新生・石井岳龍、10年ぶりの渾身作「山が見えたらそこに登りたい」
2012年2月17日 19:40
[映画.com ニュース] [映画.com インタビュー] 「狂い咲きサンダーロード」(1980)、「爆裂都市 Burst City」(80)、「逆噴射家族」(84)など前衛的な作品を発表し続け、世界中から熱狂的な支持を得た鬼才・石井聰亙。2011年に石井“岳龍”と名を改め、最新作「生きてるものはいないのか」(2月18日公開)でおよそ10年の沈黙を破る。
「改名なんてたいしたことじゃないと思っていたんだけど、外国の方にも『出家したのか?』とか聞かれちゃって、お騒がせして申し訳ない(笑)。何かの節目かなと、違う人間になったつもりで新しいスタートを切りたかった。こだわりを捨てていこうという意味も含めて。“聰亙”って名がブランドだったとしたら、新ブランドを立ち上げたい気持ち」と、改名の理由は意外なほどにシンプルだった。
「五条霊戦記 GOJOE」以来約10年ぶりの長編作品となるが、「今回は意図的に我慢した10年。日本の映画界はデジタルの導入で、ソフトもハードも大幅に変わった。僕みたいな不良監督が大学に呼ばれるなんて信じられないことが起きたし。映画を作るチャンスがなかったわけじゃないけど、きちんと腰を据えた、揺らぐことのない映画作りをしたいという意識があった」と心境を明かす。「最初の頃は先のことを考えずにがむしゃらにやっていたし、かなり迷ってもいた。今は確実なことをやっていれば、それが実を結ぶと信じている。もしかしたら今がベストな状態なのかもしれない」と新生・岳龍に期待が高まる。
原作は、第52回岸田國士戯曲賞を受賞した前田司郎の同名戯曲。病院に併設された大学のキャンパスを舞台に、いつもと変わらない日常に突如訪れた不条理な“最期”をコミカルに描く群像劇だ。「生まれてくることも死ぬことも、人類皆に平等で逃れようのないもの。だから人間はそういうことを考えたくないし、根拠もなく自分には関係ないと思いたい。だけど、死を見つめることで何か大事なことが始まる。一見くだらない会話からそのテーマを展開する物語はとても新鮮で、共鳴するところがあった」と語る。革新的なビジュアルで観客を驚かせてきた石井監督だけに、「映画はある種の空間建築。フレームの組み合わせによって言葉以外のものを伝える。舞台のことは素人だけど、映画が原作のセリフの面白さとかけ算になればいい」と持論を語った。
主演を務めるのは、園子温監督作「ヒミズ」(12)で話題となった染谷将太。本作の撮影は「ヒミズ」よりも先だが、「『パンドラの匣』(09)を見て、彼の凛々(りり)しさに注目していた。彼のために役柄の年齢設定を変えてオファーしたら快諾してくれて。染谷くんにはクローズアップの力があって、彼の演じた役にはまさにそれが必要だった」。染谷をはじめとする若者たちのリアリティあふれる会話劇が新鮮だが、「演技というのは最終的には演じたその人のもの。だからこそどういう人に頼むかが重要で、自分できちんと考えることができる俳優さんと僕はやりたい」と“石井マジック”により数多くの新人俳優が芽をふいた。
本作の舞台ともなっている神戸芸術工科大学で教鞭(べん)をとる石井監督だが、「大学で生徒と接していて、ジェネレーション・ギャップを感じることもあったけど、親密になって突っ込んでいくと大事なことは僕らの時代と何ひとつ変わってなかった。それに、彼らには僕らの常識や判断ではとらえきれないところがあって、世代だけで十把一絡げ(じっぱひとからげ)にはできない。彼らとの出会いは僕の中でも大きい」と学生との絆がスクリーンで結実した。
本作はいわゆるオーソドックスな作りのドラマではない。やはり、パンクと呼ばれる石井監督ならではの実験的要素がふんだんに注ぎ込まれている。「山が見えたらそこに登りたい、ただそれだけ。途中、霞がかったりして視界が悪くてもそれが楽しい。やっぱり結果が分かってることはつまらない。もちろん玉砕するつもりはないけど、その山に登る準備を十分してきたつもり。そういうチャレンジ精神で苦手なことに挑戦し続けてきた」と自負している。
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