シェイプ・オブ・ウォーター : 映画評論・批評

シェイプ・オブ・ウォーター

劇場公開日 2018年3月1日
2018年2月20日更新 2018年3月1日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

ファンタスティックな寓話に童話的な残酷さをもたらす、類いまれな〈悪〉の造型

「うつし世は夢 よるの夢こそまこと」とは人外への憧憬を生涯抱えていた江戸川乱歩の箴言だが、その甘美で倒錯的なヴィジョンは映画でいえばジョルジュ・フランジュからティム・バートンに至る幻視者が血脈を受け継いでいるといえよう。そして今、その系譜の最先端にいるのがギレルモ・デル・トロであることは間違いない。

今年のオスカー最有力候補である「シェイプ・オブ・ウォーター」は、フランコ独裁政権下で孤独な少女の非合理な夢想を紡いだ傑作「パンズ・ラビリンス」の寓話世界を1962年、冷戦下のアメリカに置き換え、スケールアップしたような趣きがある。

政府の極秘研究所に務めるイライザ(サリー・ホーキンス)は、アマゾンの奥地から運ばれた“クリーチャー”に惹かれ、恋に落ちる。しかし、冷酷な軍人ストリックランド(マイケル・シャノン)は容赦なく“彼”を虐待し、果ては生体解剖を提案する。一方で、背後では熾烈な宇宙開発競争でしのぎをけずるソ連が暗躍し、イライザは無謀にも“彼”を救出する計画を思いつく――。

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口のきけないイライザ、ゲイである隣室の画家ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)、黒人の同僚ゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)に象徴される肉体的・精神的な外傷、疎外感を抱えたマイノリティたち、さらに醜貌、畸形的でグロテスクな存在への真情あふれる偏愛は、これまでのデル・トロ作品同様、一貫している。

この映画の霊感源は、デル・トロが幼少期に深く魅せられた「大アマゾンの半魚人」(54)である。奇怪でユーモラスなギルマンの形姿、“美女と野獣”のテーマの変奏と、殆どあからさまなオマージュと言ってもよいが、「大アマゾンの半魚人」がカルト化した最大の理由は水面を泳ぐ美女ジュリー・アダムスの下方を、半魚人が、あたかも性行為のように向き合いながら平行して泳いでゆく妖しくもエロティックなシーンゆえである。

“水の形態”という原題に即していえば、この映画の際立った魅力もいくつかの水中撮影にある。とくにイライザが、浴槽のある部屋全体を密閉して水で満たし、“彼”と愛の行為にふけるシーンは幻想的でこよなく美しい。

しかし、映画を観終わってもっとも印象に残るのは、残忍きわまりない軍人を演じたマイケル・シャノンである。マチズモの典型のようなこの男の抱える空虚さ、屈辱感、狂気は名状しがたい味わいがある。デル・トロの描くファンタスティックな寓話がつねに童話的な残酷さに満ちているのは、この類いまれな〈悪〉の造型ゆえなのである。

高崎俊夫

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