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後で冷静になると、細かいリアリティに関しては正直どうかなあと思う部分もある。でも見ている最中は、怒涛の展開と次から次へと登場する贅沢な俳優陣で退屈する暇がなかった。
一番インパクトがあり、田舎の島で起こる事件の息苦しい恐怖に説得力をもたらしたのは、小御坂を演じた渡辺大知だ。彼が生きて動いていたのはちょっと長めのアバンの間だけ。でもあの、ブレーキの壊れた人間特有の不気味さは物語全体に影を落とし、作品全体の不穏な空気感を支えていた。渡辺大知、最近で言えば大河「青天を衝け」の徳川家定とか、「岸辺露伴は動かない」のヒモ男郡平とか、人として欠けたところのある役がとても上手い。
後半の見どころは神木隆之介だろう。前半は目立たないたたずまいでありながら、感情が出る場面が多くある意味分かりやすい演技の藤原竜也の横で、神木の目が徐々に、静かに死んでいった。独白のシーンは鬼気迫るものがあり、目が離せなかった。
脇を固めるベテラン勢もさすがの迫力。余貴美子の町長、事件への関わり方はさすがにあり得ないレベルだが、人間的にはどこかにいそうな生々しさがあったのと、柄本明との取っ組み合いが面白かったのでよしとする。
ちなみにこのシーンについての藤原のコメント「映画史に残るであろう大アクションシーン」「『るろうに剣心』を超えたのでは」この言葉から想像されるものとは全く違うが、違うベクトルで確かにある意味超えているかも。まるで妖怪同士の決闘のようだった。
この時何故、柄本明が余貴美子町長を襲ったのかがよく分からなかった。建物の外で話を聞いていて、若者3人の方を守ろうと思ったのかな?そんなに3人の味方っぽい描写がなかったので唐突に見えた。
途中の匂わせ描写で松山ケンイチが怪しいのが大体分かってしまったのと、彼の正体が明らかになったあとのシーンに蛇足感があったのは残念だった。
映画冒頭で子供のモノローグで読み上げられた日記が最後に黒木華の言葉によって繰り返され、彼女が掲げた子供の絵が中途半端に見切れていたので、ここにまだ仕掛けがあるのかと思ったら何もなかった。島を出ていきたいと言った彼女が、夫をいつまでも待つと言いつつ、最後のシーンでもう我慢しないと言ったのはどういうことだろう?私が拾いきれていないのだろうか。
マツケンのストーカー設定の代わりに、実は黒木華がマツケンとグルだった、なんて明かされてそのままばっさり終わったら、最後までびっくり出来たかも知れない。
いくら田舎の濃い人間関係があって、補助金も絡んでいたとしても、複数の住民がそこまで他人をかばうか?出所者への偏見を助長しないか?など思ったりもしたが、エンタメと割り切れば演技と勢いだけで十分楽しめた。原作の漫画とはかなり小御坂のキャラクターやその他の人間関係など変えているようなので、原作も読んでみたい。