ジャッキー ファーストレディ 最後の使命 : 映画評論・批評
2017年3月14日更新
2017年3月31日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
死から始まるJFKの偉人への道。ジャッキーが果たしたレガシーの作り手の役割
いまどきの伝記映画は、特定の時期や出来事に焦点を絞って人物を物語るものが多い。「マリリン 7日間の恋」は「王子と踊り子」を撮影中のマリリン・モンロー、「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」は結婚6年目のグレース・ケリーにフォーカス。スピルバーグ監督の「リンカーン」も、憲法修正第13条成立前後のリンカーンに的を絞っていた。「ジャッキー」が切り取ったのは、ジョン・F・ケネディ大統領(JFK)の暗殺から葬儀までの4日間。ある種の極限状態の中で夫人のジャッキーが果たしたレガシーの作り手の役割をクローズアップしている。
劇中、ジャッキーがテレビ番組の中で言う「美術品は人より長く生きて歴史や美を語る」という言葉が印象深い。ホワイトハウスを古美術で飾ったことで有名なジャッキーは、夫の命が突然奪われた時も、彼の存在が美術品のように永遠に生き続けることにこだわった。まず、暗殺の衝撃を国民の脳裏に焼き付けるために、彼女は血染めのスーツを着続けた。そして葬儀や墓地に関して、閣僚やケネディ家の意向に反する独自の提案をした。そのおかげで、任期3年以下のJFKがリンカーンやルーズベルトに続く人気大統領の地位を獲得できたのだと、この映画は主張する。死から始まるJFKの偉人への道。そのイメージ戦略を、本能的に即興で演出したところにジャッキーという女性の真価を見出した点が、伝記映画としてのこの映画の魅力だ。
ジャッキー役は、本作の演技でオスカー候補になったナタリー・ポートマン。優秀な演出家の才覚を発揮する半面、夫の死によってファーストレディのアイデンティティを剥奪されたジャッキーの体内にじわじわと自己喪失感が広がっていく過程を繊細に捉えた演技が見ものだ。一方、チリ出身のパブロ・ラライン監督は、そんなジャッキーの心理を様式的に描くところに個性を発揮した。とりわけ、JFKが愛した「キャメロット」の曲が流れる中、ジャッキーが幽霊のようにホワイトハウスをさまよう場面は、美しく、哀しく、恐ろしい。
(矢崎由紀子)