シェイプ・オブ・ウォーター : 特集
こんな映画は“2度と現れない”、本年度アカデミー賞最多13部門ノミネート
本作は「傑作」を超え、「生涯の1本」になるだろう
《一生に1度の大恋愛》──切なくも愛おしい究極の愛の物語
第90回アカデミー賞で、最多13部門ノミネートの快挙を果たした「シェイプ・オブ・ウォーター」が、まさに授賞式直前となる3月1日に日本公開を迎える。「パンズ・ラビリンス」「パシフィック・リム」の鬼才、ギレルモ・デル・トロ監督が描き出す、清掃員として政府の極秘研究所で働く女性と不思議な生きものの、種を超えた運命的な愛。切なくも愛おしく、そして目を見張るほど美しい──圧倒的な世界観と胸を打つ物語の奇跡的な融合。こんな映画には2度と出合えないかもしれない。映画ファンの「生涯の1作」となりえる究極のラブストーリーが、いよいよその全貌を現わす。
「なぜこのファンタジー・ロマンスが、最多ノミネートを果たしたのか?」
映画.com編集長が解き明かす《必然性》と《一大傑作》たる理由
人間の女性と、アマゾンの秘境で神としてあがめられてきた不思議な生きものである「彼」……。種族を超えた者同士が魂を通わせ、やがてかけがえのない存在として深い愛ときずなを築いていくさまを描く本作は、なぜ数々のライバル作を抑え、今回のアカデミー賞で最多ノミネートを果たしたのか。ここでは、作品を鑑賞し感銘を受けた映画.com編集長・駒井尚文が、その理由を解説。この快挙が決して偶然ではなく「必然」であったこと、そして本作がまごうことなき傑作、成熟した大人に見ていただきたい珠玉のファンタジー・ロマンスであることを述べた。
私がこの作品「シェイプ・オブ・ウォーター」に注目し始めたのは、17年10月、ベネチア映画祭で金獅子賞を受賞した後、1年間の休業宣言をしたギレルモ・デル・トロ監督の言葉からです。「この映画が、自分の映画で一番お気に入りなんだ。だから、より多くの人に見てもらうために最低6カ月はプロモーションに費やす必要がある」。つまりデル・トロ監督は「シェイプ・オブ・ウォーター」が大好きすぎて、「パシフィック・リム」の続編の監督も断ったし、「ミクロの決死圏」のリメイクも遅らせて、本作のプロモーションに専念するんだと。自信作を世に出すにあたり、絶対に後悔したくないというデル・トロ監督の強い信念を感じました。
「オタク監督でもアカデミー賞を受賞できる」ことを証明したのは、「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」のピーター・ジャクソン監督です。しかしジャクソン監督の場合は、「指輪物語」という名作中の名作が原典として存在していたことが、要因としてはかなり大きかった。しかし「シェイプ・オブ・ウォーター」は、ジャクソン監督の盟友であり、負けず劣らずのオタクであるデル・トロ監督が、その脳内世界をぶちまけた「完全オリジナル作品」です。オタク監督自らが、一から創造した世界観、一から紡ぎ上げた物語によって、オスカー戦線でこれほどの快進撃を続けていることは特筆に値します。まさにデル・トロ監督の集大成、キャリアのピークと言っていいでしょう。
オスカーで複数ノミネートされる作品には、その監督のキャラによっていくつかのパターンに分けられます。例えば、監督が「技術寄り」の場合(クリストファー・ノーランやジェームズ・キャメロンを想像してください)、作品賞、監督賞の他には、編集賞や撮影賞、音響編集賞、視覚効果賞などテクニカルな部門を中心とした複数ノミネートになります。一方、俳優によるアンサンブルを得意とする監督(サム・メンデスやデビッド・O・ラッセルなど多数)は、演技部門での複数ノミネートを勝ち取る場合が多い。ところが「シェイプ・オブ・ウォーター」は、その両方を成し遂げた希有(けう)な作品となりました。演出の技術、俳優の演技が高い次元でシンクロし、さらには美術や特撮といったクリエイティブ・デザインの部門でも高クオリティな成果を引き出し、全13部門という圧倒的なノミネートを達成したのです。
13ノミネートがどれだけすごいのか調べてみると、90回を数えるアカデミー賞の歴史の中で、これを上回る14ノミネートというのは過去に3本しかありません。1950年の「イヴの総て」、97年の「タイタニック」、そして昨年の「ラ・ラ・ランド」です。「イヴの総て」の時代のことは分かりませんが、「タイタニック」にせよ、「ラ・ラ・ランド」にせよ、その年の映画市場を席巻した作品となったのは記憶に新しいところ。それらに次ぐ存在として、「シェイプ・オブ・ウォーター」もまた、今年の映画マーケットで大きな話題となることは間違いありません。
物語、演技、世界観、3人の批評家に聞いた心に響く要素は三者三様
だが、皆が声をそろえて言う──「本作は、まちがいなく生涯の1本」だと
ベネチア国際映画祭での受賞、そしてアカデミー賞最多ノミネートによって、注目度と評価は業界内ですでに最高潮。多くの映画評論家、映画ライターが、その美しく切ない物語、俳優陣の名演、デル・トロ監督が作り上げた世界観に心をとらわれている。ここでは、そんな作品のとりこになってしまった3人の映画ライターによる、「生涯の1本」たり得る思いをお届けする。三者三様、それぞれが心に響いたさまから、本作のただならない作品力を感じ取っていただきたい。