残された者 北の極地
劇場公開日:2019年11月8日
解説
テレビシリーズ「ハンニバル」や「ドクター・ストレンジ」「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」などハリウッド大作でも活躍するデンマークの人気俳優マッツ・ミケルセンが主演を務め、飛行機が墜落し北極にたった1人で取り残された男を描いたサバイバルドラマ。飛行機事故で北極地帯に不時着したパイロットのオボァガードは、壊れた飛行機をシェルター代わりにしながら、白銀の荒野を毎日歩き回り、魚を釣り、救難信号を出すというルーティーンをこなして生き延びていた。しかし、ようやく救助に来たヘリコプターが強風のために墜落し、女性パイロットが大怪我を負ってしまう。これまで目の前の確実な“生”を手に入れてきたオボァガードだったが、瀕死の彼女を前に、ついに自らの足で窮地を脱することを決意。現状の安住を捨て、危険を承知で勇気ある一歩を踏み出すが……。
2018年製作/97分/G/アイスランド
原題:Arctic
配給:キノフィルムズ
スタッフ・キャスト
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2019年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
舞台は極寒の地。雪と氷によってスクリーンは白一色に覆われ、まるで何も描かれていないキャンバスの中で、孤独な男が一人、必死にきりもみを続けているようにも見える。そんな中、特筆すべきはこの映画がフラッシュバックを一切用いていないことだろう。過去や未来は描かれない。状況説明もない。そこには圧倒的な現実があるのみ。観客は彼の心の内に入り込むことなく、圧倒的なリアリティから彼の人間性をじかに感じ取らねばならない。
彼がその場でたった一人で孤独であり続けたならば、そのまま動揺することなく最期を迎えられたかもしれない。だが序盤、思わぬところで「守るべき者」が舞い込むことで葛藤が始まる。使命が生まれる。己の命が自分のためだけのものではないという自責と、苦闘が始まる。そうやって初めて意志と希望が湧き出ずる。かくも人間が生きる姿を、その意義を、渾身の力で体現したマッツ・ミケルセンの演技、ただただ圧巻である。
2019年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
マッツ・ミケルセンには無骨で寡黙な男がよく似合う。北極圏の雪原に飛行機が不時着して一人生き残り、魚を釣って栄養を確保しながら忍耐強く救難信号を発し続ける……こんな主人公をほぼ台詞なしで説得力十分に演じきれるのは、彼以外にそうそういないのではないか。
監督・共同脚本のジョー・ペナは本作で長編映画デビュー。ブラジル出身で、これまでPVやCMを手がけてきたそうだが、初監督作でなぜ北極圏の遭難者の話?と興味深くもある。だが、説明的な要素を徹底的に削り落とし、ミケルセンの表情と身体の動きで雄弁に語る演出は、すでに達人の風格さえ漂う。
観る前は単調な話で退屈するのではと懸念もあったが、良い意味で予想外。サバイバルの描写に見入り、救助ヘリの事故に心を揺さぶられ、後半の脱出の旅を祈るように見守った。ラストシーンの潔さも見事だ。
2022年2月9日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
おそらくだけど、主人公は初めの墜落で誰か大切な人を亡くしたんだと思う。
ただ強烈な生存本能に突き動かされながら、
でも冷静に生き残る可能性を拾い集めていくような毎日。
そしてふいに”自分のせいで”瀕死になってしまった人を助けるため、
大きなリスクを負って歩き出すことで物語は動きはじめる。
極限の状況もあって、生きるということを描き出そうとした力作じゃないか。
全てが真っ白に凍る景色はほとんどワン・シチュエーションの趣きだし
物語を動かす要素もほとんど主人公の行動ひとつ。
説得力のあるシンプルな構図から浮かび上がるのは、やはり生きることの生々しさで
他者がいるからこそ生があるっていうメッセージだったと思う。
コロナ禍で多くの人がままならない毎日を送る中、
さまざまな断絶が社会の中に生まれてきたように思う。
人を思いやり、人のために行動することは、因果応報というほど回りくどくなく
もっと直接的に自分が生きる糧になり得ると示してくれた作品だった。