ダルデンヌ兄弟「少年と自転車」 親に捨てられた少年と里親の愛描く
2012年3月31日 14:30
[映画.com ニュース] ベルギーの名匠ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督とリュック・ダルデンヌ監督が、第64回カンヌ映画祭グランプリを受賞した新作「少年と自転車」が公開された。両監督が2003年の来日時に聞いた、施設で親を待ち続ける少年のエピソードに着想を得て製作された。
“幼少期から施設に預けられていた少年が、いつか会いに来ると約束した親を待つために毎日屋根に登って待っていた。しかしその約束は守られることはなく、少年は人を信じることをやめてしまった……”。少年非行を専門とする石井小夜子弁護士が語ったこの話をモチーフに、児童養護施設に預けられ、父親と再び暮らすことを願う少年シリルと、週末に少年の里親になる美容室オーナーのサマンサとの交流を描く。
親が子を捨てるという悲劇的な物語を題材としているものの、少年の成長や希望にスポットを当てており、作品の仕上がりは穏やかで優しい印象を受ける。「この映画全体に太陽の光が当たることを私たちは望んでいました。この男の子のストーリーに太陽のあたたかな光が投げかけられるようにと考えたのです」(ジャン=ピエール)
独身女性という設定でありながら、孤独なシリルに包み込むような無償の愛をそそぐサマンサを演じるのは、「スパニッシュ・アパートメント」「ヒア アフター」などで国際的に活躍するセシル・ドゥ・フランス。「サマンサの役には、スクリーンに入ったとたんに彼女と一緒に光やあたたかさが入ってくるような女優でなければいけないと思いました。その光がこの映画全体を照らして、全体を通じて続いていかなければなりません。セシルならばそれができると思いました。彼女を選んだ理由はそこにあります」(ジャン=ピエール)
「ロゼッタ」や「ある子供」などで無名の俳優を起用し、リアリズムに徹したタッチで重厚に描かれたこれまでの作品とは作風が一転したかのように観客は感じるだろう。しかし、特に作品のトーンを変化させたわけではないという。「他の映画より明るくなっていると私は思いません。私たちが今回語ったのは、子どもとひとりの女性の愛の物語です。ラストシーンを見て、他の映画よりもポジティブな、前向きな映画だという印象が残るのではないでしょうか。また、他の映画においてもそれほど絶望で映画は終わっていません。例えば、主人公をラストで殺すようなことは、私たちは一度もしていませんから」(リュック)
育児放棄や乳幼児虐待といった心を痛める事件が相次ぐ昨今だが、人間同士のあたたかな心のつながり、子どもに本当に必要な愛や優しさとは何かを見る者に再確認させる一作だ。