劇場公開日 2023年1月13日

「設定変更が無理やりだが、話の面白さで許せる」映画 イチケイのカラス アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5設定変更が無理やりだが、話の面白さで許せる

2023年1月13日
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鑑賞方法:映画館

原作コミックスは未読であるが、テレビドラマは鑑賞済みである。コミックスの設定では坂間は男性で、入間は中年のメタボなオッさんだそうだが、ドラマ化に当たって原作者の了解を得て変更されたそうである。各人物のキャラ設定などは一切説明されていないので、ドラマの最初の方だけでも見ておくのがお勧めである。

弁護士が主役のドラマや映画は多いが、検察や裁判官が主役の作品は昔からあまりなかった。2001 年に「HERO」で検察官に注目が集まったのは画期的であったが、裁判官が主役というのは更に 20 年待たねばならなかったということになる。入間のキャラ設定は非常にユニークで、HERO の久利生に匹敵する。竹野内豊のハマり役で、実に魅力的なキャラクターになっている。

坂間千鶴を女性にしたことで話の幅が広がっており、キャラ変更は非常にうまく行っていると思わざるを得ない。特に、この映画では必須であったと言えるだろう。話の性格上、東京での話にできず、岡山の架空の都市が舞台になっており、入間は2年前から異動して来ており、坂間は裁判官の他職経験制度により、弁護士として2年間働き始めるという設定になっていて、検事の井出まで異動して来ているのはかなり無理やりな気もするが、話の面白さに免じて余裕で許せる範囲である。

とにかくエピソードがてんこ盛りで息つく暇もないという贅沢な出来上がりになっていた。息抜きのシーンもコンパクト化されていて、テンポが非常に速く進んでダレるところが無い。良く出来た脚本である。ドラマの脚本も全て同じ人が手掛けているために、キャラ設定などに揺らぎがない。真実が明らかになっても当事者が必ずしも救われないという話もリアリティがあった。

この話では、真実を見て見ぬ振りしなければ多くの人が生活の基盤を失うという重い話である。弁護士や裁判官が真実を追求することにあらゆる妨害があるという事情は察せられるが、放火や殺人は重罪である。だが、そもそもの原因が工場で従来使っていた有機溶剤の法改正による使用禁止ということであれば、コストが跳ね上がっても代替の物質を使えば良いだけであって、事情を本社に話せば、やむを得ないコストの上昇ということで、製品価格を引き上げれば済む話であろうと思われるので、事件の発端としてはやや弱い感じを受けた。

また、大気に晒した汚染物質であれほどの健康被害があるのであれば、土壌調査をした坂間も危なかったのではないのか、というのが気になった。また、話の重要なポイントである防衛大臣に関する重要な映像があるなら、観客にも見せるべきだったと思う。その点がやや詰めが甘かったようで惜しまれる。

竹野内豊と黒木華のコンビは相変わらずいい味を出しているし、現場にいない小日向文世や桜井ユキも上手い具合に絡んで来ていた。斎藤工はシン・ウルトラマンより人間味のある役どころで見せ場も多かったし、また、見慣れない役者がいると思ったら宮藤官九郎だったのに驚いた。庵野秀明もチョイ役で出ていたが、相変わらず素人演技で笑った。

音楽の服部隆之は HERO と同じで、人のしがらみを感じさせる重い曲と、事態が解決した時のカタルシスを感じさせる曲の使い分けが見事であった。演出のテンポの良さと、事件の重さや各人物の胸の内を感じさせるところは見応えがあった。テレビドラマを見て来た人には非常に楽しめる映画であると思う。
(映像5+脚本5+役者4+音楽4+演出5)×4= 92 点。

アラカン