哭悲 THE SADNESS : インタビュー
凶悪なR18+ホラー「哭悲」を生み出した理由とは? ロブ・ジャバズ監督が語る初の実写映画挑戦
「史上最も狂暴で邪悪」(RUE MORGUE MAGAZINE)、「悪意と苦しみの底なし沼」(HeyUGuys)、「地獄があるとしたら、この映画のことだ」(Horror Cult Films)、「二度と見たくない傑作」(F This Movie!)……インパクト抜群の評価を携え、凶悪すぎるR18+指定映画が日本に上陸する。
タイトルは「哭悲 THE SADNESS」(「哭悲」の読み方は「こくひ」)。舞台は、凶暴性を助長するウイルス「アルヴィン」の感染拡大によって暴力が溢れかえった台湾。1組の男女が再会を果たそうとするさまを、徹底したゴア描写を交えながら描き出している。目を覆いたくなるほどの惨劇が連続するため、思わず鑑賞を後悔してしまうほど。危険すぎるシーンで溢れかえった、容赦なきエクストリーム・ホラーとなっている。
監督を務めたのは、長編初作品となったロブ・ジャバズ。カナダ出身、台湾在住の映画監督・アニメーターだ。もともと映画での表現に興味があったようが、実写映画には多くのリソースが必要、その一方でアニメーションは無名だとしても、自分の技術で完結できることが多い点に魅力を感じ、独学でアニメ技術を学び、キャリアをスタートさせている。
台湾移住後、フリーランスとしてオリジナル短編アニメ「Great Daena:Act One(原題)」、電子音楽家Howie Leeの「Bei Hai」のMVなどを手掛け、業界内での知名度を着実に広げていく。2020年、念願の実写コンテンツ参入の第1歩として短編映画「Clearwater(原題)」を製作。台湾のプロダクション「Machi Xcelsior Studios」は、同作の完成度の高さを評価し、ジャバズ監督とタッグを組み、「哭悲 THE SADNESS」の製作に踏み切った。
アニメーションを経由しつつ、初の実写映画挑戦へ。そもそも「映画での表現」に惹かれたきっかけは、どのようなものだったのだろうか。
「常にストーリーテリングには興味を持っていました。正直、アートの観念においても、私の人生においても、最も大切にしていることです。映画という媒体には、人々に強い感情を感じさせる素晴らしい力があると考えています。Machi Xcelsior Studiosからホラー映画製作のオファーが来た時、私は張り切ってその機会を掴み取りました」
ジャバズ監督は「哭悲 THE SADNESS」の製作経緯について「ほとんどの映画とは逆だと思いますが、最初にアイディアがあったわけではありませんでした。今作を製作することになったきっかけは、コロナウイルスの流行です」と明かす。
「ハリウッドのプロダクションが閉ざされたことで、多くの映画が公開延期を余儀なくされました。プロデューサーと『私たちに出来るのは映画を作ることだ』という話になり、どんな映画にするか、ホラー映画であれば低予算で制作できるということでプロジェクトが進みました。製作が終わる頃、完成には合わせて半年ほどかかりましたが、上映できる状態になっても、映画祭は開催されませんでしたし、映画館は“再上映”ばかり。台湾の映画館でも上映できる新作が無い状況でした。それが映画を作ろうと思ったきっかけ、決断した理由です。では、どんな内容の映画にするのか。『パンデミックを描くしかない』と決まりました。その時、観客が最も知りたい内容だという確信があったんです。本当にパンデミックについて知りたいのか……(人々にそう問えば)知りたくないと言うでしょう。しかし、Netflixで注目を浴びているのは、ウイルスやゾンビ映画なのは明らかです。人々の言葉よりも、人々の行動を信じようという教訓に繋がりました」
やがて「どうすれば真新しい映画になるだろうか」と考え抜いた結果、「(人々が)ゾンビ化した後も知性を残す。検閲に関する制限は特に考える必要が無かったので、性的暴力の脅威という要素をメインにすることで、より恐ろしい映画になる」と結論づけた。
「性暴力は私を含め、多くの人にとって対処しづらい問題。だからこそ、観ていて不安な気持ちにさせるものです。例えば、誰かが追いかけられる、刺殺される、といったものもそうですが、何時間にもわたって性暴力を受ける場面というのは本当に、本当に、本当に見難いものです。じゃあ、そのテーマを入れてみよう、そういった映画を作ってみようということになりました」
