SCOOP! : インタビュー
新たな代表作を手に入れた福山雅治 俳優としていま、思うこと
福山雅治にとって、俳優としての確固たる地位を確立した2013年から3年。大根仁監督という同世代を代表するクリエイターとの邂逅を経て、新たな代表作といえる「SCOOP!」を完成させた。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)
「俺たちと同じにおいがするし、これ面白そうじゃないか」。筆者が出版社勤務時代、特に新人の頃に叱咤激励を受けた大ベテランの週刊誌カメラマンの弁だ。第66回カンヌ映画祭審査員賞に輝いた是枝裕和監督作「そして父になる」以来となる主演映画で、福山が演じるのは、かつて写真週刊誌「SCOOP!」で伝説的なスクープを連発しながら現在は芸能スキャンダルを中心に追うフリーの中年パパラッチ・都城静。先のカメラマンは同作の報道用資料に掲載された、ヨレヨレの革ジャン姿の福山を指差しながら相好を崩し、前述のコメントをこぼしたのである。
原田眞人監督が脚本を兼ね1985年に公開した「盗写/250分の1秒」が原作映画。同作の大ファンだった大根監督が、「いつか絶対に撮りたい」と熱望し、長年にわたり構想を温めてきた企画だった。福山は「僕ももとの作品のことは知らなくて、大根さんから『あまり知られていないけれど格好いい映画があって、それをもとに作りたいんですよね』と(VHS版を)いただいたんです」と明かす。
映画は、福山扮する静が写真週刊誌「SCOOP!」の新人記者・行川野火(二階堂ふみ)とコンビを組むなかでスクープを獲得していき、やがて日本中が注目する大事件に巻き込まれていく姿を描く。原作との違いは「僕の役は、原田芳雄さんと宇崎竜童さんが演じられたものを一体化させていると思います。あとは、原作は斉藤慶子さんが主演だったので女性目線で描かれていますが、今回は男性目線。それ以外は大きく変わっている部分はないですかね」(福山)という。
福山は、同学年にあたる大根監督に対し「この年齢で、若者文化というものを皮膚感覚で体得されている。僕らの世代だと、最先端のカルチャーや新しいムーブメントが生まれてきたっていうことを情報として理解していても、そこに対してどうしても億劫になっていってしまう。監督は基本、中目黒を回遊しながら今の時代感を常にまとっている人」と最敬礼。それだけに心の琴線に触れるものがあったようで、「僕ももうちょっと出歩いた方がいいのかな……と今回改めて思いましたね。足を使って肌で、空気で感じなければいけないかなと気づかされましたね」と穏やかな笑みを浮かべる。
また、劇中で福山とコンビを組み、これまでにない化学反応を起こした二階堂についても触れないわけにはいかない。ここ数年、話題作・意欲作への出演を続け、精力的な活動で日本映画界を牽引してきたのは周知の事実が、今作でも目を離すことができない唯一無二の存在感を放っている。福山は、「『なんでもやります!』『なんでも受け入れます!』という覚悟が、覚悟しようと思っていなくとも最初からあるんでしょうね」と驚きを隠さない。そして、ここから更に熱を帯びる。
「なんにでもなれちゃうし、全部受け止めてくれるんです。懐が広いし何をやっても返してくれるので、若いけれど母性すら感じさせる二階堂ふみさんの現場での佇まいが、役を作っていくうえではとても重要な存在でしたし、すごくやりやすかったです。ただ、最近のふみちゃんのインタビューを読むと、『最初から最後まで分からないまま現場にいた』って書いてあって、本当に?って(笑)。どういう風に生きてくると、今の年齢での仕上がり感になったのかなって不思議に思います。マインド的には32、33歳くらいの感覚がしますから」
それにしても、俳優・福山雅治の動向は良い意味でとらえどころがない。「ガリレオ」シリーズの湯川学役は誰もが認める“ハマリ役”だが、そこに執心することなく、どこまでも前向きに突き進み、国境すら軽々と越えていく。それは、ミュージシャンなど「アーティスト」として様々な顔をもつ福山だからこそ成立する動きとも解釈することができる。
「僕はいろいろな活動をさせて頂いているので、役者のお仕事をメインとしてできるわけではない。そこまでの実力もないですし。そうなると、必然的に出演させて頂く本数は少なくなる。少なくなるのなら、好きなこと、やってみたいことをやりたいんです。本当にすごく贅沢な話ではあるんですが、今後も『好きだ』と思える監督さんとお仕事をしていけたら幸せだなと思っています」
今年は故高倉健さんの主演作「君よ憤怒の河を渉れ」(1976)をジョン・ウー監督が再映画化する「追捕 MANHUNT」の撮影に参加し、中国のチャン・ハンユーとダブル主演を務めた。
「撮影は終盤ですが、まだ撮りこぼしている部分があります。終盤なのに台本が完成していないって、一体どういう事だ? という(笑)。これはもう、香港スタイルを大いに楽しむモードになってきています。台本がある、なしの問題ではなくて、カメラがあって、そこにジョン・ウー監督がいらして、そこに(自分が)立っていれば何か映っているだろうみたいな。本当にすごい現場ですよ」
大阪や九州で行われた撮影に思いをめぐらせ、表情を緩ませる。エンタテインメントの世界でトップを走り続けてきたあらゆる経験が、いかなる状況をも受け入れるだけの“土壌”を福山に持たせたのだろう。
「ジョン・ウー監督は、その場で思いついたシーンを撮られるので、台本は当日に渡されることがよくあります。ひょっとしたら効率の良いシステムではないのかもしれないけれど、もの作りとしてはすごくピュアな現場だと思うんです。その現場、そのタイミングで、監督の求めるものにどう応えられるのかに挑戦しながら、楽しませてもらっている状態です。それは、大根監督にしたって、是枝監督にしたって同じことです。特に、監督が脚本を書かれる場合は、その場その場で変わっていきますし。僕はここ数年、そういう監督、作品とご一緒する機会が多くて、もの作りに対して健全で幸せな現場ばかりです。今後も、そういう作品に出合えたらいいなと感じています」
「SCOOP!」という新たな代表作を手に入れた福山が、次はどのようなステージへ駆け上がっていくのかに大きな注目が寄せられている。