合い、喜びを分かち合った。チエン監督は『藍色夏恋』を見て育った私が、表舞台に立つことになりました」と誇らしげにトロフィーを掲げ、新世代の台頭を印象付けた。
さらに、新たな才能として注目を集めた人がもう一人。ジョン・ウー監督の「レッドクリフ」などで知られる俳優のチャン・チェン(張震)だ。初監督作品「三生」の上映に合わせ、海外の撮影現場から急きょ帰国。観客との質疑応答に駆け付けた。「三生」は香港国際映画祭の依頼で製作された短編オムニバス。同じく俳優の韓国チョン・ウソン、香港フランシス・ン(呉鎮宇)との3部作となっている。
チャン・チェンが担当したパート「尺蠖」は、失業した台北の元サラリーマンが主人公。自室にこもってインターネットのゲームに没頭し、家族や社会と隔絶していく過程が描かれる。新聞の短編小説が原作で、主役には台湾の人気バンド・Mayday(メイデイ、五月天)のメンバー、ストーンを起用した。チャン・チェンは「僕も小さいころからゲームで遊んできた。小説で描かれた状況、テーマにとても興味がわいた」と語った。
初めての監督は「とても気分が良かった」と満足げ。「俳優として現場に向かう時は、いつもとても緊張する。プレッシャーも大きく、自分を追い込む自虐的な面もあった。監督をする時は少しリラックスした方がいいと分かった」と自己分析。「グランド・マスター」などの出演で親交の深いウォン・カーウァイ(王家衛)監督から、編集についてアドバイスがあったことを明かした。
映画祭のクロージング作品は、香港映画「那夜凌晨,我坐上了旺角開往大埔的紅VAN」。フルーツ・チャン(陳果)監督、サイモン・ヤム(任達華)主演のミステリーだ。深夜に乗合バスがトンネルを抜けると、そこは荒廃した世紀末の別世界。乗客たちも次々謎の死を遂げる──。中国に返還されて「変わり果てた」香港を意識し、ブラックユーモアと政治的風刺を散りばめた作品となった。
台湾では今年、中国とのサービス貿易協定締結をめぐって大規模な反対運動が起きたばかり。記者会見では「今日の香港、明日の台湾」とサブタイトルが付けられ、中国の脅威を意識して紹介された。
会見でチャン監督は「ここ数年で香港全体が変わり、私たちには大きな啓発となった。一夜にして街がなくなる感覚は、今の香港に非常に酷似している。社会はこれほど早く変わってしまうのだ。香港と台北はこの2年ほど状況がよく似ている。人々が社会正義の実現のため街に出始めた。香港人が行動する理由を、台湾の人たちにも理解してほしい」と語った。
さらに、日本でも公開が予定されている大ヒット作「KANO 1931 海の向こうの甲子園」、チェン・ユーシュン(陳玉勲)監督16年ぶりの復帰作「祝宴!シェフ」、ツァイ・ミンリャン監督の引退作「郊遊 ピクニック」も、前売り券が完売する人気ぶり。それぞれ監督や俳優が観客との質疑応答に参加し、リラックスした様子で交流を楽しんだ。(遠海安)
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