オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ : 映画評論・批評
2013年12月17日更新
2013年12月20日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほかにてロードショー
映画史上最もクールでアーティスティックなバンパイアの登場
いま流行のバンパイア映画だが、まったくもってこれはジム・ジャームッシュ映画以外の何者でもない。「デッドマン」のジョニー・デップをはじめ、ジャームッシュ映画の主人公たちがつねに社会の周辺に生きるマージナルな存在であるという点で、彼の作品は一貫している。
今回トム・ヒドルストン(「マイティ・ソー」のロキを甘くしたようなはまり役)扮するバンパイアのアダムは、知的で世の中の主流におもねらない、孤高のロック・ミュージシャンだ。彼は音楽を「売る」ことには興味がなく、ほとんど唯一の理解者はバンパイアの恋人、イヴ(ティルダ・スウィントン)。もっとも、現代に生きる彼らは世界の果てからスカイプでやりとりし合い、特性の「血液アイス」を食べ、クラブに踊りにも行く。緩いテンポのなかで繰り出される特有のブラックユーモアが、決して人間と同化することのない、だがそれでもこの世で生き続けなければならない彼らの深いメランコリーと解け合い、毒を含んだドラッグのような中毒的な魅力を発揮する。
振り返れば、映画史のなかでこれほどまでに高尚でクールでアーティスティックなバンパイアは存在しなかった。そしてここまで読んで頂いた方ならお察しかもしれないが、この映画のバンパイアは現代に生きるアーティストのメタファーであり、ジャームッシュ自身でもあるのだ。ついでに言えば、イヴはジャームッシュを初期の頃から支え続けるパートナーにして映画監督のサラ・ドライバーと見ることもできる。彼らの今日の映画業界における立ち位置を考えるとき、「恋人たちだけが生き残る」というタイトルはその意味で、痛々しいほどにロマンティックな響きを持つ。
(佐藤久理子)