ロケットマン : 映画評論・批評
2019年8月13日更新
2019年8月23日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
エガートン名演!エルトンの艶やかなヴォーカル、独特なチャームまで見事に再現
昨年、大ヒットを記録した「ボヘミアン・ラプソディ」を陰の監督として完成に導いたデクスター・フレッチャーが続いてメガホンを取ったのは、またしても英国のロックスター、エルトン・ジョンの伝記映画だった。
でも「ボヘミアン・ラプソディ」の第二弾を期待すると肩透かしを食らうはず。なぜなら名曲誕生秘話やレコーディング裏話はほぼゼロ。代わりに貧困家庭で毒親に育てられた内気な少年がいかにスターの座へと駆け上り、アルコールやドラッグで転落していったかを、キャストがその都度シーンにぴったりの歌詞を持ったエルトンのヒット曲を歌い踊ることによって説明していくのだから。
つまり本作はこれまで「リトル・ダンサー」や「ライオン・キング」といったブロードウェイ・ミュージカルに関わってきたエルトンが、自らの半生をフレッチャーに差し出すことで創られた本格派ミュージカル映画なのだ。
ミュージカル映画なのだから当然、エルトン役の俳優本人が歌わなければならない。でも強靭な喉と艶を併せ持ったエルトンのヴォーカルを再現するのは至難の技である。その高いハードルをロケット・ジャンプで飛び越えてみせたのが、「キングスマン」シリーズのタロン・エガートンだ。
「キングスマン」第二弾「ゴールデン・サークル」でエルトン本人と共演して信頼を獲得、ゴリラのジョニーの声を担当したアニメ「SING シング」でもエルトン・ナンバーを歌っていたエガートンではあるものの、ここまで器用な男だったとは! 天才ゆえの孤独と傲慢さを漂わせながら、周囲の人間が放っておけないチャームを撒き散らす姿に、「そう、若い頃のぼくはこうだったんだよ!」とエルトン本人も大喜びしているはずだ。
そんなエルトンとは正反対の堅実な性格の持ち主ながら、音楽面では最高の相性を示す作詞家バーニー・トービンをジェイミー・ベルが好演。本作はふたりの出会いと諍い、そして和解を描いたブロマンス映画でもあるのだ。
(長谷川町蔵)