風の谷のナウシカ : 映画評論・批評
2020年9月8日更新
1984年3月11日よりロードショー
宮崎駿監督が描いた世界から伝わる静けさ、風がおこる前の息吹が伝わってくる
2020年6月26日から実施された「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「ゲド戦記」とあわせてのジブリ旧作上映は、コロナ禍の影響で映画館が新作を上映できないなか、東宝サイドからスタジオジブリに相談があり、ずっとお世話になってきた映画館に少しでも役立つならばと即決された(小冊子「熱風」20年6月号より)。「ナウシカ」は「金曜ロードSHOW!」で18回テレビ放送され、ドラマ「TRICK2」内でその回数の多さがネタにされたこともあるが、映画館で見るのは初めての方が多かったはずだ。
初めて映画館で見て特に印象に残ったのは、本作の静けさだった。腐海の底の静謐(せいひつ)な雰囲気や、王蟲の大群が風の谷に押し寄せる寸前の絶望的な沈黙など、無音のシチュエーションが劇場という空間だからこそ胸にせまってくる。宮崎駿監督の作品では、登場人物が何かを決意したりドラマが大きく動いたりするときに風が吹き、人物の髪が美しくなびく場面が多い。そうした風がおこる前の息吹がスクリーンから伝わってくるようだった。ナウシカが身を挺して訴える「分断ではなく融和を」という願いも、あらためて心に響いた。
世界を丸ごと作ったかのような緻密でユニークな世界観は、先行して発表された漫画版の存在が欠かせない。宮崎監督自身が描いた漫画版は1984年の映画公開後も継続し、中断を経ながら94年に完結した。漫画版では腐海が発生した驚くべき理由が明かされ、クシャナのドラマが深く掘り下げられている。本作に魅了された方は、ぜひ漫画版も読んでもらいたい。
最後に「ナウシカ」のトリビアをひとつ。本作は厳密にはスタジオジブリ(制作)作品ではない。日米合作アニメなどを手がけたトップクラフトというスタジオが制作しており、スタジオジブリは「天空の城ラピュタ」制作時に設立された。スタジオジブリ公式サイトの「ナウシカ」のページにも「※制作はトップクラフトです」と記されている。
(五所光太郎)