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◯作品全体
町が変わったんじゃない、俺たちが歳を重ねて変わったんだ。
歳を重ねた仲間たちが集まったあと、アンディが酔っぱらったキングへ冷たく告げる。変わらず自由であり続けようとするキングを突き放すような場面だが、この「変わった」という言葉が物語後半になると別の意味を帯びてくる。
アンディの現在の生活は、昔と違って責任を負う立場となり、向こう見ずな二日酔いをする生活とは変わってしまっている。それなりの地位や家族を持ち、充実したように当初は描かれるが、話が進むうちにアンディは家族に問題があったりしていて、必ずしも「変わった」ことが本人が望んだ通りに行っているわけではないことを示す。
キング自身はアルコール依存の生活から変わろうとしているが、変えられずにいる。つまらない依存症同士の話や夜は強制的に消灯されてしまう環境から変わりたいと願ったことが今回の「パブ巡り」のリベンジに繋がっているのだと思うが、「パブ巡り」の当初は意味もなく酒を飲むだけだった。キングは「始まりの日」からなにも「変えられなかった」人物であることを示す。しかし、物語の後半で強引に変えられてしまうような出来事が起きて、「パブ巡り」が意味を為す、というストーリーラインは実に面白かった。
キングとアンディというキャラクターは「変化」という部分が特徴的で、「始まりの日」から進んできた方向性が異なる。それでも終盤にスポットが当たるのは二人の「変わらなかったもの」だ。最初の「五銃士」を紹介する場面でも言っていたように、二人は強い信頼関係にあった。キングが真ん中にいて、アンディはそれに従う。最終的にはその「変わらなかった」部分への想いが宇宙を突っぱねる契機にもなっていた。
町が変わってしまったのか、自分たちが変わったのか。変わらなきゃいけないのか、変わらない方がいいのか。
いろいろな「変化」が意味を変えながら展開されていく本作品は、すごく多面的で壮大な世界観に見えて、シンプルにそれぞれの根本となる考えや想いの強さが曝け出されている作品だ。そしてそれはまるで、酔っ払った時の純粋な強い感情が暴走している様に似ていた。
◯カメラワーク
・音楽に合わせたカット割りは音楽を重要視するエドガーライトらしく、テンポ感が良かった。特に冒頭は視聴者を世界に飲み込んで行こうという勢いを感じる。
・乱闘シーンの手前から奥へのカメラワークは、複数のアクションを断片的に見せながらスケール感ある映像に仕立てていた。特にこの作品は一回フレームアウトしたキャラがまたフレームインして別のアクションを生む、というようなことをやっているから、断片を見せて別のアクションが生まれる瞬間(誰かが投げた物が別の取っ組み合いに影響を及ぼす...等)だけを効率よく見せるのに効果的だったと思う。
◯その他
・宇宙人から共同体へ入るよう促されるシーンは少し退屈だった。上を向いたキャラを2、3箇所の構図から話し続けるだけというのはなかなか辛い。
この作品も言ってしまえば「セカイ系」に分類されるのだろうか。俺たちは単なる酔っ払いだ、と主張する宇宙人との対話は宇宙を選ぶか自分の気持ちを選ぶかの岐路であったと思うし、宇宙人側の提案の仕方がまさしくセカイ系のそれだった。
作品には関係ないけど、ブルーレイのタイトルメニューにたどり着くまでが猛烈にダルい。配給会社や製作会社のロゴをたくさん見て、タイトルメニューのトロトロした安っぽいアニメーションを見せられ、ようやく操作できる。ブルーレイが出た当初に多い気がするけど、やたらと無駄に凝ってるのが本編を早く見たい人間としては嫌がらせでしかない...