映画 イチケイのカラスのレビュー・感想・評価
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社会正義、真実究明に立ちはだかるもの
本作は人気TVシリーズの劇場版。隣接する町で起こった二つの事件の真相に迫る主人公と女性弁護士の姿を描いている。過大な期待はしなかったが、迫力ある見応え十分な作品である。コミカル風味で、二つの事件を通して、正義、真実に真摯に向き合った作品である。
本作の主人公は裁判官の入間みちお(竹野内豊)。彼は、東京地方裁判所第3支部第1刑事課(通称イチケイ)から岡山県の小さな町に異動した。そこで彼は、防衛大臣(向井理)への傷害事件を担当する。事件の背後にイージス艦衝突事故があったため、彼は、衝突事故を調査しようとするが国家権力の厚い壁に阻まれる。一方、イチケイで共に事件を裁いてきた坂間千鶴(黒木華)は、隣町で、裁判官の他職経験制度により、弁護士として、人権派弁護士・月本慎吾(斎藤工)とともに懸命に業務に励んでいた。そんな状況の中で、千鶴は、ある疑惑解明のため地元企業と対峙していく・・・。
動の千鶴、静のみちおのバランスが絶妙。がむしゃら、行動的な千鶴に対して、大胆、単刀直入、思慮深く、物静かな、みちお。丁々発止のやり取りのなかに相互信頼、相互理解が垣間見える。どんな役柄でも見事に熟す黒木華の演技力には脱帽。
当初、全く関係ないと思われた二つの事件が次第に絡み合い一つの事件に収束していくプロセスに迫力がある。意外性がある。そのなかで、真実究明に苦悩する千鶴へのみちおのアドバイスが心に響く。そう簡単に真実には辿り着けない。悩んで悩み抜いた末にようやく真実の光が見えてくる。名言である。みちおの表情、台詞回しに経験に基づいた確信がある。説得力がある。
事件の結末は意外だが、日本の地域社会において、脈々と育まれてきた地域を牽引する地元企業と住民の関係=相互依存という背景を考えれば納得できる。国家権力の話も含め、本作の結末は、社会正義、真実究明に立ちはだかる日本の旧態依然とした隠蔽体質、ムラ社会への警鐘である。開かれた日本への熱望である。
司法は私たちの生活をを守るための砦
坂間千鶴恐るべし
設定変更が無理やりだが、話の面白さで許せる
原作コミックスは未読であるが、テレビドラマは鑑賞済みである。コミックスの設定では坂間は男性で、入間は中年のメタボなオッさんだそうだが、ドラマ化に当たって原作者の了解を得て変更されたそうである。各人物のキャラ設定などは一切説明されていないので、ドラマの最初の方だけでも見ておくのがお勧めである。
弁護士が主役のドラマや映画は多いが、検察や裁判官が主役の作品は昔からあまりなかった。2001 年に「HERO」で検察官に注目が集まったのは画期的であったが、裁判官が主役というのは更に 20 年待たねばならなかったということになる。入間のキャラ設定は非常にユニークで、HERO の久利生に匹敵する。竹野内豊のハマり役で、実に魅力的なキャラクターになっている。
坂間千鶴を女性にしたことで話の幅が広がっており、キャラ変更は非常にうまく行っていると思わざるを得ない。特に、この映画では必須であったと言えるだろう。話の性格上、東京での話にできず、岡山の架空の都市が舞台になっており、入間は2年前から異動して来ており、坂間は裁判官の他職経験制度により、弁護士として2年間働き始めるという設定になっていて、検事の井出まで異動して来ているのはかなり無理やりな気もするが、話の面白さに免じて余裕で許せる範囲である。
とにかくエピソードがてんこ盛りで息つく暇もないという贅沢な出来上がりになっていた。息抜きのシーンもコンパクト化されていて、テンポが非常に速く進んでダレるところが無い。良く出来た脚本である。ドラマの脚本も全て同じ人が手掛けているために、キャラ設定などに揺らぎがない。真実が明らかになっても当事者が必ずしも救われないという話もリアリティがあった。
この話では、真実を見て見ぬ振りしなければ多くの人が生活の基盤を失うという重い話である。弁護士や裁判官が真実を追求することにあらゆる妨害があるという事情は察せられるが、放火や殺人は重罪である。だが、そもそもの原因が工場で従来使っていた有機溶剤の法改正による使用禁止ということであれば、コストが跳ね上がっても代替の物質を使えば良いだけであって、事情を本社に話せば、やむを得ないコストの上昇ということで、製品価格を引き上げれば済む話であろうと思われるので、事件の発端としてはやや弱い感じを受けた。
また、大気に晒した汚染物質であれほどの健康被害があるのであれば、土壌調査をした坂間も危なかったのではないのか、というのが気になった。また、話の重要なポイントである防衛大臣に関する重要な映像があるなら、観客にも見せるべきだったと思う。その点がやや詰めが甘かったようで惜しまれる。
竹野内豊と黒木華のコンビは相変わらずいい味を出しているし、現場にいない小日向文世や桜井ユキも上手い具合に絡んで来ていた。斎藤工はシン・ウルトラマンより人間味のある役どころで見せ場も多かったし、また、見慣れない役者がいると思ったら宮藤官九郎だったのに驚いた。庵野秀明もチョイ役で出ていたが、相変わらず素人演技で笑った。
音楽の服部隆之は HERO と同じで、人のしがらみを感じさせる重い曲と、事態が解決した時のカタルシスを感じさせる曲の使い分けが見事であった。演出のテンポの良さと、事件の重さや各人物の胸の内を感じさせるところは見応えがあった。テレビドラマを見て来た人には非常に楽しめる映画であると思う。
(映像5+脚本5+役者4+音楽4+演出5)×4= 92 点。
イチケイのからす
坂間千鶴の成長物語
てんこ盛り
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