どうすれば社会的問題にならない作品にできるのか――ジャバズ監督が参考にしていたのは、ガース・エニスによるコミック「Crossed」。「(『Crossed』では)性的暴力やレイプの描写をするときは慎重にならなければならないと考え、そこに着目しました。今作を製作した時は、こうした醜いテーマを描くうえで創造性が必要であることに気づき、多くのシーンを下品な台詞や効果音、視覚的含意を通して描きました」と語る。
本作に登場する感染者たちは、罪悪感に苦しみながらも暴力衝動に抗うことができない。その結果、街中に殺人と拷問が横行する事態に。感染者の殺意からどうにか逃げ延びた女性カイティンは、数少ない生存者たちとともに病院に立てこもる。カイティンから連絡を受けた恋人のジュンジョーは生きて彼女と再会するため、狂気に満ちた街へひとり乗り出していく。
地獄絵図と化した街で、男女が再会を果たそうとする。ジャバズ監督は物語を構築する上で「観客を惹きつけるには、好感の持てるキャラクターが危険にさらされるという流れが非常に重要だと考えます」と説明。「映画を観る時にキャラクターを恐れるよりも、キャラクターのために恐れたほうが良い反応をしてくれますからね」と話してくれた。
最大の特徴は、突き抜けた残虐行為や聞くに堪えない言葉の数々。「全てが、元々脚本に書かれていたことです(ジャバズ監督が執筆)。エフェクトや特殊効果は、もっと自由にやってもらおうと思っていました。でも、彼らが持ってきたものを見ると、まだまだ足りないなと思いました」と振り返る。
「彼らは台湾で作られる映画についての知識によって、許容出来そうなものを作って見せてくれました。しかし、私はそれよりもはるかに行き過ぎたものが必要だと言いました。結局、彼らと密に協力し、グロテスクな暴力シーン、各シーンの絵コンテを描き、『よし、これだ!』というものを示しました。私にとってはすべて楽しみの一部でした! 観客が劇場で少しでも危険を感じてくれたら、私のスリルを与えるという手法は成功したことになると思います。現実的で汚いゴア描写は、この目的を達成するための手段です。友人と拷問や暴力行為についてブレインストーミングをしながら思いつきました。その過程でたくさんの笑いも起きました」
大のホラー映画好きでもあるジャバズ監督。好きな映画監督は、デビッド・クローネンバーグとのこと。
「彼は非常に洞察力に満ちている監督だと思います。『シーバース』は今作と似ている部分がありますが、これを70年代に作り上げて、さらに成功させたという前例は非常に素晴らしいものだと思います。他にも80年代に『戦慄の絆』や『ザ・フライ』などでグロテスクなシーンやキャラクター同士の関係性をものすごく上手に描いて、ただのホラーではなく人間らしさを取り入れたり、90年代の『Mバタフライ』や『裸のランチ』で視覚効果や感情に満ちたシナリオを作ったりと、本当に他の監督たちとは全く違っていて、私自身、彼のレベルには到底追いつけないと思っています」
ちなみに日本の映画監督では、中島哲也監督の名前を挙げつつ「『渇き。』を見たときは本当に衝撃を受けました。公開当時は観ていなくて、2年前くらいに初めて観たのですが、感情の描き方にとても感動しました。まるで私も彼女に取り込まれてしまいそうな気持ちになりました(笑)。それ以来、中島監督を心から尊敬しています」と評している。
そのほかにも「ジュリア・デュクルノー(『RAW 少女のめざめ』『TITANE チタン』)の作品はとても好きです。素晴らしい監督だと思います。サフディ兄弟(『アンカット・ダイヤモンド』『グッド・タイム』)の作品も好きですね」と答えてくれた。
次回作については「2つの脚本のアイディアを思いついているのですが、どれくらいの予算を得られるかによって変わってきます」とのこと。
「1つは今作に似たようなアクションホラー。次回作は、もっとファンタジー性を取り込んでモンスターなどを登場させたいと考えています。観客が驚くようなものを作りたいですね。もう1つは、私たちが抱えている恐怖(子どもをもつことへの恐怖など)を題材にしたアイディアです。例えば、子どもがいないことから老後での人生の目的が無くなり、世界から置いて行かれたような気持ちになる姿や、子どものいない主人公が子どもを持つ人と友だちになる話、まるでバンパイアのように人間の生きる気力や希望を吸い取る子どもなど……子ども関係のストーリーを描きたいです」
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